仲介屋 7
私はメッサーと共にいた男と共に、口入屋を訪ねていた。
メッサーの方は、治療院の地下に拘束して、ラトーラ特製の眠り薬を飲ませたから、朝まで起きないだろう。
「で、こんな時間に何だ?」
「仕事の依頼だよ」
「おっと、お客様でしたか」
「それと、この男」
メッサーの宿で、ヤツと話しをしていた男も連れてきていた。
別に痛めつけたわけでも、脅したわけでもなかったが、おとなしく私についてきたのだ。
「メッサーのとこにやってた、つなぎ役たな」
「ボス」
「掴めなかったか……まぁ、しょうがねぇな」
「何か追ってたのか?」
「まぁな」
「身柄は押さえてある。明日の夜にでも、西の治療院に来てくれ」
「手際の良いことで」
「それと、ヴァイデ商会のカールと言う男に、人足を斡旋してやってほしい」
「紹介か」
「元の人足達をのしてしまってな」
「派手だねぇ〜」
「それと、これは迷惑料だと、カールに伝えてくれ」
金貨の入った小袋をジーンに渡した。
「承った。急ぎなんだろうな……おい、ウド。十人くらいたたき起こして、連れてきてくれ」
「へい。ボス」
◆
試験三日目。
予想通り、私の相手はトロスト先生だった。
「危ねぇ…リケとは、まだ、やりたくないからな」
「そうか、一回生は魔法が使えないからか」
「剣だけでお前とやりたくはないぜ」
「私だって、ハルバードじゃなきゃ、ロアとはやりたくはないな」
「おっ!」
「懐に入られたら、得意のダガーでも凌ぎきれんよ」
「さてと、先に行くぜ」
「あぁ」
少し頼もしくなったロアの背中を見送った。
◆
「手合わせも久しぶりだな」
「トロスト先生」
「手加減はなしだ」
「する余裕なんて、ありませんよ」
「だといいのだがな…獲物は?」
「ハルバードを」
「ダガーじゃないのか?」
「室内なら、それで凌げるかもしれませんが、こんな広い場所ですから」
「そうだな……よし、行くぞ」
「胸をお借りします」
腰からロングソードを抜き放つトロスト。
私は右半身を前に出し、両手で柄を握る。
動いたのはトロスト。
剣先を少し下げ、間合いを詰めてきたので、下げていた左半身を前に出し、最大距離の突きを繰り出す。
それは、軽く避けられ更に間合いが詰まる。
「ふんっ!」
柄の先を脇に挟み込み、右回転でハルバードを薙ぐ。
トロストは剣で弾き上げた。
そこから振り下ろされる剣戟。
弾き上げられたハルバードの柄を右手で掴み、振り下ろされるロングソード目掛けて振り下ろす。
トロストの剣戟は逸らせたが、それすら助力に使い身体を回転させ、再び打ち込んでくる。
流石だな……だが。
地面に突き立つハルバードを支点に、トロストを棒高跳びの要領で飛び越えて後ろをとった。
着地と同時にハルバードを突き込むが、浅い。
トロストも着地と同時に、更に身体を回転させロングソードで、私の突きを払う。
切っ先が逸らされるが、柄を立て、突きの勢いそのままに体当たりを試す。
たが、それすらも剣で受けられてしまう。
「ヒヤヒヤするぜ!気が抜けねぇ」
「しゃべる余裕はあるんですね」
「パワーで、女の子には負けられないっての!」
魔力がトロストの全身に巡るのを感じた。
身体強化だ。
咄嗟に魔力を解放するが、一瞬遅かった。
打ち合わせた剣に弾き飛ばされる私。
宙で後転し着地に備えるが、目をトロストに戻したところで、遅いことを悟る。
間合いを電光石火の速さで、詰めるトロストの姿が目に映ったからだ。
片手をついて着地をすると、私の首筋に剣が当てられる。
「参りました」
「ふぅっ……まだ、負けられんよ」
ロングソードを腰に戻しながら、トロスト先生がそう言った。
「まさか、あのタイミングで、身体強化を使われるとは思いませんでしたよ」
「魔法じゃないからな」
「こちらに来て、敵わない人が増えて大変ですよ」
「いざとなって、お前を止められなかったら、それこそ大変だろ?」
「違いない」
「試験は最高得点だ。お疲れさん」
「負けたのにか?」
「お前ね。俺だって第二騎士団の団長だぞ?」
「そうでした。失敬」
◆
治療院の食堂で皆と夕飯をとっていると、表のドアが叩かれた。
「こんな時に誰だい!」
食事を邪魔されたガラハウは、文句を言いながらも席を立とうとした。
「私の客だ。中座するが、食堂の扉は閉めておくように」
「分かったよ」
オオカミの仮面を着けてから、食堂を出て、玄関ドアへと向かう。
扉を開けると、予想通りコアパーのジーンと、昨夜の男が立っていた、
「ようこそ」
「ここが根城って訳かい?」
「根城は別にある」
「そうかい」
「付いてきてくれ」
ジーンとウドの二人を連れて、治療院の地下へと案内する。
地下はひんやりと肌寒く、薬やその原料の保管庫として使われているが、一つだけ格子のはまった扉があった。
そこに、メッサーを拘束しているのだ。
「ここだ」
ドアの錠を外し部屋の中に入る、
「ほんとにいやがったな」
後ろ手に縛られ、転がされているメッサーを見て、ジーンはそう感想を漏らした。
「聞きたいことがあるなら、私は外すが?」
「いてもらって構わねぇよ」
ジーンはメッサーに噛ませていた猿ぐつわを外し、顔を上げさせる。
「お前。うちで回した女の身柄をどうした?」
いつものお調子者といった雰囲気はなく、凄みをきかせたジーンに、その世界の厳しさを感じた。
「じ、ジーンっ!?」
「おい。いつからそう呼べる仲になったんだ?」
「ジーンの兄貴」
「だよなぁ……。て、うちから斡旋した女をどうした?」
「そ…それは」
メッサーはあからさまに目を逸らし、動揺を隠せていない。
何かしら、やっちまった結果になったのだろうな。
メッサーの近くにしゃがみ込み、左手で髪を掴むと、ジーンの方を向かせてやる。
ちゃんと、顔を見て話し合った方が、互いのためだろうと言う、私の気遣いだ。
「言えねぇことなのか?」
「……。」
この期に及んで、何をためらってるのだろうか?
顔面に掌底を一発。
鼻が折れる感触と共に、生暖かい液体を感じた。
「おい……気が早いって……。」
ジーンが私を咎めるように言うが、喋れなくなることを心配してのことだろう。
しかし、掌底をした手を上げれば、傷はなく、鼻血の跡がわずかに残るのみ。
掌底をした直後に癒しの魔法を使ったからだ。
「そういうことかよ……もう一度聞くぞ、女をどうした?」
「回復はしてやるが、お前が壊れるまでやってからでも、こちらはいいんだぞ?」
冷たく言い放つ。
「……アルツナイのヤツらに売った」
「はぁ?何してくれてんだ!お前」
ジーンがメッサーの襟元を掴み上げ、私から身柄を奪うと、その顔面に、一度と言わず、二度、三度と、その拳を叩きつけた。
ジーンの肩に手を置き、その怒りを共にすることはできないが、少しの慰めにはなろう。
「いつだ!いつ売りやがった!!」
「一昨日の……晩」
ジーンはメッサーを投げ捨てると、開け放してあったドアから駆けていく。




