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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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再始動 5


 教会が強襲されたという噂は、盛大な尾ヒレと共に王都に広がったようだ。

 学院から帰りつくと、別邸執事のフェリックスからお父様が呼んでいると伝えられた。


 コンコン。


 「入りなさい」


 すぐさま声がかかった。

 ドアを開けて中へと入る。


 「フリーデリケ。教会から、国に金が返ってきたんだが、心当たりはないか?」


 探りだろうか?

 どのみち、真相は分かっているのだろう。

 しかし、私はフリーデリケ・アスカニアとして、教会を制圧したわけではない。

 白いオオカミの仮面を被った魔王だ。


 「私としては、心当たりは無いな」


 「ふ。私としてはときたか……まぁ、良い。これで、静かになってくれれば良いのだからな」


 「では、これで」


 「最近はつれないな」


 「結城結奏との魔法研究もあるからな」


 「結奏くんは順調なのかい?」


 「まさか、王子があそこまで奥手だとは思わず…陛下にも言っておいて欲しい」


 「ニコラウスも頭を抱えておったよ。あれでは婚約などできんとね」


 「結城結奏の方は順調だ。なにせ、師匠が良いからな」


 「トーマスを呼んでおったと思えば……まぁ、好きにやりなさい。私もニコラウスもいる」


 「王室公認は嬉しいが、もしかすると脅威になるかもしれませんぞ」


 「その時はお手柔らかに頼むよ」


 「仰せのままに」


 大仰にお辞儀をしてみせ、部屋を辞した。


 ◆ 


 「皆。自分の役目と配置は頭に入っているな」


 私の問いかけに、緊張を隠せない面々が頷く。


 私の前には、ロア、ソル、エギーユにフィッツと新旧メンバー混成の強襲班が顔を揃えていた。

 念のため、皆にも顔がバレないよう、マスクやフードを着けさせている。

 私は枢機卿の尋問で着ていた白のスーツに濃紺のマント、それに白いオオカミの仮面という姿。

  

 「俺はエギ坊と裏を固めりゃいいんだよな」


 エギーユのお守り役兼務なフィッツが、配置の確認と、緊張の緩和を目的に声を上げる。

 歴戦の兵は違うな。

 

 「暇なら裏からも突っ込め。今回は強襲だ。派手にやる」


 今回は街のチンピラ相手で、人数も少ない。

 見せしめも兼ねて、派手にやる計画だ。 


 「正面はソル。お前が先鋒だぞ。派手にノックしてやれ」


 ソルの胸を軽く叩く。

 

 「チンピラ十人の屋内戦だ。相手じゃないな」


 こちらも野盗狩りの経験を持つロアの言。

 

 「油断してると、ソルの大剣が飛んでくるぞ」


 「ボクも気をつけるけどね……巻き込んだらゴメン」


 ソルも緊張が解けたようだ。


 「正面組は連携確認の意味もある。六割程度で互いの動きを見ていこう」


 「ちぇ〜。オレも正面がよかったぜ」


 一番長い付き合いのエギーユが、不満を漏らす。

 

 「エギーユ。フィッツはトーマスにも引けを取らないスゴ腕だ。良く学んでおけ」


 「わぁ〜ったよ」


 「内部に子供が囚われてるかもしれん。そちらを確保しながらの作戦だ」


 「それもあったか」


 「良し。配置につけ」


 三人と二人のチームが建物の表と裏に分かれ、突入に備える。

 

 私たちは正面のドアが見える位置につき、しばらく待つ。

 しかし、見張りも何もない。

 小物すぎて、警戒するということを知らないのだろうが、知らぬまま、この世と別れてもらう。


 「そろそろ良いかな?」


 「大丈夫だろう。行け、ソル」


 ソルが大剣を担ぎ、建物の正面扉に走り出した。

 その後を少し離れて、私とロアが左右に分かれて追う。


 走るままに、正面扉の前で担いでいた大剣を両手で持ち、右後方にテイクバックさせ、左足を強く踏み込むと、それを軸に回転し、大剣を扉に叩きつける。


 「おっじゃましま〜す」


 小洒落た挨拶付きの叩きつけ。

 やるな、ソル!


 私とロアはソルの影から飛び出し、建物へと飛び込むと、ホールでカードに興じていた男三人に襲いかかる。

 ここは、双剣のロアに花を持たせよう。


 右手の一人が反応するよりも早く、その首にダガーを突き立てる。


 ロアは右の剣で左手の男の首を切りつけると、カードの散らばるテーブルを跳躍と体を捻ることで、低く飛び越え、奥でカードに集中していた男にドロップキックで、蹴り倒し、男の胸に左の剣を突き立てた。

 鮮やか。


 ドカン。


 裏口も始まったようだが、さして広い建物ではない。

 すぐに合流することになりそうだ。


 私はホール脇の階段を駆け上がり、二階へ。

 丁度、二階の通路から出てきた男と鉢合わせるが……。


 ヒュッ。

 

 風切音。

 反射的に床に転がると、体があった場所をボルトが飛んでいった。

 

 そして、間髪入れずに鉢合わせた男が、ショートソードをつき込んでくる。

 転がって躱すしかなく、壁際に追いやられてしまう。


 ちょっとピンチかもしれない。


 そう思ったが、一旦、仰向けになり、頭の方へと体を丸め足を引き込むと、反動と両腕の力を使って飛び起きる。

 その勢いのまま、剣を突き込んできた男の懐へと、間合いを詰め、ダガーを胸に埋めた。

 そして、おそらく通路の奥でクロスボウの再装填をしているであろう人間に向かって、男を投げ飛ばす。


 射線は切れているが、通路の幅は狭い。

 ならば……。


 投げ飛ばされ倒れていく男の頭を、助走付きドロップキックの要領で飛び越し、男を飛び越したところで体を立てる。

 驚愕に歪むクロスボウの男。


 ボルトが再装填されたそれを、目の高さに持ち上げ、私に狙いを定めるその動きが、やたらと緩慢に見えた。

 身体強化や感覚強化をしていないのに。


 狙いが定まる前に詰め切るのは無理だと判断し、手に握るダガーを投げた。


 ダガーは思ったよりもきれいな軌跡を描き、クロスボウの男の顔を掠める。

 怯ませるには十分だ。


 ダガーを避けて狙いがそれた一瞬で、その間を詰め勢いそのままに、腹部へ蹴りを突き込む。

 くぐもった呻きを漏らし、男は背後の壁に叩きつけられ、崩れ落ちる。


 ゆっくりと崩れ落ちた男に近づき、その背にある壁に突き刺さったダガーを引き抜く。

 チラリと男を確認したが、血の混じった泡を吹いて、気を失っていた。


 二階には通路を挟んで部屋が六つ。

 手近な通路奥のドアから、警戒しつつ開けてみる。


 待ち伏せはなし。

 しかし、下着しか身につけていない、私よりも少し年下の娘が二人、身を寄せ合い震えてこちらを見ている。


 「大丈夫だ。しばらく、おとなしくしててくれ」


 次の部屋を開ける。

 特になし。


 順に階段の方へと戻りつつ、部屋の中を確認して行くが、清潔とは懸け離れた汗と、すえた匂いの染みついた染みついたベッドと雑多に散らかった部屋ばかり。


 階下に降りると、ロビーホールに集まっている面々。


 「下は片付いてるぜ」


 テーブルに腰掛けているロアが、私に言った。


 「上も大丈夫だ。それよりも、誰か古着とサンダルでも何でもいいから、履き物を手に入れてきてくれないか?」

 

 「オレが行ってくるよ」


 エギーユが破壊された正面扉から、外へと出ていった。


 「上は二人だったが」


 「下も部屋を合わせりゃ、八人だ」


 「情報の通り十人か……くだらないヤツらだったな」


 「ヤツラはどうするんだ?」


 「フィッツ。小遣いをやるからと言って、動かせる手はあるか?」


 「任せときな。お嬢」  


 「頼む」 

 

 「金目のもんはどうすんだ。リケ」


 「いったん集めよう。ネックレスや指輪なんかは誰かの形見かもしれん」


 「分かった。集めてくるわ」


 「ロア。ボクも手伝うよ」


 ロアとソルのコンビで家探しが始まった。

 二階の二人を伝えてなかったが、まぁ、いいか。


 ◆


 エギーユが服の他にも、食べ物なんかも手に入れてきたようだ。


 「ロアとソルにも声をかけて、先に始めててくれ。私は服を持っていく」


 「おぅ」


 エギーユは一階の奥へ、私は二階の奥にいる二人の方へ向かった。


 「終わったぞ。大丈夫か?」


 二人は白いオオカミの仮面を被る、私にも怯えているようだ。


 「取って食うなんてことはしないさ。ボロで悪いが、服とサンダルだ。その前に少し見せてもらおう」


 怯える二人に近づきしゃがみ込むと、二人の体をぱっと眺めてみた。

 とりあえず、大きな怪我はなさそうだが、あちこち殴られたような痣がある。


 「ハイレンデス・リヒト(癒しの光)」


 二人に癒しを与え、傷を治す。

 薄汚れてはいるが、顔に血色が戻ると可愛らしい顔をしている。

 売られる前で良かったか?

 二人からは、色々と話しが聞けそうだ。


 二人に服を着せ、履き物を履かせると、下のロビーへと連れて行った。


 ロビーの男たちに少し怯えた様子を見せたが、エギーユが手に入れてきた食料や、フィッツの巧みな話術が、閉ざした心を少しづつ開いていったようだ。


 「助けたは良いが、二人をどうするかね」


 「しばらくは治療院で預かる。そこで、ラトーラやガラハウの下働きをして、給金を払えば良いだろ?」


 「トーマス。何から何まで済まないな」


 「こっちに来て、人手も減ってたんだ、渡りに船ってもんよ」


 ◆


 フィッツの手配した人間が、倒れている男たちを麻袋に詰めて、建物から運び出した。

 その者たちに小遣いには少し多い金を渡すと、丁寧に礼を述べてから、荷車でそれらを運んで行く。


 裏の世界の何でも屋と言ったところか。


 その者たちの後ろ姿を見て、そう思った。


 「お嬢。あいつらのことは内密に」


 「分かっている。また、頼むのだ。良き客として秘密は口外せんよ」


 「次も決まってるのか?」


 「シノギの仕切りが消えれば、次のバカが台頭してくるはずだが、その前に摘み取る」


 「底辺のチンピラばっかりでいいのかよ」


 「しばらくはな。それに、どこかの傘下にあたるかもしれんからな」


 「大きなファミリーにつながる一手か」


 「今は組織力は弱い。だからこそ、底辺同士の争いと見せかけておいて、取るに足らんと思わせておく必要があるからな」

 

 「そういうことも考えてるのか」


 ロアが感嘆の声を上げる。


 「アスカニア家としての行動ではないからな。家の戦力はあてにはできん」


 「さっきの連中からなんだが、どうも、メッサーとか名乗ってるチンピラが、色々と仲介してるみたいだぜ」


 「初回特典か?」


 思わず声に出してしまった。


 「なんだって?」


 耳聡いロアに聞かれてしまう。

 説明するのも厄介だ。


 「いくら金払いがいいと言っても、簡単に口にするってことは、厄介な奴らなんだろうな」


 勘繰りすぎかもしれないが、同じ世界に生きるものを売ると言うのは、何かある。

 そう、嫌われているだけではなく、手を切りたいと思うほどのことが……。


 「簡単でも良い。メッサーとか言うやつの情報を集めてくれ。頼むぞエギーユ」


 「オレがっ!?」


 「なんだ、やらんのか」


 「いやいや。やるに決まってんだろ!待っとけよ」


 今にも走り出して行きそうだったが、フィッツが止めてくれた。


 こうして、私の再始動は完了。

 まだ、集めるべきものは多いが、今の手駒でこの結果なら上々と言ってもよいだろう。

 

  

 

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