再始動 3
週末となり学院は休みなのだが、治療院の手伝いもあって、そちらへ向かっていた。
「お嬢。あいつら、本当に大丈夫なんですか?」
「そうなんだよフィッツ。少し、エギーユとアナベルの面倒を頼まれてくれないか?」
「また、どうして」
「王都に慣れてないってのもあるが、エギーユは少し使えるようになって、先走りそうでな」
「お嬢にいいとこ見せたいわけだ」
「カニアで痛い目を見てるから大丈夫だとは思うが、せめて、お前の太鼓判が欲しい」
「あいあい。任されましたよ」
「ヤバくなったら手を出すくらいで構わない」
「了解」
宿屋を改装した治療院に到着した。
これは、私が学院に入学する前から、動いていたのが分かる。
なにせ、到着から一週間で開院しているのたから、物件探しから、改装まで手配済だったのだろう。
「ラトーラ。着いたぞ」
「フリーデリケ様」
「バカ者二人は?」
「ボロを着て、早くから出ていきましたよ」
ラトーラの言葉に、頭が痛くなる。
「こりゃ、確かに。そっちは任せとけ」
フィッツが踵を返し、街へと消えていった。
「ラトーラ。少し聞きたいことがある」
「えぇ。なんでしょう」
私は少し前に、探索を失敗した薬について話しをした。
やはり、あの失敗を引きずってしまっているな。
「あぁ……。その薬ですが、カニアにも少し入ってきていたようですね」
「出どころを掴んではいないか?」
「トーマスさんに聞いてみないと、私の方では……。ですが、オットーさんとトーマスさんが、その元締めを捕まえてましたね」
「やはり、外から入って来ていると見るべきか……。」
「国境沿の難民街から、持ち込まれたという話をされていましたね」
「そうか」
私の敵は王都の外。
もしかすると、西側諸国にまで足を伸ばさなければならないのかもしれない。
治療院は開院直後ではあったが、それなりに訪れる人もいた。
治療院に来た人の多くが口にするのことは、治療費や薬が高くて、治療院には足を運べなかったということだ。
今回は貧民区画ではなく、中層市民が集まる収入もしっかりとある区画での活動であるのに、この有様だ。
やはり、教会や薬剤を扱う組合なんかを、絞り上げる必要がありそうだと感じた。
待合室の患者もいなくなり、窓から街を望めば、日も傾き始め、色付いている。
一日診察をしていたが、ラトーラの処方する薬ならば、一月も飲めば治っているような患者でも、長く患っていた者が多くいた印象だ。
これからも、評判を聞いて、患者は増えることだろう。
妨害もありだろうが、その前に芽は摘んでしまいたいものだ。
「初日はこんなもんかな」
「おつかれさん。お茶にしようじゃないか」
受付をやっていたガラハウか、治療室に顔を出した。
「甘いものがあると嬉しいですね」
ラトーラも、ずいぶんと処方していたようで、首のあたりに手を当てていた。
「向かいのパン屋さんで、焼き菓子を買っておいたよ」
ガラハウが、手に持っていた小さなバスケットを掲げてみせる。
「いいな」
「あれ?結奏は来てなかったのか」
ガラハウが少し残念そうに言った。
「今頃は、トーマスにしごかれて、ベッドに倒れてるだろうよ」
「違いないね」
ラトーラの淹れてくれたお茶で、慎ましやかではあるが、お茶会を楽しむ。
学院では男だらけなので、同世代の女子と話すのも悪くはないな。
◆
治療院でのお茶会を楽しんだ後、屋敷への帰路についた。
本来はフィッツを待つべきなのだが、一人でも問題はない。
と、そう思っていたが、尾行されている。
気配察知を展開し、その追跡者の位置を特定しておこう。
しかし、尾行される謂れは……あったな。
薬関連の探索で、末端を十人近く拉致したのだ、それなりの報復があってしかるべきか。
左手に程良い広さの路地が見えた。
そちらへと足を進めると、思惑通りについてきている。
路地に入り、相手から姿が見えなくなる一瞬。
全身に魔力を流し、身体能力を上げると、両側の壁を交互に蹴って建物の屋根へと登る。
そして、路地の入り口側へ移動して、つけてきた相手を待った。
念のため持ち歩いていたオオカミの仮面を着ける。
顔を見られているから今更だとは思うが、今後の活動では必ずつけるようにすると決めていたのだ。
思ったように男二人が路地に入ると、私がいないことで焦りからか、その場に留まり辺りをキョロキョロと見回している。
さて、建物は三階建て、強化されている体ならば問題ないだろう。
男の一人にめがけて飛び降りる。
そして、頭部に両手を組んだ手を振り下ろした。
ドサッ。
倒れた男の音に、もう一人が反応して振り向こうとしたが、遅い。
こちらは先に動いている。
首を掴み壁に叩きつけた。
「お前。誰をつけてたんだ?」
「知らねぇ、たまたま、ここに入って……。」
壁にこすりつけるように持ち上げる。
「痛てて……離せ、離してくれ」
「誰をつけてたんだ?次はないぞ」
そう言って、男の右手の指を掴む。
「あそこの治療院から出てくる女をつけろって……な、離してくれよ」
「誰に頼まれたんだ?」
「し、知らねぇ」
「お前は、知らないやつからの頼みを聞く、善良なものなのか?」
「へへへ…そ、そうなんでっさぁあああ〜っ!」
男の指を力いっぱい握ってあげた。
「次はないって言わなかったか?」
「きょ、教会のやつだよっ!ほんとだ、だから、だから」
殺さないでくれと、続くのだろう。
そう言った人間を、お前は何人も酷い目に合わせていたのではないかな。
ドサリ。
男を投げ捨てる。
私は、教会に用事があったことを思い出した。




