再始動 1
二歩目を踏み出すのは、惰性で行けると考えていたのだが、そうではなかった。
二歩目を踏み出したと思っていたことが、実は二歩目ではなく、その場で足踏みしていたに過ぎないと、失敗を通してそう思い知らされる。
そして、当初の決意が揺らぎ、不安と自身への疑心に苛まれるのだ。
だが、信の置ける隣人に救われ、正され、しっかりとした二歩目を踏み出し、初心を取り戻す事もできるだろう。
ただ、それは己が二歩目を強く望むならば、そう付け加えなければならないだろう。
私?
私は、それを、その先を望んだのだ。
◆
「で、だ。掃除と言っても何から手をつけるんだ?」
学院の食堂で、ランチセットをつつきながら、私に問いかけるロア。
貴族ではあるがリラックスできる場では、あまり行儀はよろしくない。
「外壁区画で孤児たちから、小銭を巻き上げている小物がいるそうだ」
エギーユ達、少年探索団による調査から上がってきた、掃除の候補た。
「子供たちの稼ぎなんて、それこそ大したことないよね」
「それが分からん馬鹿者なのだよ」
ソルにそう答え、ハンネに持たされているランチバスケットから、サンドを取って口に運ぶ。
「胸糞悪いが、子供は他の使い道もあるからな」
「考えたくはないがな」
ロアの野盗狩りの経験で、あったのであろう。
ハイデル王国では、奴隷の使役を禁じてはいるが、地下では人身売買が横行しているのが現状だ。
たいてい、身寄りのない孤児がターゲットとなっているので、市井からの訴えもなく、規制するべき事実というものがないので、法の整備もできない。
「ねぇ、どうやるの?」
ソルも一月前とは違い、今では普通に昼食を食べるようになっていた。
「強襲する」
今回はカニアの賊と違い、小賢しいだけの小物だ。
策を弄するよりも、見せしめに殲滅した方が良い。
「ねぐらは?」
「フィッツが特定済だ」
「フィッシャーさんて、ほんとに騎士なのか?」
ロアの素直な疑問。
「元は冒険者だ。色々とあるのだろ?」
「ボク、装備ないよ」
ソルが今更なことを申し出る。
「「はぁ?!」」
「そこは大丈夫だ。専用は後からにして、今回用の物を用意しよう」
三男だけあって、屋敷から持ち出せなかったのか……。
「金があるってのは、行動起こすのも軽いな」
「なんなら、ロアのも準備するが?」
「お〜い。騎士課程組。私たちが来る前に話しを進めないでよね」
エマと結城結奏が連れ立ってやって来た。
結城結奏は寮を出て、アスカニア家の別邸から通っているので、顔を合わせることも多い。
夜は魔法の文献を、共に調べたりなんかもしているからな。
それに、休みともなれば行儀見習いとして、メイドたちと屋敷中を掃除したり、厨房で料理を手伝ったりと、それなりに生活に溶け込もうと頑張っている。
「二人とも来たな」
「こんなところで話して大丈夫なの?」
結城結奏は思っていたよりも常識人で、慎重な人間であることも分かった。
「大丈夫だ。端から聞いていても、分からんよ」
二人も空いている席に着いた。
「ロアとソルの二人には、次のターゲットを伝えている」
「ずるいわね」
「お前の出るとこじゃないんだよ」
「ロアの口の悪さは変わらないわね」
「私は何をすればいいの?」
結城結奏。
やはり、この世界での役割が欲しいのだ。
「結城結奏は、まず、そのステータスを使いこなすことからだな」
「結奏のステータスって?」
人物鑑定を持っていなければ、他人のステータスなどは知ることはできない。
「私ほどではないが、なかなか素晴らしいぞ」
「そ、そうなの?!」
本人が驚いている。
「こちらに来てから運動しているか?」
「もともと運動は好きじゃないから」
「そうか。だと、明日からは辛いものになるかもな」
「それって、集団歩調よりも?」
「あれは体力というよりも、メンタルがやられる訓練だからな」
ロアもその本質に気がついていたようだ。
戦場で疑問を持たない。
作戦を信じ、仲間を信じ、遂行するだけに注力させるためだからな。
「先生も呼んである。朝と夕飯前に少し手ほどきを受けるのだ。前線に回復役がいれば、私たちも心強い」
「うへぇ……大丈夫かしら」
「そしてエマ。貴族と商家を中心に情報を集めて欲しい」
「どんなものとか、リクエストはあるの?」
「絞る必要はない。取捨選択は聞いてからにしよう」
「それだと、私はいつも通りってことね」
「私たちだと、ボロがでるからな」
「腹芸は苦手だ」
「腹芸ってなによ。諜報活動よ」




