仲介屋 3
学院は、テスト期間に突入した。
今日から三日間で、座学と実技の試験が行われる。
各教科後の休憩時間には、頭を抱えるものや、次の試験の最終詰め込みに勤しむ者、全てを悟った者とで、何ともカオスな空間になっていた。
私は特に問題もなく、試験を進めているので、特に面白いこともない。
一日目が終わる頃には、骸と化したクラスメイトたち。
それは、ソルやロアも例外ではなかった。
「いやいや。一日でやる量じゃない」
「ほんとにそうだよ!」
「疲れた頭には、甘いものがいいらしいぞ」
「マジか!」
「食堂にあったね」
「リケも行くか?」
「私は行くところがあってね」
「そうなんだ」
ソルはしょぼんとした。
なんだか、大型犬が遊んでもらえない時のようだ。
「男だけってのもな……。」
「魔法課程の二人にも、声をかけたらいいじゃないか」
「それもそうだ」
「行こう、行こう」
フリスビーを咥えてきた、レトリバーなのかな?
「私はこれで」
「一人で抱え込むなよ」
「また、誘ってよね」
二人を背中に、教室を出た。
今日は『口入屋』に顔を出そうと決めていたのだ。
手下があんな感じだったから、ボスと呼ばれる人に会うのが楽しみになっていた。
◆
日の傾き始めた、王都東側の商店街と呼ばれている通り。
中流街と労働者街の中間に位置し、王都でも一、二を争う人気のスポットだ。
人通りも多く、王都の住民だけではなく、王国外からの商人や傭兵に冒険者と様々な人が歩いている。
私はこの通りにはいる前に、白いオオカミの仮面を着けているが、兜の一種とでも思われているのだろう。人目を引くことはなかった。
通りに面した石造りの三階建ての建物。
そこに『口入屋』の看板が出ていた。目的の建物だ。
地上階の大きく開いた間口を潜り店内に入ると、カウンターで店員と話すものや、壁に張られた紙…依頼内容が書いてあるのだろう…を見ているもの、顔見知りと話している者と様々だ。
だが、皆、体つきも良く、力仕事にはうってつけと言った風体をしていた。
私は空いているカウンターに進み、内側でニコニコとしている受け付けの女に声をかけた。
「白狼が来たと、ボスに伝えてくれないか?」
「えぇっと……どういったご要件で?」
「顔見せだ。これから世話になるのでね」
「少々、お待ちください」
こういった店では珍しく、言葉遣いも丁寧だ。
教育がしっかりしているのだろうか?
カウンターで待っていると、先ほどの受け付けの女が、カウンターのこちら側まで来た。
「ご案内いたします」
「ありがとう」
女について、カウンター脇の階段を登り、二階の通路を進む。
ドアは通路を挟んで四つ。
そのうちの右手奥のドアの前で止まると、女はドアをノックした。
「入れ」
部屋の奥から、予想外に綺麗なよく通る声。
こういった集まりのボスと言えば、野太いダミ声という先入観こあったが、改めなければなるまい。
「白狼様をお連れしました」
「ありがとう。下がって良いよ」
窓を背に、執務机についている男。
顔立ちは細面で、涼やかな目元に、よく手入れされていそうな金色の長い髪。
役者と言われてもおかしくない見た目だか、隙のない気配を感じる。
「さて、白狼くん…だったかな。私に何かあったかな?」
「初めまして。故あって白狼と名乗っているが、本名はご勘弁を」
「仮面まで着けて……そうとうな用心だな」
先ほどまでの柔らかな顔が崩れ、あからさまな不機嫌さを表に出してきた。
「何、別にコアパーといがみ合おうって気は、サラサラないんだ」
「うちのヤツが、少し世話になったみたいだが?」
「こちらの早とちりで、彼らには迷惑をかけた。申し訳ない」
「……ったく。食えねぇな、お前さんはよ。それで、本題は何よ?」
執務机から立ち、ドア近くの応接セットに移動しつつ、私にもその席を勧めた。
断る理由もないので、彼の向かいの席に座る。
「何か飲むか?」
「お気遣いありがとう」
テーブルの上に置かれた鈴を鳴らす。
すると、先ほどとは違う女が現れ、彼女に飲み物を出すよう申し付けた。
「今日、こちらに伺わせてもらったのは、顔は出していないが、顔見せなんだ」
「うちと付合いを持ちたいってことでいいのか?」
「そう取ってもらって構わない。先日の件での謝罪もあるのだが、何よりも彼らの話しを聞いて、気に入ったというのもある」
「そりゃ、ありがたいね」
「飲み物をお持ちしました」
先ほどの女が、ティーセットをテーブルに置いて、出ていった。
「仕事中なもんでね。酒じゃないが、勘弁してくれ」
そう言ってポットから、主自ら注いでくれた。
「いい茶葉を使っているな」
カップから立ちのぼる湯気と共に、お茶の芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
「まあね。こういう仕事をやってると、荷主からもらえたりするのよ」
「役得ってやつか」
「でだ。お前さん。ただ来たわけじゃないんだろ?」
「コアパーのボスと見込んで、お願いに来たんだ」
「そりゃ、どうも」
「私はこの街の掃除をしている。できればコアパーとは良い関係でいたい」
「シノギをよこせってんじゃないよな」
「シノギについては、コアパーのやっていることとは、ぶつかることはない」
「そうかよ。じゃぁ、なんだ?」
「近いうちに、私はアルツナイと敵対する」
「おいおい。バカなのか?」
「大まじめだ。掃除屋稼業の大きな仕事の一つとしてね」
「それで、うちに迷惑がかかるかもしれない。そういうことか」
「白狼と言う名前を前に出しては行くが、どう考えても、遺恨のあるコアパーに疑いがかかってしまうだろう」
「そりゃ、そうだろうよ。うちくらいなもんだからな」
「それを伝えに来たのだよ」
「ご丁寧にどうも……まぁ、アルツナイに関しちゃ、オレも思うところはあるが、うちは人足を手配するだけの口入屋だ。組織間の抗争なんてのは、ゴメンなんだよ」
「そうだろうな」
「ここで、その芽を摘んじまってもいいんだぞ?」
「やれるものなら……。」
ティーカップを口に運び、ニコリと微笑んで見せるが、魔力を全身から放出してみせた。
「ここから掃除を始めても、私は構わない」
「バケモノかよ……分かったよ」
私の魔力に当てられ、生唾を飲む男。
「ご理解いただけたようで、何よりだ」
「あいつらを潰すのに、手を貸せとかじゃないんだろ?」
「潰して消すのは、私の仕事だ」
「なら、結構」
「今後、荷役の仕事なんかも頼むかもしれない」
「そっちは本業だ。いつでも来てくれ」
「では、今日はこれで……そう言えば、名を聞いてなかったな」
「ジーン。ジーン・コアパーだ」
「白狼だ。よろしく頼むよ」
そう言い残し、コアパーの事務所を後にした。




