仲介屋 1
世の中には自らの手を汚さずに、汚れ仕事を回すだけで悦に浸っている輩がいる。
そういう輩は大きな組織とのつながりがあるので、そいつに対して大それた行動もおこせず、ただ、搾取される存在になり下がるしかない者たちも多い。
「それで、メッサーとかいうヤツの動向は?」
全ての患者が帰った後の治療院で、エギーユに依頼していた調査内容を聞いてみた。
「そいつだけど、いくつかのネグラを適当に回ってる感じだったよ。仕事の方はいくつかの組織から、小さいチンピラ組織に流したり、自分で人を集めて直接指示したりもしてる感じだったな」
思っていたよりも、しっかりとした報告が聞けたことに驚きを隠せないが、それを表には出すまい。
「しっかり調べてあるな。どんな仕事が多いんだ?」
「荷運びみたいな普通の仕事もあったけど、男を攫って倉庫に連れて行ったりなんかもしてたな」
良く手を出さずに、観察をしていたものだ。
トーマスとフィッツの指導のおかげだろうな。
「そうか分かった」
「それと、王都にある組織なんだけど……やたら多いな」
追加の情報まで持ってくるなんて……しかも、私が手にしていない情報だ。
これは、エギーユに華を持たせようと、トーマスも黙っていたな。
「そんなにか?」
「大きいところは三つなんだけど、下についてる小さい組織とか集まりってなるとな」
「大きいところは何か理由があって、表立っては動けないってところだろう」
”バタン”
「今日は終わっ……フィッシャーさん」
治療院の扉を開けて入ってきたのはフィッツだった。
タイムリーな情報を持ってきていそうな予感がする。
「お嬢」
「フィッツ。一息つけ」
「悪い」
私の分であったお茶であったが、手を付けていなかったのでフィッツへと渡すと、一息に飲み干した。
「はぁっ!美味いな。それでな、少し街を調べてきだんだが……。」
フィッツが語った内容は、王都に巣食う、利権と金に群がる害獣どものことであった。
王都には三つの勢力があるというのは、エギーユの報告から分かっている。
しかし、一つ一つの組織が持つ特色までは聞いていなかった。
フィッツから語られた組織の特色は以下の通りだ。
一つは娼館や人身売買、それに薬を扱うアルツナイ。
一つは王都内の工事や荷役などに人足を集め、斡旋するが血の気も多く、ケンカやナワバリ争いで血を流すコアパー。
一つは王都の金貸しを中心に、地上げや人身売買に手を染めるヴーヘラー。
その三つの組織に共通するのは、人が商品であることで、それの確保がぶつかり、いざこざとなることが多いようだ。
しかし、組織が強大となり王室からも目をつけられているようで、表立って対立はしていないように見せているらしい。
傘下となる中堅組織やチンピラ集団が、その代理戦争をやっているという構図らしい。
「なんとも小賢しいことだな」
率直な感想が口から出た。
「ただ、例の薬については、アルツナイは関連がなさそうだ」
話しを聞いた時にもしかしたらと思ったが、当てが外れたか。
「やっぱり、王都の外か……。」
少し前にラトーラからの話しで分かってはいたが、王都にその足がかりがないとなると、調査は難航するだろう。
「エギーユの調べてきたメッサーは、そのいずれとも付き合いがあるってことか」
「そのようだな」
フィッツが難しい顔をして、そう答えた。
メッサーに手をだせば、どこからも目を付けられる。そういう事なのだろう。
「先生はスゲェな。そこまで、調べがついちゃうのかよ」
「エギーユも精進することだな。しかし……下を潰しても、イタチごっこになりそうだな」
「下っ端は、いくらでも代えがきくからなぁ」
一端の口を利くようになったエギーユ。
まぁ、それだけの経験を積んでいるという事だろう。
「仲介屋どもを一掃するか?」
フィッツがそう言って肩をすくめてみせる。
そうは言ったが、現実的ではないと言いたいのだろうな。
「上と下の橋渡しが一次的でも止まるのか……今は、それくらいしかないか」
頭の後ろで手を組み、背を反らせると虚空を見つめた。
◆
学院の生活も二ヶ月。
秋も深まり、冬の気配も近づいてきていた。
ただ、学院生には一回目の試験が控える時期でもある。
「スベロア。ここ教えて」
試験に向けての勉強で、分からないところをロアに質問しているソル。
実技に関しては心配はないものの、集団歩調でダウンしていた頃の座学の遅れが、未だに響いているようだ。
放課後と言うのに教室に残る人間が多くいるのも、実力主義学院の入れ替え制度に、引っ掛からないためだろう。
本来は年度で入れ替えが発生するが、赤点取得者は在留資格なしとみなされ、試験の後に降格されてしまうので、皆、真剣だ。
「ソルは大丈夫そうなのか?」
「赤点は免れるだろうけど、年度末の到達点となると……微妙」
「そうか、頑張れよ」
私は荷物を持って席を立った。
「帰るのか?」
「結城結奏の方があるからな」
「聖女様か」
ロアの声を背に、私は教室を出て治療院に向かった。
今回はまだ、ロアたちの手を借りるには早すぎる。
夕日で赤く染まる街を歩く。
賑わっているわけではないが、それなりに通りを歩く人がいたり、店を閉める作業で外に出ている者たちの姿が、あちらこちらで見かけられる。
「テメェ、ここがコアパーのナワバリだって、分かってやってんのか?」
「ひぃっ……み、見逃して」
路地の方から、剣呑な雰囲気を感じるやりとりが聞こえてきた。
コアパーと聞こえたな……少し手を出してみるか?
オオカミの仮面を着けて路地へと足を踏み入れた。
「上がりを渡せば、見逃してやるけどな」
「だ、ダメです!」
「だったら、体でもいいんだぜ?」
男二人がラトーラと同じくらいの歳の女性を囲んで、恫喝している。
こちらに背を向けている男の顔は見えないが、どちらの男も女の胸に鼻の下を伸ばしているのだろう。
それほどにデカいからな。
「コアパーを名乗っていたが、女一人に二人がかりとはな……それとも、そういう趣味なのか?」
私の声に、三人の視線がこちらに向いた。
「なんだお前?ふざけた仮面なんぞ着けやがって」
「やっちまうか?」
「だな」
路地だと言うのに、男二人は並んで私に凄んでみせる。
二人が並ぶと身動きも取りづらくなるだろうに、何を考えているのか?
そう考えていると、左に立つ男が間合いを詰めてきた。
こちらを女だと思ってなのか、迂闊すぎる。
しかも、右の拳を引き、パンチするよとアピール付きでだ。
私は荷物をその場に落とし、自然体となる。
「悪ぃなっ!」
そんな掛け声と共に、右の拳が突き出された。
それを半身になって避けつつ、突き出された腕を左手でとって右手で相手の腰のベルトを掴んで、体を沈み込ませつつ反転。
勢いをそのままに、お辞儀をしつつ腰を跳ね上げた。
初めてやってみたが、キレイに決まった。
男は宙を舞い、背中から地面に叩きつけられる。
受け身も取れず悶絶していた。
「次は?」
振り返り、もう一人の方へと向く。
そいつは、お約束のようにナイフを手にしていた。
「なめんなぁっ!」
ナイフを振りかざして間合いを詰めてきた。
それが振り下ろされる前に、こちらからも間合いを詰め、右腕の肘を取ってしまう。
こんな簡単に取れてしまうのは、申し訳なく思ってしまうが、一人目と同じ要領で投げ飛ばす。
落下予定地点が、未だに呻き悶える一人目の上なのは、ご容赦を。
転がる男の右の手首を踏みつけ、ナイフを離させた。
私は地に転がったナイフを拾うと、仰向けで二段積みとなった男たちの上に跨り、先ほど投げたばかりの男の首元へとナイフを突きつけた。
「質問に答えろ。お前たちはコアパーのメンバーなのか、それとも仕事を依頼されただけの下っ端なのか?」
「お前こそ、何なんだよ!」
「質問は受け付けない。もう一度聞くが、お前たちはコアパーのメンバーなんだな」
「そうだとしたら……。」
手元のナイフを振るい、耳を切りつける。
「次は鼻にしよう……。お前たちのはコアパーのメンバーなのか?」
「は、はい。コアバーで世話になってる、ロルフでさぁ」
切りつけた耳を押さえ、先ほどまでの威勢も虚しく思えるほどに、怯えた色を映す目になった。
「あの女は何をしたんだ?」
逃げてしまえば良いものを、路地に立ち尽くす女のことを聞く。
「あ、あの女は、ここらがコアパーのナワバリだってのに、話しも通さないで商売してたんでさ」
「商売?……。あぁ、そういう。だから、体で払っても良いってわけか。なるほど」
「へえ……。」
「コアパーは、そっちのシノギをしてないんじゃなかったか?」
「へい。だからと言って、筋が通んなきゃいけやせんよ!アルツナイの連中から、守ってやることもできねぇです」
「そういうことか。分かった」
これは、私の勇み足だったな。




