仲介屋 6
「エギーユ。今夜のメッサーの宿は?」
治療院の食堂で、エギーユとアナベルに質問をしていた。
既に日も落ちており、夕飯も済んだ後の治療院の食堂はガラハウと、その手伝いをするラウラとリーザくらいしかいなかった。
ラトーラは薬の調合でもしているのだろう。
「今日だったら……金のカニ屋かな」
「南の娼館街にある宿だよ」
「そうか。ありがとう」
二人に例を言って、席を立つ。
「一人で行くのか?」
「そうだ。お前たちには次の仕事だ」
「チッ。いつんなったら……」
素早くエギーユの額に指を突き立てる。
「これが、躱せるようにならないとな」
「わーったよ!」
エギーユはそう言うと頬を膨らませる。
私よりも一つ年上なはずだが、大きな弟だとガラハウと二人、笑い合うこともあった。
「ではな」
治療院を後に、王都南側の娼館街へと足を運ぶ。
王都は東西に大きな城門があり、そこをつなぐ大きな通りに商店が多くあり、その南は荷馬車も預けられるような宿や、旅の者を相手にする娼館などが雑多に立ち並ぶ。
横浜の福富町のような地域に近いかもしれないなと、三十路時代の記憶を久々に覗いた。
これも、シナリオのことを、思い出したせいかもしれないな。
娼館街に入る前にいつもの仮面を着けていた。
こういった地域ては、特に目を引くものではないようではあるが、別の意味で奇異の目は引いているようだ。
やはり、かなり……そうとうに筋肉質な身体を持つ女が、娼館街を歩いている。
ただそれだけなのだがな。
「おい。ねえちゃんはどこの店なんだ?」
男の顔を一瞥して先を急ごうとするが、肩を掴まれた。
「おい。あんまナメんなよ」
もしかすると、面白いことになるかもしれない。
振り向きざま鼻っ柱に掌底を叩き込む。
「ナメるなんて滅相もないが、私を止めるなら、相応の覚悟をしてくれよ」
顔を両手で押さえてはいるが、鼻から垂れ流れる血はそこから溢れ、地に落ちている。
「おい。どうした?」
通りの飯屋や宿から男たちが現れる。
こいつの仲間かなんかか?
「こいつをやっちまえ!」
チンピラかと思っていたが、頭目だったようだ。
ならば……。
「シュトースヴェレ(衝撃波)」
男の頭部に衝撃波の魔法をたたき込むと、男は地に崩れ落ち、完全に沈黙した。
「野郎っ!」
男たちの一人が声を上げ、こちらに向かってくると、それに反応して何人かが腰のモノを抜いたのが、視界に入った。
「ならばこちらも……。ハイリゲ・シルデ(聖なる盾たち)」
聖属性の魔力でできたタワーシールドが八枚、私を囲むように展開される。
「アンプラレン(衝突)」
私の言葉で、魔力のタワーシールドが弾かれたように散開し、男たちをなぎ倒していった。
本当はこんな使い方をする魔法ではない。
単なる物理防御魔法だが、シールドバッシュのように使いたいと思い、研究を続けていたらできるようになった。
「次はあるのかい?」
「いや、そこまでだ」
倒れた男たちを跨ぎ、一人、身なりの良い男が姿を現した。
「ずいぶんと派手にやったな」
「あなたは?」
「こいつらの雇い主だな……ははは。こりゃ、明日の出発は無理かな」
「そいつは済まなかったな。だが、いい人足斡旋屋なら、紹介できるぞ」
「おいおい。その店の手のものって…訳じゃァなさそうだな」
「さて、先を急ぎたいのだがね」
「おっと、失礼。ヴァイデ商会のカールだ」
「私は白狼。宿はそこかな?後で人足屋を伺わせよう」
「頼むよ」
男に背を向け、金のカニ屋に向かった。
金のカニ屋は宿屋で娼館街のメイン通りから、一本路地を入ったところにある。
宿屋ではあるが、一階は飲み食いのできる酒場となっており、宿泊費の安さを飯代で賄ってしまっているのかもしれない。
そう思えるほどの賑わいだ。
さて、メッサーのヤツはどこなのだろう。
気配察知を展開し、建物全体の人の気配を探索する。
一階は雑多だが、宿となっている二階に数人。
メッサーの人相は聞いている。
面長で細い目。明るい茶色の髪で細身の長身の優男らしい。
ならば、二つの気配がある部屋だろう。
この賑わいで、誰も私が二階へ上がっていくのを気にしない。
そんなことよりも、目の前にある美味い飯に美味い酒、それに仲間との語らいの方が楽しいのだから……。
二つの気配が交わる部屋のドア。
いつも通り力技でノブを捩じ切り、ドアを内側に押して部屋に入った。
「誰だ?お前」
予想に反して優男は、別の男と向かい合っている。
仕事の話であろうか?
「まだ、名は通っていないが、白狼と名乗っている」
「コアパーとつながってるヤツね」
「おい。そりゃ、どういう……。」
相手の男が慌て出す。
「少し黙ってろ!」
「ひぃっ!」
優男に見えて、なかなかの気迫。
この世界で、それなりに名が通っているのだから、荒事もこなしてきたのであろう。
「話をしにきたわけじゃないんだろ?」
「話しが早くて助かるっ!?」
メッサーは座っていたはずの椅子を、私に向かって投げつけた。
やられたな。
辛うじて飛んでくる椅子を躱したが、メッサーが素早く間を詰めてくる。
見えにくいが、右手にナイフを握っていることだろう。
伸ばされる右腕に、予想通りに光るナイフ。
左手でそれを外にいなし、右肩でタックルを試すが、躱されてしまった。
「しまっ……。」
「逃げるが勝ちってね」
メッサーは私を尻目に、階下の酒場へと駆け去っていく。
ならば、私は窓を開けて屋根に飛び出す。
メッサーには私の魔力でマーキングしてあったから、気配察知で追跡は可能だった。
勝ち誇ったように、人が多いとおりを駆けていくメッサーを、屋根伝いに追っていく私という構図。
背後から私がついてこないことが確認できたからか、メッサーは足を緩め歩き出した。
余裕だな。
その背後に飛び降り、頭に衝撃波を叩き込んだ。
崩れ落ちる彼は、きっと、何が起きたのか分からなかったことだろう。




