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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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噂 4


 結城結奏と妙な関係ができてしまった。


 風呂上がりのだらけきった格好で、大きなため息をつく。


 「そんな大きなため息。幸せが逃げてしまいますよ」


 ハンネは私の濡れた髪を、タオルで包んでまとめると、そんな迷信じみたことを言った。

 

 関係性ができてしまった結城結奏と、放課後の学院を歩いてきたが収穫はなく、連れ歩かれた彼女も別れ際に、疑問しかないといった戸惑った顔をしていた。

  

 そうなるよな。

 何の事情も話さず、ただ散歩しただけだ。


 「ハンネ。秘密の関係を持ちたいとき、どういうところで待ち合わせたりするか?」


 「人があまり近寄らないけれど、見つかったときにうまく誤魔化しがきくようなところですかね」


 「学院だとどんなところだろうか?」


 自身のつぶやきに頭を巡らせる。


 「公爵様が泣いてしまいますよ」


 「お父様が?なぜ?」


 「お相手は学院の方なのですよね?」


 「そういうことか。私の色恋ではないよ。こう見えて、剣と魔法に生きているのでね」


 「良かった。見たまんまですね」


 「おっ、フィッツみたいに言うじゃないか」


 「ふふふ。最近、お帰りが遅いので、少し意地悪したくなりました」


 「そうか、気をつけ……あぁっ!そうか、そういうことか!!」


 「な、何でございますか?」


 「ハンネ!大手柄だ」


 ロアとトロスト先生との修練場での手合わせ。

 その前に、そそくさと中から出てきた上級生。


 探すなら、そういった場所だ。

 例え、そこにいるところを見られても、手ほどきを受けていた、アドバイスをもらっていたと誤魔化しが効く。

  

 「明日からは、そういった場所を回ってみよう」


 ◆


 さて、薬に帰還の魔法と、厄介事を増やしてしまった私だが、時間には限りがある。

 こういうときは誰かに頼るしかない。


 「トロスト先生」


 放課後の教員控室。


 「フリーデリケ。やっと手合わせしてくれるのか?」


 「残念ながら、今日は人を紹介してもらいたい」


 「人を?」


 「魔法に造詣が深い人が、お知り合いにいないだろうか?」


 「俺も王宮付きどから、宮廷魔道士なら知人もいるが…どうした?」


 「召喚したものを、元の場所に帰還させる。そんな手段がないかと思いまして」


 「なんだか、難しそうだな……分かった。近いうちに連れてくるから、今日は一本だけ頼むよ」


 「私も剣の使い方に播場を持たせたいので、ご教授もお願いします」


 「おぉっ!そんなのお安い御用さ。早速、行こう」


 スキップでもしてしまうのではないかと、そう思えるほどに上機嫌なトロスト先生について修練場へと向かう。


 修練場に近づいたときに、気配察知を展開して人影を探ると、中に三つの影が確認できた。

 扉に手をかけようとするトロスト先生の腕をつかみ、口の前に一本指を立てる。

 それを見て、静かに先生も頷く。


 私は隠遁のスキルも展開して、静かに扉を自分が通れる分だけ開き、中へと滑り込んだ。

 影の方で、こちらに気づいた様子はない。


 修練場の壁伝いに三つの影へと迫り、聞き耳を立てる。


 「ほらよ」


 男子が三人。

 うち一人は三回生で、にめいが二回生。


 言葉と共に、三回生がに回生に向けて腕を伸ばす。

 手には小さな紙袋。

 

 「これで実技も何とかなりそうです」


 「ほんとに効くんですよね?」


 受け取った二回生が礼を言うが、もう一人は懐疑的だ。


 「お前、昨日の実技を見てただろ?」


 「お前が圧勝したやつか?昨日も飲んでた?」


 「まぁまぁ。効果は見てたのなら、その通りだ」


 得意そうに三回生が腕組みをしたところで、扉の隙間からこちらを伺っていたトロスト先生に合図を送る。


 バタン。


 「まだ、残ってるのはいるか?」


 トロスト先生の声に、ぎょっとする三人。

 隙ができた。


 距離を一息に詰め、三人の頭部へ打撃を叩き込み昏倒させる。


 「ヒュー。聞いてはいたが、スゲェな」


 三人には風が吹いたくらいの感覚であっただろう。

 

 「先生。三人を拘束します」


 「理由は後で聞く。警備を呼んでくるが、その後はどうするんだ?」


 「アスカニアの別邸に運び込みます」


 「公爵様の……大ごとだな」


 「そうなる前に芽は摘むんですよ」


 ◆


 枢機卿を尋問したときと同様に、白いオオカミの仮面と、服装もそれらしいものをハンネが用意したので、そちらに着替え尋問をした。


 白の仮面に、白のスーツ。

 濃紺の短いマント。


 なんだろうか、すごくむず痒い。


 だた、見た目の効果はなかなかのものであったのか、それとも単に何も考えていなかったのか、尋問はスムーズで、三回生はどんなことを聞いても素直に答えた。

 その受け答えに、どこか作為的なものを感じた。


 しかし、現物は手に入れたので、誰かに調べてもらえれば、それか何か分かるだろう。


 コンコンコン。


 お父様の執務室のドアを叩いた。


 「入れ」


 中からお父様の声。

 今日はトロスト先生も来ていたので、威厳に満ちた声になっている。


 部屋に入ると、応接セットのソファにお父様、トロスト先生、フィッツの三人が掛けていた。

 そして、私に視線を向けてきた。


 私はお父様の隣へ腰を下ろす。


 「どうだった」


 お父様の問い。

 

 「嘘ばっかりだ。数日は絞るとするよ」


 私はうんざりといった感じで肩をすくめてみせた。

 

 「そうか」


 時間はかかると踏んでいたのだろう。

 さして、残念がる様子もない。


 「フィッツもいるということは、なにか掴んだか?」


 同席しているフィッツに視線を送る。

 

 「出どころまではまだだが、薬の本質についての推測は聞けた」


 「外の絞り込みは頼む。それと……」


 「そいつだろ?」


 「あぁ、巻き込んでしまって悪いが、抱き込めるなら、こちらに引き込んでいい」


 「大丈夫っすよ。そいつは面倒見てるもんでね」


 「女だな」


 「閣下。そろそろ事情を教えてくださいませんか?」


 一人蚊帳の外だったトロスト先生が声を上げた。


 「トロスト団長。ここだけの話で頼む。フリーデリケ」


 「はい」


 トロスト先生にエマから仕入れた噂話し、そこから得た推測を話し、フィッツや私がその調査に動いていることを話した。


 「それで、薬屋の方はどうだった?」


 「お嬢の話に出た、バーサークに近い効果の薬は作れるって話です」


 「それは正気を失うようなものだったか?」


 「使い続ければ、いずれはという話でした」


 「そんなものが学院に」


 「市井への広がりはどうだ?」


 「冒険者あたりにはまだですが、マフィア連中は分からないですね」


 「そうか、引き続き頼む」


 「「はい」」


 「学院の方はいかが致しますか?」


 「学院か……王室から学院長に話しを通してみる。それまでは公にはしないでくれ」


 「畏まりました」

 

 ◆


 「いや、トロスト団長が来るなんて、驚いたよ」

 

 トロスト先生をお見送りし、再びお父様の執務室。

 お父様の口調も執政としてのものではなく、アスカニア家の主人としてのものになる。

 

 「済まない。捕物に付き合わせてしまったのだ」


 私も普段通り。

 

 「エリアスも出世したもんだ」


 フィッツはいつでも変わらない。

 

 「フィッツ。お前、トロスト先生にだいぶ話しただろう」


 初めての手合わせ前に言われたことを思い出して、フィッツに詰め寄る。

 私の活動を外に漏らされては困るのだ。

 

 「うわっ……もうバレたのか」


 お咎めがあるかと頭を抱えたのだが、私に向かって、お父様が手で制す。

 

 「それよりもだ。あの薬の製造拠点や首謀者を、早めに叩いておきたいのだが」


 本題はやはり、あの薬の件だ。

 

 「薬屋の推測なんですが、それなりに金を持ってるヤツが怪しいって話しです」


 特定範囲が漠然としていて、絞り込むには情報量が少ない。

 

 「それは貴族やそれなりの商家が怪しいってことか?」


 フィッツの言葉から、お父様の推測してはみるが、やはり範囲が広すぎる。

 この王都だけでも、貴族やそれなりの商人がどれだけいることか。

 

 「はい。何でも、設備に金がかかるらしくて」


 製造、加工が難しい設備なのか、それとも設備自体の部品が単純に多いのか判断に苦しい。

 

 「外から持ち込まれてる可能性も考えると……。」


 厄介なのはそこだ。

 そうなると、探索範囲も広げなければならない。

 

 「製造拠点も大事だが、元締めを特定した方が良さそうではあるな」


 この世界の違法薬物の流通ルートが、どうなっているのかは分からないが、学生バイヤーなど、末端もいいところで、そこから中枢につながるなんてことがあるのだろうか。


 「地道にネズミの尻尾を追うしかないな…取り敢えず、あの三人を締めて、バイヤーを吐かせる」


 私は再び仮面を着けて立ち上がった。


 「俺の方でも、街の情報を拾ってみます」


 「フリーデリケはやり過ぎるなよ。貴族の子息だ」


 「腕の一本くらいなら、生やせる。ご心配なく」


 私は再び地下牢へと降りていった。

 

 ◆


 「お嬢。この辺りだぜ」


 フィッツの案内で、貴族街近くの商店の並ぶ区画の路地を歩いていた。

 三回生から得た情報から、この辺りに薬を売ってくれる人間がいるらしい。


 三回生には水を飲ませてあげただけなのだが、スラスラと情報を吐いてくれたのだ。

 まぁ、バケツに三杯ほどの水だがね。

 それと、三人は解放することなく、屋敷の地下牢に軟禁している。

 

 「あいつか?」


 薄汚れた腰丈のフード付きのマントを着け、汚れてはいるが、軽く動きやすそうな革製の装備。

 マントで隠れているが、腰にはナイフかタガーが刺してあることだろう。


 「ワインをくれないか?」


 「パンはじゅんびしたのかい?」


 「黒パンをな」


 「幾つ欲しいんだ?」


 「欲しいのはお前だよ」


 胸を押し、壁に押さえつける。

 マントの下からダガーを引き抜き、私の腕を狙うが、押さえている手から、胸にシュトースヴェレ(衝撃波)を叩き込む。


 男は咽るように、口から血の混じった咳をしたと思うと、ぐったりと力なく両腕が垂れ下がった。


 念のため呼吸を確かめてみたが、ヒューヒューと弱くはあるが呼吸をしていた。


 「お見事」


 男の頭から麻袋を被せると、フィッツが男を担ぎ上げる。


 「戻るぞ」


 「人使いの荒い……。」


 「それが良いのだろ?」


 「うっ?!」


 こうして夜な夜なネズミの尻尾を掴むように、末端のバイヤーを捕らえては尋問し、バイヤーに薬を流している者の情報を集めることを続けると、早晩、屋敷の地下牢はいっぱいになってしまった。


 「どう思う?」


 今夜の尋問を終えてフィッツに聞いてみた。


 「あいつらから先が見えてこないな」


 そうなのだ。

 やはり、尻尾は尻尾で、その全体が巧妙に見えないよう、薬の受け渡しも、その上がりの受け渡しも、上手く隠れ蓑をつかっている。


 頭がキレるヤツ。


 そういう印象だった。

 不完全燃焼感は否めないが、この問題はここで終わらないだろう。


 共にネズミ捕りをしていたフィッツを帰し、お父様の執務室へと入る。


 「フリーデリケ。思い詰めるなよ」


 「分かって入るのですが、歯がゆくて」


 「地下牢の者たちは、明日、街の警備隊に引き渡されることになった」


 「それでは、探索は打ち切りですか?」


 「そんなわけはない。ニコラウスとも話しをして、専門の探索隊を編成することになった…さすがに、お前たちだけに負担を強いていてはな」


 「そんなことは……。」


 「いや。これは王室の威信にも関わる。情報の開示は許可が出ているから、探索の結果を待ちなさい」


 「はい。お父様」


 お父様との面談の後、自室に戻り、何をするでもなく椅子にもたれかかっていた。


 初めての探索を失敗して、思うことはたくさんある。

   

 「カニアのようにはいかないか……。」


 そう呟いて、自身の無力さにがっくりと肩を落とした。

 

  

  


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