仲介屋 4
コアパーへの挨拶は終わったが、アルツナイ殲滅へのアプローチがイメージ出来ていない。
やはり、仲介屋やチンピラ集団のような下部組織を、潰して回るしかないのだろうか?
口入屋を出て屋敷への帰路につくのだが、いくつか路地を入り尾行の確認をする。
ジーンがよほどの間抜けであれば、私の正体を突き止めるべく尾行の一人も寄越しているはずだが、最低限の礼儀は守る奴のようで安心をする。
王城を通り過ぎ、貴族街も抜けて治療院のある中流街に入った。
「今更?」
尾行の気配。
気配察知のスキルを展開し、しばらく歩く速度を変えながら通りを歩くと、ぴったり同じ間隔を空けて尾けてくる気配が一つ。
このまま治療院に連れて行ってしまうと、ラトーラ達に不都合があるかもしれないと思い、再び路地を入る。
丁度良く、影になっているが数段しかない裏口への階段があったので、隠遁のスキルを使い気配を隠した。
尾けてきていた者が路地を覗く。
しかし、そこに私の姿は確認できない。
慌てた様子で路地の奥へと足を進め、私の隠れる階段の影を通り過ぎた。
さて、どうしたものか?
しばらくすると男は諦め、元の通りへと出ていく。
今度は私の番だ。
男の後を尾行して、ネグラなのか雇い主なのかは不明だが、どちらかを特定できれば良い。
男は自分が尾行されていると、思ってもいないようで、無防備に通りを歩いていく。
このまま行けば、私が来た道を戻るだけになりそうだったが、商店街までくると『口入屋』の方向とは違う路地に入って行った。
スキル隠遁は展開したままだ。
感づかれた様子はない。
男は別の通りに出ると、一件の木造三階建てのアパートに入って行った。
ドアが閉まり切る前に、そこへ滑り込む。
男は、私には気付かず、通路の両側に並ぶドアの一つに入った。
さて、やるか。
先にもあったように、私にドアの施錠など、魔法による封印でない限り意味はない。
ドアノブを握り、ただ回すだけ。
そして、捩じ切ったドアノブを押してやれば、ドアは開くのだ。
「お前っ!」
窓際の椅子に腰掛けていた男が、私を見るなり、そう言った。
白いオオカミの仮面を着けていたので、追跡対象であることが分かったのだろう。
手にしていたドアノブをその場に落とし、ゆっくりと近づいていく。
「な、何が目的だっ!」
「お前こそ。私を尾けていたのは?」
「何のことだ?」
あからさまに目を逸らす。
どうも尾行は得意だが、専門ではない。単なる雇われのチンピラなのだろう。
手荷物からダガーを引き抜き、男の腿に突き刺す。
まさに電光石火。
「うぁぁっ!」
「言葉に気をつけろ。二度は聞かんぞ」
答えない男。
喋りたくなるよう、突き刺したダガーを捻る。
「ぐぁぁぁっ!」
「欲張りなやつだな。それで、私を尾行してたのは、何故だ?」
「た、頼まれたんだ」
「私の行き先を突き止めろと?」
「そ、おうだ」
「そして、依頼主はコアパーのボスだと言えと」
「な、なんでそれを」
「質問は受け付けん。誰に雇われた?」
「うぅ……。」
「答えても、答えなくても、お前の人生の終着点は同じだ」
「ひっ!?」
「今、終わるか…少し後で終わるか……どちらを選ぶ?」
「や、やだ……こ、殺さないでくれっ!」
「そう言った者を、何人手に掛けたんだ?」
ダガーを更に捻る。
「ぐあぁっ!」
「誰に雇われた?」
「め、メッサーのやつだよっ!」
吐き捨てるように、雇い主の名前を言った。
「そうか……残念だな」
腿からダガーを引き抜くと、今度は下顎から突き刺した。
声もなく、男は事切れる。
ダガーを引き抜き、男の服で血を拭う。
「メッサーは掃除の対象なんだ。なら、つながってるお前も同じなんだよ」
何も言わなくなった男に向かって、言って聞かせる。
聞こえてもいないのだがね。
◆
既に日も落ちており、予定は狂ってしまっているが、治療院に向かう。
念のため、気配察知は展開したままだ。
気が張りすぎて、嫌に疲れる。
今回は尾行はなく、真っ直ぐに治療院へと向かっても大丈夫そうだ。
「いるか?」
「夜に来るなんて珍しいこともあるもんだね」
寝間着姿のガラハウが、たまたまロビーにいた。
「疲れた。飲み物をもらえないか?」
「食堂で待ってな。仮面も取っておくんだよ」
ガラハウに言われるまで忘れていた。
オオカミの仮面を取り、手荷物へと入れる。
食堂。
椅子の一つに腰を掛け、テーブルにグッタリと上体を投げ出す。
「ほんとにお疲れなんだね。少し甘くしてあるよ。飲みな」
「ありがたい」
いつものお茶に、ハチミツを混ぜてあるようだ。
ほんのりとした甘さが、後からやってくる。
「美味いな」
「ハチミツは高いからね。寝る前だけの贅沢ってやつさね」
ガラハウも自分のカップから、同じ物を飲んでいるようだ。
「疲れ知らずだと思ってたけど、リケもそうなるもんなんだね」
「尾行されてな……。」
「それだけじゃないんだろ?」
「そうだ」
「お疲れさん。トーマスを待つなら、あきらめた方がいいぞ。何せ朝方まで帰ってこないこともあるからな」
「お茶をいただいたら、帰るか」
「そうしなよ」
ガラハウの遠慮のない言葉が、心地よい。
「ごちそうさま」
「寄り道せずに帰るんだよ」
「そうだな」




