入学 1
合格発表。
学院の正門近くに設置された発表ボードに、合格者の受験番号が張り出される形式である。
「よう。お前も見に来たんだな」
パーペン男爵家のスベロア。
試験のとき同様に、ズボンのポケットに両手を突っ込んで、けだるそうに歩いてくる。
「ロアか。公爵家でもな、合否の通知は来ないのだよ」
「ったく。おかげで王都に足止め食らっちまった」
「なんだ、王都にいたのなら、うちの別邸に顔を出して欲しかったぞ」
「用向きも無しに、公爵様に会えるかよ」
「うちは大歓迎なんだがな」
「こっちは恐縮しまくりだっての!」
意外と気遣い屋なのかもしれないな。
特別に設置された、合格者発表ボードを仰ぎ見る。
騎士課程の合格者の番号は少ないが、歯抜けになっている番号もなく、全員合格で間違いはなさそうだ。
「私の番号もあるな」
「オレもあった」
しかし、人気の魔法課程のボードの前では、がっくりと肩を落とすものと、喜び飛び跳ねているものとて、人間模様が二極化している。
人間。学院入学が全てではない。
「そうだ!時間が空いてるなら、今から家に来ないか?」
ふと、思い立ち、ロアにそう声をかけた。
「何言ってんだ?」
眉をひそめ、呆れた顔をするロア。
「よいではないか。公爵家に顔が利くってのも、悪くないもんだぞ」
「分かったよ」
後ろ頭を掻いて、渋々と言った様子たったが、承諾してくれる男。
◆
別邸に到着すると、玄関周りの仕事をしていた使用人たちの礼を受ける。
その様子にロアが少し恐縮し、軽く会釈をしていた。
「良し!まずはお父様からだな」
「うぉい!いきなり公爵様かよ!!」
お父様の執務室に、ロアを連れて突撃だ。
一応、ノックはしておく。
中で、お母様といちゃついていたらまずいからな。
「お父様!友人を連れてまいりました」
「フリーデリケ。呼ぶまで外で待てんのか?」
「良いじゃないかアダルガー」
応接セットの方にいたようで、相対していたのは陛下だった。
お忍び用なのか、飾り気の少ない平服を着ていて、王冠もしていない。
「陛下!いらしていたのですね」
「へ、陛下だと!お前…なんて時にお邪魔してんだよ」
「よいよい。茶飲み話に来ているだけだ」
「お初にお目にかかります。パーペン男爵家のスベロアと申します。陛下、それに執政閣下」
作法の所作も美しく、貴族の礼をしてみせたロア。
「丁寧な挨拶痛み入るが、そう硬くならずともよい」
「陛下もそういってるから、そこらの椅子を引っ張ってきなさい」
ロアの陛下初対面は、初登城ではなく、うちで済まされてしまったな。
大人たちに混じり、パーペン家の領地の状況や国境沿の紛争、魔族の動きといった、なかなか聞こえてこない話しが聞けた。
◆
日も暮れかけた夕刻。
陛下を見送った足で、うちの別邸を辞すると言って聞かないロアに根負けし、正門まで共に歩いた。
「夕飯も食べて行けばいいのに」
「そこまでしたら、親父が倒れちまうよ」
「びっくりはするよね」
「しっかし、ここだとお前は子供っぽくなるんだな」
別邸での私を思い出しでもしたのだろう、ニヤニヤとした笑いを私に向ける。
「ぐっ……。お母様がいるからな」
「そういうことか。ま、オレだけの秘密ってことに、しといてやるよ」
「はいはい」
「それじゃ、入学式でな」
踵を返し、手をひらひらとさせながら遠ざかる。
その背をしばらく見送った。
「うん。入学式で」
そう、一人呟く。




