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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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噂 1

 絢爛豪華な調度品で飾られた迎賓館のホールで、私は衆目を集めていた。

 

 良好な関係を築けている東側諸国の要人を招いて、対西側諸国への対応を話し合う場を設けた。

 国境線付近の状況報告や、各国の収穫状況に経済的な駆け引きと、世界は変われど国の思惑とは変わらぬもの。

 今夜は、その会議の締めとなる慰労と、建設的で良好な関係を今後も続けようという願いを込めたパーティだ。


 私は久方ぶりに社交界へと復帰なさる、王妃の妹であるお母様の側仕えと、公爵令嬢という立場で出席しているのだけれども、何故か注目を集めてしまっている。


 解せん。


 「フリーデリケ様。ごきげんよう」


 ふわりと広がる明るい黄色の地に、レースで装飾されたドレスのスカートをつまみ上げるカーテシーで挨拶してくれた娘。

 緩くウェーブした髪を後ろで一つに束ね、切れ長の目元も手伝って可憐とは違う、凛とした美しさを感じた。

 

 「ごきげんよう」


 私はカーテシーから直った彼女の右手を取り、膝を曲げるカーテシーを返す。

 体のラインに沿ったタイトで背中がざっくりと大きく開いたワンピースのドレスであるから、スカートの裾は摘めないのだ。


 「素晴らしいお召し物でございますね」


 お世辞なのかは分からないが、淑女らしい微笑みをを湛えている。


 「体が大きくてな。君のような可憐で愛らしいドレスは入らないのだよ」


 私は背丈も同年代の女性よりも頭半分は高く、ヒールと合わせれば男性と変わらない高さになるだろう。

 それに、筋肉の付きも良いので、こうしたワンピースの方が、ハンネ曰く無難なのだそうだ。


 「失礼だが、どちらのお嬢様だったかな?」


 「申し遅れました。ドーナ伯爵家のエマと申します」


 「アスカニアのフリーデリケだ。よろしく頼む」


 「フリーデリケ様は、こういった場には出てこないものと、思っておりましたわ」


 本来ならば貴族の子女は、十二歳を迎える頃に社交界デビューをして顔を売っていくのだけれど、私はカニアの統治に治療院と忙しく、社交界デビューはしていなかった。

 するつもりがなかったと言ったほうが正確だがね。


 「お母様の付き添いでね。あと、私に様付けは要らない」


 「まぁ、寛容なご配慮。ありがとうございます」


 「魔法課程であれど、同期生だ。気安く呼んでくれ」


 エマが魔法課程なのは、校内で見かけていた顔なので分かっており、同期生なのは、制服のリボンの色で判別済だったが、名前までは知らなかった。

 

 「そこまで言うのなら……こっちの方が楽でいいわ」


 少し躊躇した後で、砕けた口調となる。

 表情も笑顔の仮面から、リラックスしたものとなっていて、そちらの方が彼女らしいと感じた。

 

 「そっちの方が、らしいな。でも嫌いじゃない」


 「スベロアの方が、口は悪いものね」


 突然出てきたロアの名前。

 

 「スベロアとは近しいのかい?」


 「隣の領地ですもの。小さいころからの腐れ縁ね」


 うんざりといった顔だったが、嫌いではなさそうだ。

 

 「そうか」


 「学院での生活は楽しんでる?」


 「騎士課程はアレがあるからね」


 集団歩調を思い出すと辟易もするが、それなりに楽しみはある。

 

 「あぁ……。」


 エマの方でも思い当たったようだ。

 

 「まぁ、それでもそれなりに楽しんでいるよ。済まない、飲み物を」


 通りがかりのギャルソンにオーダーを出すと、近くのテーブルからシャンパングラスを二つと、ボトルのシャンパンを持ってきた。

 こちらの世界では十五を過ぎれば、公の場での飲酒も許されるようになるので、間違いではないのだ。


 グラスを受け取り、一つをエマに渡す。


 ギャルソンにエマから注ぐよう、ハンドサインで示すと、その通りに注ぎ始め、次に私のグラスを満たした。


 「乾杯」


 そう言って、グラスをエマの持つグラスに軽くあてる。


 「フリーデリケはそこらの男よりも、スマートでカッコいいわね」

 

 エマの言葉に憮然とする。

 

 「可愛くありたいのだがね」

  

 「ふふ。面白いわね」


 「騎士課程でやってこうとなると、男共との付き合いが増えるのでね」


 「たまには、魔法課程の方にも顔を出しなさいな」


 「まぁ、事情があってね」


 「なになに?」


 好奇心に満ちた目を向けられる。

 

 「少しくらい秘密があった方が、ミステリアスでいいだろ?」


 「あははっ。やっぱ、面白いはフリーデリケ」

 

 ◆


 同世代の娘と話す機会もなく…騎士課程は女子が少ない…エマとの会話は新鮮で楽しいものとなった。

 ざわついたホールから、シャンパンのボトルと少しの料理を持ってテラスへと出て、様々な話しを続ける。


 魔法課程での出来事、学院教師について、学友や上級生についてと、エマの話題は終わることを知らない。


 「そうだわ。学院の上級生たちの間で、ちょっと変なものが流行ってるのよね」


 「変なもの?」


 「何でも、ステータスがアップするって言う、タブレット」


 それだけ聞いても、胡散臭い。


 この世界のステータスについて説明しておこう。

 筋力、器用さ、頑強さ、知力、記憶力、共感力、魔力の七つに分類され、その個人の潜在能力を数値化したものになる。

 潜在能力といったのは、高い数値を持っていたとしても、それを使いこなすのは至難の業だからであるからだ。


 例えるならば、知力の数値の高い人がいるのだが、その人は体を使った仕事をしている。

 自身の作業をより効率化することはできるのだろうが、それも、そうしたいと思い、改善しようと試みるからできることなのだが、しなければ知力が高かろうとそのままだ。


 私のステータスも、人間を辞めている数値になっているが、その値どおりに剣を振ったりすれば、剣が持たないだけではなく、体も壊れてしまう。

 頑強さが高かろうが、それを超える衝撃を生み出せる筋力と器用さを持っているので、全力でロングソードでも振った日には、肩から先は粉砕骨折だったり、引きちぎれてしまったりするのだ。

 

 現実はゲームのように、レベルが上がったからその分使えるというものではない。

 使い方を憶え、繰り返し修練することで、より近しい値まで使えるようになる。

 私の修練も道半ば、未だにトーマスの教えを繰り返し練習しているのも、より、自分のステータスを高いレベルで使いこなせるようになるためだ。


 「ステータスか……上がっても使いこなせなければ、意味はないのにな」


 エマの言葉にボソリと呟いてしまった。

 

 「そうなの?」


 「あぁ……。エマ。君の筋力が突然、十五くらい上がったとしよう」


 「うん」


 「どこまで重いものが持ち上げられたり、どれたけ速く走れるのか、直感的に分かるものかい?」


 「分からないわね……やっぱり、重いものを持ってみたり、走ってみたりしてみるわよね」


 「スキルもそうだし、強化系の魔法もそうだ」


 「でも、頭脳系だったら?」


 「それだって、天啓が降りてくるわけではない、せいぜい解けなかった問題の、間違っていた場所が分かるくらいだろう」


 「知らないものが、分かるようにはならないか…。」


 私の説明で、分かってもらえたようだ。

 

 「理解してもらえたかな?」


 「言われてみれば、そうよね」


 「例外もあるんだがな…考えたくはないが」

 

 「例外?」


 「そう。スキル『バーサーク』だ」


 「どういったスキルなの?」


 「危機的状況に陥った、戦士や騎士に発現する者が多いスキルだと言われている」


 スキル『バーサーク』。

 狂戦士化のスキルと言われているが、実際には極限まで高まった集中力と、広角視野、それを解析する知力向上、ステータス値の上限いっぱいまでを使い切る、深層リミッターの解除と、複合的な効果をもたらすスキル。


 「そんなスキル、使った人もタダじゃ済まなそうね」


 「ボロボロになるだろうな」


 「そのスキルを説明したってことは……。」


 「人為的にそれを引き起こすものであれば、金を積んでも欲しいと思う者もでてくるだろうな」


 「クラスダウン!」


 私は黙って頷いた。


 「だから上級生の間で広がっているってことなのね」


 「私たちにクラスダウンの脅威は、実感するには遠いからな」


 「フリーデリケ。あなた、何者?」


 「藪から棒だな。私は私。アスカニアのフリーデリケだ」


 そういった私は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 「ただの学院生ではないってことね」


 溜息とともに、額に手をやるエマ。


 「なんでそうなる!」


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