仲介屋 2
このいざこざに合点がいった私は、男の上から降りて、手を差し出した。
一瞬、不思議そうな顔をした男だったが、私の手を取ったので、そのまま引き上げて立たせてやる。
「手荒な真似をして済まなかった」
そう言って、切りつけた男の耳に癒しを与えだ。
「神官様で?」
男は治った耳を確かめながら、私に聞いてきた。
「いや、しがない治療師だよ」
「あ、あの。私はどうなるんでしょう?」
逃げればよかったのに、女はおずおずと私たちに自身の処遇を聞いてくる。
意外と図太いのかもしれないな。
「お前は、まだここで客取りをするのか?それとも、まともな仕事があれば、そちらで働くのか?」
「えっ!?仕事。もらえるんですか?」
図太いな。
「まぁ、待て。少し失礼するぞ」
人物鑑定を使い、女のステータスなどを確認した。
レベルや能力値は年相応で、一応、教会の儀式を受けて、魔法属性に関連したスキルも持っていた。
ちなみに属性は火だ。
攻撃のイメージが強い火属性ではあるが、人の生活に密接に関係している属性でもある。
火起こしや湯沸かし、物をほどよく温めたりと、使いようによっては重宝される属性だ。
「お前、剣は使えるのか?」
「私は魔法だけです……。でも、マッサージとかは得意なんです」
「なるほどな……良し、西の中流街に新しくできた治療院がある。明日、そこを訪ねろ。話はしておく」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってお辞儀をすると、名も名乗らずに駆け出していってしまった。
「すげぇ、女だったな」
コアパーの二人も啞然としていた。
「お前たちのシノギも邪魔して悪かった。取り敢えず、あの女は私が雇うことにしたから、今日までの分てことで」
落とした荷物の前にしゃがみ込み、中から財布を取り出すと、中から銀貨を十枚とりだし、立ち上がる。
「これで足りるか?」
「いやいや。これじゃ、もらいすぎですぜ」
なんとも正直で、低価格。
「多い分は、お前たちへの迷惑料だと思ってくれ」
「そういうことでしたら……。」
男は連れの男に銀貨を三枚渡し、残りを自分の懐へ入れた。
「ついで悪いのだが、コアパーのボスとはどこにいけば会える?」
「たいてい事務所にいやす……東の商店街に『口入屋』って看板が出ていやす」
「大っぴらにやってるのか?」
「うちは血の気の多いのがいやすが、もとは現場に人足を送るのが仕事ですぜ」
「そうか、勘違いしていたな」
「まぁ、アルツナイの連中と、女の身柄でイザコザが多くて、ヤクザ者と間違われたりはしますがね」
いや、見た目だろ。
そう、ツッコミそうになるのを、抑えた。
「分かった。近いうちにお会いしたいと、ボスに話しておいてくれ」
「へい……。お名前はなんと?」
「そうだな……白狼と名乗っておこう、色々と面倒なのでね。それで、勘弁してくれ」
「分かりやした。ボスと姐さんにそう伝えときやす」
「頼んだよ」
私は足元の荷物を手に取り、家路についた。
思わぬ収穫。
コアパーとのコネクションが構築できそうだ。
ボスとの話の流れによっては、協力関係が結べるかもしれない。
◆
私は学院へ向かう前に、昨日の女のことをラトーラに話しておこうと思い、治療院の方へと向かっていた。
早朝の街は、職場に向かう人や、商売の準備をする人で、それなりの賑わいをみせている。
それに、労働者の朝食なのか昼用の弁当なのか、見慣れない屋台も多く、なんとも美味そうな匂いが漂っていた。
「おはちゃん。そこの焼いた魚を三つおくれよ」
屋台の一つから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
声の方を見れば、ガラハウの姿。
朝食用に、何かを買っているのだろう。
「おはよう。ガラハウ」
「ひゃっ!?リケじゃないか。こんな朝早くからどうしたんだい?」
「ラトーラに話しがあってな」
「そうなのかい……なら、朝飯も一緒にどうだい?」
「せっかくの誘いだ。いただこう」
「よし来た!おばちゃん。もう一つ追加して」
威勢の良いガラハウの声に、屋台の御婦人も笑顔になる。
二人て屋台から治療院に向かう道すがら、他愛もない話しに花を咲かせる。
アナベルが勉強をしないだの、エギーユは服を直ぐ汚すだのと文句を言いつつも、どこか楽しそうであった。
「あら、フリーデリケ様。おはようございます」
治療室の奥が食堂になっている。
テーブルにはラトーラだけがついていたが、そのラトーラも書類を広げ、そろばんを弾いていた。
「すぐに用意しちまうから、お茶でも入れててくれよな」
ガラハウはそう言ってキッチンに消えていく。
「ラトーラ。少し面倒を見て欲しいヤツが、昼にでもくると思う」
「先日来た、ラウラとリーザもよく働いてくれて、とても助かっていますが?」
「今度のヤツは通いになる。マッサージが得意な火属性持ちだ」
それを聞いて、ラトーラが目を輝かせる。
「それでは、例の方も進めてよろしいのですね」
ラトーラがやりたがっていた、高所得層向けの美容関連の施術。
ラトーラ自体はマッサージ等が苦手で、痛いか、効かないかになってしまう。
しかし、自身で調合したハーブで香り付けしたオイルを、何とか使えないものかと、カニアにいた頃から言っていたのだ。
「火属性持ちだから、温浴や蒸気蒸しなんてのもできるぞ」
ハーブオイルだけではなく、美容液や入浴剤にも展開ができそうだ。
ラトーラの目は、そう物語っていた。
「名前は聞きそびれてしまっていてな、ちょっと図太いところがあるラトーラと同じくらいの歳の女だ」
「畏まりました。しっかりと躾けてみせます!」
こんなに意欲に燃えるラトーラも、珍しい。
「頼んだよ」
「あれ?お茶も淹れてないのかよ。しょうがないねぇ」
朝食を持って出てきた、エプロン姿のガラハウが、テーブルを見て言った。
「ほら、ラトーラも書類を片付けて」
「はいはい」
「バカ者共は起こさなくて良いのか?」
「あいつらはいいんだよ。どうせ昼ごろまで起きてこないさね」
「私はラウラとリーザを呼んできますね」
「二人は、もう働いているのか?」
「患者さんが来る前に、機材や薬を揃えていてくれるのですよ」
ラウラとリーザも席について、治療院の朝ご飯となった。
サンドと、スープというシンプルな内容ではあるが、野菜もふんだんに使われていて、味付けも好みだ。
屋台で買った魚は、解されて刻んだピクルスと和えられ、パンに挟まっている。
「ガラハウは、いい嫁になりそうだな」
「なんだい。藪から棒に」
「ほんとに助かってますよ」
私とラトーラからの波状褒めに、顔を赤らめて、そっぽを向いてしまった。




