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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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入学 2


 入学式当日。

 寮に入る者たちは、事前に入寮を済ませて入学式に臨むのだが、私は別邸からの通いとなる。

 ゲームシナリオでは、寮に入っていたはずだが、私の裏の顔のことを考えると、身動きが取りやすい別邸の方が都合が良い。


 正門を抜けると、真新しい制服に身を包む者の姿も見かけるようになる。

 そう言っている自分も、その一人なのだけれども。


 大講堂へとつながる並木道。

 夏も過ぎようとしているけれど、日差しはまだ強いので、木陰がありがたい。

 

 さて、既に記憶に遠くなりつつある、星メモのイベント。

 ここで、何かがあったような気がするのだが、何だったかが思い出せない。


 どんっ。


 背中に何かがぶつかった。

 振り向けば……結城結奏が尻もちをついている。


 「あなた。大丈夫?」


 声をかけ、形式的に手を差し出す。

 結城結奏は私を見上げ、その手を取った。


 ぐいっと引き上げ、結城結奏の衣服や体をざっと確認する。

 特に怪我はしていなさそうだったが、転んだ拍子に制服のスカートにホコリがついてしまっていた。


 「軽く払うぞ」

 

 お尻やら背中やらについたホコリを、軽くはたいて落とす。


 「貴族の子女が多い。走るなら、気をつけることだ」


 それだけ言って、大講堂へと向き直り足を進めた。

 関わるだけ、リスクが膨らむ結城結奏とは、可能な限り接触は控える。

 そう、決めていた。


 私には私の人生がある。

 星メモのシナリオからは、早々に離脱しておくに限るというものだ。


 そもそもゲーム中では、魔法課程にフリーデリケも入学するはずなのだが、私は騎士課程を選択し、クラス内で起こり得るトラブルを、全てスキップしてしまえていると考えている。

 昼食時や放課後は回避できないかもしれないが、それでも、別邸からの通学を選択したので、寮内での出来事に巻き込まれることもない。


 それに、取り巻きも寄っては来ないだろう。

 私は、ロアやソルと行動を共にすることが多くなると思っている。

 そこに、温室育ちのお嬢様方が寄ってこれるはずもなく、私を中心とした取り巻きは形成されないものとも考えていた。


 何気に、学院生活を満喫する準備は万端ではないだろうか?

 

 ◆


 「よう」


 片手を上げる、ロアのいつもの挨拶。


 「先日は強引に済まなかったな。お父様も喜んでおられたよ」


 「公爵様がか?」


 「あの後、パーペン領への中央騎士団派遣も決まったそうだ」


 パーペン家の所領は、西側諸国との国境線もあり、敗軍の兵たちが野盗と化していたり、移民受け入れで、領民と移民との間の諍いも増えてきているそうだ。

 

 「マジかっ!?そいつは助かるぜ」


 「パーペン領のような困りごとに、即応できる部隊の創設も考えているみたいだ。もしかしたら、私たちが一期生かも知れんぞ」


 「オレは長男だから、パスだな」


 「何の話?」


 ソルもやってきて話に加わる。


 ◆


 入学式典も無事に終わり、それぞれの教室へと移動する。

 クラスは実力別に分けられ、指導カリキュラムも違っていた。

 私、ロア、ソルの三名は騎士課程のAクラス。

 試験で優秀と判断されたものが集まるクラスではあるが、それでも実力差は大きいだろう。


 「ここだな」


 ロアが先頭で、教室の大きなドアを開ける。

 そこに広がるのは、階段講堂式の教室と、初々しい同窓生たちの姿。


 星メモシナリオのバッドエンドさえ考えなければ、新しい生活にワクワクしていたのだ。

 この光景が嬉しくないはずがない。

 

 「あれっ?フリーデリケが嬉しそうにしてるよ」


 「そういうとこもあるんだな」


 「そういうことにしておいてくれ」


 照れ隠しに咳払い。

 

 そして、空いている席へと着くと、私たちは談笑などせずに、各々、好き勝手にしていた。


 ロアは頬杖をついて、窓の外に興味があるようだ。

 ソルは合格発表の場で配られていた、新入生の心得なるものを読んでいる。

 そして私は目を閉じ、ただ座していた。


 しばらくして、担当教師が教室へと入ってくる。


 背が高く、金色のゆるく巻いている髪。目もと涼しく、鼻筋も通っており、薄めの唇をぎゅっと引き結んだ表情は、凛々しい。

 体つきも均整のとれた筋肉質の肉体。

 女性人気は、うちのフィッツといい勝負だろう。

 

 「席につけ」


 第一声。

 ざわついていた教室が、徐々に静まり席が埋まる。

  

 「全員。起立」


 鋭い号令が飛ぶ。

 反射的に立ち上がり、胸の前に拳を上げる。


 反応したのは、私とロアの二名だけだ。


 「できたのは二人だけか、家名はいい、名乗りを!」


 「フリーデリケです!」

 「スベロア!」


 ロアの方で合わせてくれ、同時に声を上げてしまうことなく、名乗りを終えられた。


 教師も胸の前に拳を上げる。

 こちらの世界では、この姿勢が敬礼にあたるので、上官がそれを解くか、解除を許すまで姿勢を維持する。


 教官が敬礼を解いたので、私とロアも敬礼を解き、直立となった。


 「私は中央第二騎士団のエリアス・トロストだ。一年間だが、よろしく頼む」


 「「はいっ!」」


 全員がと言いたかったが、返事ができたのも二人だけだった。

 

 もしかすると、あの騎士団の初等訓練が待っているのかと、淀む気持ちが湧き上がる。

 

 星メモのゲームシナリオにも、フレーバーテキストくらいにチラッとだけ紹介された、騎士課程の初等訓練。

 ゲームの主人公たちは魔法課程なので、関係はないのだが、夕暮れをバックに、集団歩調と声出しをさせられている騎士課程の生徒たちが描かれているシーンがあるのだ。


 「着席。では、これから一年間のスケジュールを……。」


 トロスト教諭は事前に配られていた冊子を基に、学校の年間行事やら、実技関連の説明に、共同授業、そしてテストの説明をしていった。


 学院のテストというものが厄介で、年間四回実施されるのだが、テスト結果の累積ポイント次第では、次年度のクラスダウンもあるため、失敗は許されない。


 「以上だ。何か質問があるもの」


 「はい。フリーデリケです!」


 ビシッと手を挙げる。

 

 「許す」


 席を立ち上がり、念のため直立姿勢を取った。

 

 「昨年までは無かった魔法実技演習は、魔法課程との共同授業になるのでしょうか?」


 「小規模戦闘でも魔法が使えれば、隊の運用や戦術に幅が出ると見込んでの授業だ。魔法は魔法課程の方が先んじているからな。共同授業となる」


 「ありがとうございます!」


 礼を言い着席した。


 星メモメンバーと、顔を合わせる機会ができてしまった。

 やはり、シナリオの強制力があるのだろうか?


 ◆


 その日の昼休憩。

 

 「また、集団歩調からかよ……。」


 食堂のテーブルで、ロアがボヤいた。


 「やはり、ロアもこなしてたのだな」


 「なにそれ?」


 ソルは無邪気なものだ。


 「みんなで並んで走るんだよ」


 ロアは簡単すぎる説明をした。

 

 「なんだ、それくらいか」


 やはり誤解している。

 そんな甘いものではない。

 

 「数時間な」


 甘い考えを吹き飛ばす一撃。

 

 「声を出しながら」


 ロアが畳み掛けると、ソルの顔が青ざめていく。

 

 「たまにフル装備で」

 

 「……。」


 ソルが顔を引きつらせて黙り込む。


 私はハンネが持たせてくれたバスケットから、サンドを出してかぶりつく。

 ロアではないが、再び、あの苦行に戻るのかと思うと、ボヤきたくもなというものだ。


 「えっ!じゃあ、剣が握れるのって?」


 意識が現実に戻ってきたソルが、テーブルに乗り出してロアに詰める。

 

 「さぁな」


 肩をすくめ、憐憫のまなざしをソルに向けた。

 

 ◆


 翌日からは午前は集団歩調で、午後は座学という内容であったが、午前で合格しなければ、放課後にも集団歩調が実施された。


 既に初等訓練を終えている私とロアは、きっちりとこなしているのだが、多少、剣が使えるくらいのものは、昼飯も喉を通らない有様だ。

 それは、ソルですら例外ではない。


 一週間も経った頃。


 「リケさんよ」


 「なんだ?ロア」


 「剣の腕が鈍りそうでな」


 「そういうことか」

 

 剣を持てないことに我慢できなくなったのは、ロアが先だった。

 他の級友たちは、おかわりタイムがなければ、放課とともに寮へと消えていく。

 実技では大剣担いで体力の有りそうなソルでさえ、そうなっているのだから、しょうがない。

 

 「念のため、トロスト先生に声をかけておこう」


 「ちっ、真面目だな」


 ロアと連れ立って教員控室へと向かう。

 放課後の廊下。

 違う世界だと言うのに転生前の記憶と被り、ノスタルジーを感じる。


 教員控室の扉を開けて入ると、数名の教員が残っていた。


 「トロスト先生」


 声をかけると、自席で書き物をしていたトロスト先生が顔を上げて振り向いた。

 

 「あぁ、お前たちか。そろそろ来る頃だと思ってたよ」


 椅子ごと私たちの方へ体を向け、相対するようになる。

 

 「お見通しってわけか」


 「そりゃ、見れば分かるさ。歩調も一定で、声もよく出している。アスカニア家のフリーデリケと、パーペン家のスベロア。騎士団じゃ、話題の二人だ」


 「私も?」


 ロアは野盗狩りの実績があるので分るのだが、私がなぜ話題に上がるのか理解ができなかった。

 

 「なんだ、意外そうだな」


 「公の競技会や討伐などは受けていませんので」


 不思議そうにする私に、口の端を上げて素敵な笑みをこぼす。

  

 「俺はね。フィッツと仲が良い」


 そこかっ!

 

 「あんの、口軽男がっ!」


 「なんだ?」


 今度は、事情を知らないロアが不思議そうな顔になる。

 

 「私の従騎士なんだ。フィッツは」


 それを聞くと、合点がいったのか、うんうんと頷いてみせるロア。

 

 「良し。俺も混ぜてくれ。教えるだけってのは、体が鈍っていけない」

 

 「やべぇ、やぶ蛇つついちまったか?」


 席を立つトロスト先生を見て、やっちまったという表情で、顔を片手で覆ったロア。


 楽しい課外授業になりそうだ。

 

 ◆


 修練場まで来た三人。


 扉を開けると、そそくさと平静を装ってはいるが、何やら焦った感じで修練場から出てくる上級生か三人。


 「なんだ。あいつら」


 トロスト先生は怪訝な顔で、彼らを見送った。

 何かありそうではある。

 

 「それぞれ得意武器は?」


 ラックからロングソードの木剣を掴み取って、私たちを振り返るトロスト先生。

 その声で、我に返る。


 考えるのは後にしよう。


 「俺はショートソードです」


 「この中ならロングソードだな」


 「それなら、それぞれ得物を持て」


 ラックから木剣をを手に取り、軽く振る。

 少し先端寄りの重心だが、悪くはない。


 「それじゃ、まずは二人のお手並みを拝見するとしよう」


 「やっとだぜ」


 嬉しそうなロアの顔。

 試験の時から手合わせをしたかったのだろう。

 

 「そこまで、思われているとはな」


 二人、距離をとって構える。

 ロアはショートソードの双剣で、左を前に出すスタイル。

 私は右手で剣を持ち、左足を少し下げる。


 「始め!」


 トロスト先生の号令と共に動いたのはロア。

 先手必勝、手数の多さで勝負するのは、試験で見ているのだか、それが全てではないだろう。


 左の剣先で距離を測りながら、私の剣先を弾くように外へ振る。

 それを剣を少し引いてやり過ごすと、右手の剣が横薙ぎに払われる。

 そちらを剣で受け、さらに踏み込んで体当たりを狙うが、左の剣が動くのを目の端に捉え、バックステップしながら斬り払う。


 「おっと」


 出鼻を挫かれたロアだが、すぐに体を整え右手上段からの打ち下ろし。

 これを剣で受ければ左が来る。

 切っ先の下り始めを狙い、軌道の外へと踏み込み右手を一閃。


 がら空きの脇腹へとキレイに決まってしまった。


 「がはっ!」


 そのまま倒れ、悶絶するロア。


 「すまん。気持ちよく振ってしまった」


 「こんのゴリラパワーがっ!あっつぅ〜」


 悪態をついてみせるロア。

 魔法を使うのを辞めようかと、そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。

 

 「ハイレンデス・リヒト(癒しの光)」

 

 さすがに、そこまで鬼ではないのて、癒しを与えた。


 「二人とも本当に学生なのか?」


 私たちの立ち会いを見ていた先生は、感嘆の表情で感想を漏らした。

 

 「そうですよ。入学したてですからね」


 「入りたてのってなら、もっと木剣同士を打ち合わせるもんだぞ、意味もなくな」


 そういうことか、ロングソードでの受けをあまりしなかったからか。


 「リケの得物。本当はダガーですからね。いなしはやるのでしょうが、受けはやらないでしょう」


 ロアが立ち上がりながら解説をした。

 

 「えっ!?ダガーなの?」


 心底驚いている様子。

 

 「そうだな。持ち運びも嵩張らず、一番使ってるモノになるな」


 「なら、あの体裁きも納得だわ」


 私が剣で受けない理由が分かり、先生も合点がいったようだ。


 そして……。

 

 「フリーデリケ。次は俺とだ」


 トロスト先生との手合わせは、良いところまでは行くのだが届かない。

 そんな状況が続いたが、最後は上段からの打ち込みをいなされ、首元に剣が突きつけられた。


 「やっぱりダガーの戦い方だな。ロングソードなんだ、わざと強く打ち込んだり、剣受けも強く弾いてみたりとしないと、剣の特性を使い切れない」


 「良い勉強になった。やはり、剣よりも長柄の方が、思い切りよく使えて、クセが出にくいのかもしれないな」


 「それはあるかもな。取り回しが全く変わるんだ。ダガーのクセも出にくいだろうな」


 「高度な話になってるぜ」


 「次はスベロア。お前だ」


 スベロアは瞬殺されていた。

 

 その後も相手を変えながら、得物を替えながら、日が落ちるまで手合わせを続けた私たち。

 施設を閉めるため声をかけに来た職員にまで、呆れられてしまった。

 それだけ学びも多く、楽しい時間であったのだ。


 ◆

 

 別邸に帰り、入浴と夕飯を済ませ、寝室のベッドでハンネのマッサージを受ける。


 「ハンネのマッサージは、ほんとに気持ちいいな」


 「お嬢様の体は、ほんとに女の子を触っているのかと、たまに混乱してきます」


 「むむっ」


 「もう少し、年相応なドレスが似合う体型ですと良いのですが……。」


 「ドレス?何かあったか」


 「お忘れですか?週末は迎賓館で、隣国の要人を迎えての晩餐会でございますよ」


 「あれは、兄上だけではなかったか?」


 「何を仰っておられるのですか?奥様の社交界復帰でございますから、その付き添いにと言われておられたではございませんか」


 「そうだった」


 「明日は衣装合わせをしますから、お早いお帰りでおねがいしますよ」


「分かった」


 入学序盤はこんな感じで、結城結奏との接触もなく、過酷ではあったが、平和に過ごしたのだった。


 

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