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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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仲介屋 5

 試験二日目。


 今年から、騎士課程でも魔法系の基礎座学が設けられているので、一夜漬け組は大変そうだ。

 そして、それに連なる実技は、一朝一夕では身につかないもので、騎士課程で高得点を取れる人間は限られているだろう。


 「やっと、実技だぜ」


 ロアは午前の座学も問題なかったようで、軽く伸びをして身体をほぐしていた。

 

 「騎士課程だと、明日は一日実技試験になるな」


 幼少より魔法の訓練を積んでいる私も余裕だ。


 「魔法……。」


 ソルは絶望的なようだ。


 「そう言えばリケ。掃除屋稼業の方はどうなんだ?」


 「それはもう少し先になりそうだ」


 「そうかぁっ!くっそ、試験の鬱憤晴らしもしたいところだぜ」


 「明日の実技試験があるじゃないか」


 「どう考えても、オレはお前との試合になるだろうが!」


 「でも、全力は出せるじゃないか」


 「そりゃぁな……ま、手が足りないなら呼んでくれ」


 「派手にヤレるところを考えてる。少し待っていてくれ」


 「分かったよ……ソルはダメそうだな」


 昼食もとらず、テーブルに突っ伏す姿は、あまりにも物悲しくあるが、実技ばかりはな。


 「ソル。私の手を握れ」


 思い出したことがあり、試してみることにした。


 「フリーデリケの手を握ればいいの?」


 「あぁ、それだけだ」


 のっそりと起き上がり、私の手を握るソル。

 何をされるのか半信半疑のようだが、おとなしく言われたとおりにするあたり、可愛げがある。


 ソルの魔力回路とでも言うのだろうか、魔力を発生させて溜めておく場所が体内にあり、そこから魔法を発現させる場所までの通路がある。それが感知できずに上手く魔法が発現させられない者も多くいるのだと、本で読んだことがあった。

 ソルは、その症状かもしれない。


 握られた手から、少量の魔力をソルに流し込む。


 魔力回路なんてのはあくまでもイメージで、別に魔法の発現場所なんて、手や足の先でなくても良い。

 イメージできるならぱ、視界の外にも発現は可能だ。

 超高度魔法と言われている、私と結城結奏が探しているポータルの魔法なんかは、出口側は視界の外に発現するので、そのイメージしやすいのではなかろうか。

 

 「どうだ、ソル。お前の中に流れている、私の魔力を感じるか?」


 「なんか、ぽかぽかしてきた」


 「そうか、今度はお前の魔力で押し返してみろ」


 「押し返す?」


 「そうだ」


 ソルに流し込む魔力の流れに、わずかではあるが抵抗を感じるようになり、徐々に魔力を流し込むことができなくなってきていた。

 そして、最後は、私にソルの魔力が流し込まれることになる。


 「できたっ!」


 「できたな。これで、魔法の発現も楽になろう」


 「ほんと!」


 「確か、火の属性だったな……着火で使う小さな火を作る魔法があったろう、試してみろ」


 「うん……アイン・フンケ(小さい火)」


 手のひらを上に向けてソルがつぶやくと、その上に魔力のチリが集まり、纏まり、小さく揺らめく火が現れた。


 「おぉっ!やったじゃねぇかソル」


 「できた……できたよっ!」


 いい笑顔で喜ぶソルとロア。


 「こんな手があったなんてな」


 「真似するなよ。かなり少ない魔力を流しこまんと、相手の魔力回路を焼き切るからな」


 「えぇっ!?」


 まさか、自分がそんな危険なことをされていたなんてと、驚くソル。

 

 「良かったな」


 ロアはその肩に優しく手を乗せた。

 

 ◆


 午後の魔法実技は、各属性の基礎と言える生活で使う魔法だ。

 私は聖属性の光。

 難なく発現し、試験はクリア。


 本番は明日。

 恐らく、私の相手はロアではなく、トロスト先生だろう。

 修練は続けてきているが、一太刀でも入れることができるのだろうか?


 そう言えば『星屑メモリーズ』のシナリオ中では、魔法課程の試験で私が火属性魔法を暴発させて、校舎の一部を焼くという事件があったはずだ。

 私自身が騎士課程なので、何かをできるわけもないのだが、シナリオの収束で誰かが……なんて、考え過ぎだな。


 ◆


 

 「エギーユ。今夜のメッサーの宿は?」


 治療院の食堂で、エギーユとアナベルに質問をしていた。

 既に日も落ちており、夕飯も済んだ後の治療院の食堂はガラハウと、その手伝いをするラウラとリーザくらいしかいなかった。

 ラトーラは薬の調合でもしているのだろう。


 「今日だったら……金のカニ屋かな」


 「南の娼館街にある宿だよ」


 「そうか。ありがとう」


 二人に例を言って、席を立つ。


 「一人で行くのか?」


 「そうだ。お前たちには次の仕事だ」


 「チッ。いつんなったら……」


 素早くエギーユの額に指を突き立てる。

 

 「これが、躱せるようにならないとな」


 「わーったよ!」


 エギーユはそう言うと頬を膨らませる。

 私よりも一つ年上なはずだが、大きな弟だとガラハウと二人、笑い合うこともある。


 「ではな」


 治療院を後に、王都南側の娼館街へと足を運ぶ。


 王都は東西に大きな城門があり、そこをつなぐ大きな通りに商店が多くあり、その南は荷馬車も預けられるような宿や、旅の者を相手にする娼館などが雑多に立ち並ぶ。

 

 娼館街へと入る前にいつもの仮面を着けていた。

 こういった地域では、その仮面が目を引くものではないのだが、女の一人歩きは別の意味で目を引いているようだ。


 やはり、かなり……そうとうに筋肉質な身体を持つ女が、娼館街を歩いている。

 ただそれだけなのだがな。


 「おい。ねえちゃんはどこの店なんだ?」


 男の顔を一瞥して先を急ごうとするが、肩を掴まれた。

 

 「おい。あんまナメんなよ」


 もしかすると、面白いことになるかもしれない。

 振り向きざま鼻っ柱に掌底を叩き込む。

 

 「ナメるなんて滅相もないが、私を止めるなら相応の覚悟をしてくれよ」


 顔を両手で押さえてはいるが、鼻から垂れ流れる血はそこから溢れ、地に落ちている。


 「おい。どうした?」


 通りの飯屋や宿から男たちが現れる。

 こいつの仲間かなんかだろうか?


 「こいつをやっちまえ!」


 チンピラかと思っていたが、頭目だったようだ。

 ならば……。


 「シュトースヴェレ(衝撃波)」


 男の頭部に衝撃波の魔法をたたき込むと、男は地に崩れ落ち、完全に沈黙した。


 「野郎っ!」


 男たちの一人が声を上げ、こちらに向かってくると、それに反応して何人かが腰のモノを抜く。


 「ならばこちらも……。ハイリゲ・シルデ(聖なる盾たち)」


 聖属性の魔力でできたタワーシールドが八枚、私を囲むように展開される。


 「アンプラレン(衝突)」


 私の言葉で、魔力のタワーシールドが弾かれたように散開し、男たちをなぎ倒していった。

 本当はこんな使い方をする魔法ではない。

 単なる物理防御魔法だが、シールドバッシュのように使いたいと思い、研究を続けていたらできるようになった。

 

 「次はあるのかい?」


 「いや、そこまでだ」


 倒れた男たちを跨ぎ、一人、こざっぱりとした身なりの男が姿を現した。


 「ずいぶんと派手にやったな」


 「あなたは?」


 「こいつらの雇い主だな……ははは。こりゃ、明日の出発は無理かな」


 「そいつは済まなかったな。だが、いい人足斡旋屋なら紹介できるぞ」


 「おいおい。その店の手のものって……訳じゃァなさそうだな」


 「さて、先を急ぎたいのだがね」


 「おっと、失礼。ヴァイデ商会のカールだ」


 「私は白狼。宿はそこかな?後で人足屋を伺わせよう」


 「頼むよ」


 男に背を向け、金のカニ屋に向かう。

 

 金のカニ屋は宿屋で娼館街のメイン通りから、一本路地を入ったところにある。

 宿屋ではあるが、一階は飲み食いのできる酒場となっており、宿泊費の安さを飯代で賄ってしまっているのかもしれない。

 そう思えるほどの賑わいだ。


 さて、メッサーのヤツはどこなのだろう。

 気配察知を展開し、建物全体の人の気配を探索する。

 一階は雑多だが、宿となっている二階に数人。


 メッサーの人相は聞いている。

 面長で細い目。明るい茶色の髪をしている細身で長身の優男らしい。

 ならば、二つの気配がある部屋だろう。


 この賑わいで、誰も私が二階へ上がっていくのを気にしてはいない。

 そんなことよりも、目の前にある美味い飯と美味い酒、それに仲間との語らいの方が楽しいのだ。


 二つの気配が交わる部屋のドア。

 いつも通り力技でノブを捩じ切り、ドアを内側に押して部屋に入った。


 「誰だ?お前」


 予想に反して優男は、別の男と向かい合っている。

 仕事の話であろうか?


 「まだ、名は通っていないが、白狼と名乗っている」


 「コアパーとつながってるヤツね」


 「おい。そりゃ、どういう……。」


 相手の男が慌て出す。


 「少し黙ってろ!」


 「ひぃっ!」


 優男に見えて、なかなかの気迫。

 この世界でそれなりに名が通っているのだから、荒事もこなしてきたのであろう。


 「話をしにきたわけじゃないんだろ?」


 「話しが早くて助かるっ!?」


 メッサーは座っていたはずの椅子を、私に向かって投げつけた。


 やられたな。


 辛うじて飛んでくる椅子を躱したが、メッサーが素早く間を詰めてくる。

 見えにくいが、右手にナイフを握っていることだろう。


 伸ばされる右腕に、予想通りに光るナイフ。

 左手でそれを外にいなし、右肩でタックルを試すが、躱されてしまった。


 「しまっ……。」


 「逃げるが勝ちってね」


 メッサーは私を尻目に、階下の酒場へと駆け去っていく。


 ならば、私は窓を開けて屋根に飛び出す。


 メッサーにはナイフを左手でいなした際に、私の魔力でマーキングしてあったから、気配察知で追跡は可能だ。

 勝ち誇ったように、人が多い通りを駆けていくメッサーを、屋根伝いに追っていく私という構図。


 背後から私がついてこないことが確認できたからか、メッサーは足を緩め歩き出した。


 ずいぶんと余裕だな。


 その背後に飛び降り、頭に衝撃波を叩き込んだ。


 崩れ落ちる彼は、きっと、何が起きたのか分からなかったことだろう。

 

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