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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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教会 4


 夜を待って、件の孤児院へと侵入する。

 隠遁と気配察知のスキルは展開済だ。


 建物の二階に、人の気配を多数確認したので、そこが子供に割り当てられた部屋なのだろう。

 そして、一階に三人。

 うち二人は、正面扉から奥まった場所に固まっていた。

 どうやら地下への入り口を見張っているようだった。

 何故わかったのか。

 それは、昼間確認できなかったが、一階の下に気配を察知できたからだ。


 気配察知もレベルというか練度というかが上がると、認識できる範囲が視界内だけではなく、全周囲となって構造物のおおよその間取りも推理できるようになっていた。


 さて、建屋への侵入だが、貧しさ全開のボロ屋だ、ドアの鍵も窓の鍵も強固なものではない。

 外壁区画の娘からもそう聞いていた。


 狙い目の食堂の窓。

 二枚の引き戸が重なり合う場所に、一本の目貫を通し、動かないようにしているだけの仕掛けだ。

 しかもその軸にしたって金属製ではなく、木の枝を削っているそうだ。


 なので、二枚の引き戸の合わせ目にナイフを差し入れ、止まったところで力をかけてやれば…。


 パキッ。


 この通り。

 ここは、秘密を隠す場所ではないな。


 窓から昼間に異常な光景を目にした食堂に侵入。

 気配感知で何もないことは分かっているが、念のため周囲を見回す。


 ご丁寧に丸い座面の椅子まで、テーブルに上げられているのて、足元の心配も、とっさに隠れる場所を探す手間も必要なくなった。


 「これは…誘ってるのか?」


 一人呟いた。


 一階で感知した三人のうち、一人は全く動く様子がない。

 眠っていると判断してよさそうだ。


 食堂の扉から廊下を伺うと、奥に小さな灯りが見えるが、それだけては明るさは足りず、周囲の様子まては分からなかった。


 展開し忘れていた暗視のスキルを使う。

 薄暗かった視界が、日中の日陰くらいの明るさになり、廊下の奥もはっきりと見えるようになった。


 ターゲットは二人。

 白くて目立つ教会のローブをまとった二人だが、体つきや立ち居を見るに、素人臭い。


 単なるお付きなのかもしれない。


 油断しているのだろう、警戒などそっちのけで、同僚同士の会話を楽しんでいるようだ。


 食堂から抜け出し、廊下でも影の濃い場所に身を潜め、様子を見るが、こちらに気付く素振りもない。

 簡単なミッションとなりそうだ。


 見張り役の二人へ音もなく近づき、頚椎へと刃を飲み込ませ引き抜き、二人目も同様に処置をする。

 崩れ落ちる時に音をさせてしまったが、気付いてなければよいなと思い、地下への階段を降りた。


 こちらの方は、見張りすらいない。


 教会の関連施設ということで、襲われることはないとタカをくくっているのであろう。

 

 地下にはドアが一つだけあり、丁度、大人の頭の位置くらいに格子がはめられ、中の様子が見えるようになっている。


 ……嫌な予感ほど当たってほしくはないものだな。


 聞こえてくる子供の鳴き声と悲鳴。

 ピシリと響く、鞭打つ音。


 あぁ、胸糞悪い…。


 扉の前。

 ドアノブを慎重に回し、ドアが開かないかと試みるが、すんなりと開いてしまった。


 事前の気配感知では三人。

 一人は子供だろうから、残るは二人だろう。


 ここの二人は後に尋問もしたいから、話せる程度の損耗にして置かなければならない。


 面倒くさいが、仕方がない。


 感覚強化に身体強化を展開し、出たとこ勝負で、部屋に押し入る。


 部屋に入れば男と女と思しき、二人の背中を視界に捉え、瞬時に右側に立つ男から対処すると決めた。


 ドアの開閉にようやく気がついたようで、首を巡らせているが、遅い。

 強化済の身体で本気で動く私を、目に捉えるなんて素人には不可能だ。


 既に男の右後方へ回り込んでいた私は、男の右脇腹に手を当てて一言発する。


 「シュトースヴェレ(衝撃波)」


 そう、肝臓めがけて衝撃波を放った。

 痛みもさることながら、急激な血圧低下も引き起こすので、昏倒させることが可能なのだ。


 男が崩れ落ちるのは確認しない。

 まだ、ドアの方を振り向こうとしている女の、首筋めがけて腕を突き出す。

 不意を突かれた女は、易々と首筋を掴まれることを許してしまい、そのまま頸動脈を締められ気を失う。


 二人の人相改めをしたいところだが、まずは子供の方だ。


 質素な四つ足の椅子に、腕と足を縛り付けられ、衣服の裂けた跡やその下に見える肌の裂傷。

 顔も殴打されたようで、頬に残る赤みや唇の端に残る流血の跡。


 うん。未来の私の資産を傷つけた罪は……万死に値する。


 心の中で、そう決めながらも子供の手足の拘束を解く。

 余程の恐怖だったのであろう。

 手足が自由になると、私の首筋に抱きついてきて、再び泣き始めてしまったので、背中に腕を回し抱きしめ、癒しの魔法を使った。


 さて、泣き止むまでは待てないので、子供の体を引き剥がす。


 「少しだけ、待っていてくれ」


 子供の目をしっかりと見据え、言葉を発したが、しゃくり上げながらも、うんうんと健気に頷く子供。


 そして、その原因となった男女二人を、部屋に合った粗末な四つ足の椅子に座らせ、手足を縛り付け、子供がされていたものと同じにした。

 追加で己等の衣服を裂いて、猿ぐつわとした。


 そうしておかなけれぱ、目を覚ますとうるさくなる。


 拘束も終わったところで子供に向き直り、その体を再び抱きしめた。


 ◆


 驕り高ぶるものは、自身のやることの成功しか信じていないからか、油断が多く詰めも甘い。


 教会の偉いさんが絡んでいるとなれば、その護衛にもそれなりのものを連れているかと思いきや、驕りのためか、適当な付き人を連れて歩くに留めていた。

 小心者の商人が相手だった方が、断然、苦戦したことだろう。


 さて、椅子に拘束した二人をそのままの姿で、別邸の地下牢へとぶち込んでおいた。

 

 運び出したのは夜中であったが、両手に椅子に縛り付けられた男女二人を持ち、背中には泣きつかれて眠ってしまった子供をおぶっているところなんて目撃されたくはない。


 こんなことができるのは、私がゴリラだからではない。

 肉体強化スキルに、魔力操作による恩恵をうけてのことだ…よ?


 明けて翌日。


 私は別邸の地下牢に拘束されている二人の前にいた。

 面が割れてしまうことを考えて、白いオオカミの顔を模した、鼻から上の仮面を着けている。


 拘束されている二人のうち、女の方はフィッツと共に会ったシスターであった。

 あの異常とも言える食堂での書き写し、その光景を微笑みを持って眺められる精神性の持ち主だから、相当に、ヤバいことをやっているんだろうなと思っていたら、案の定過ぎて反吐が出そうだ。

 そして、男の方は教会枢機卿のひとり、ヴァンシュタインその人である。

 この枢機卿は、子供にかぎらず、自分に刃向かえない人間を弑逆することでしか、自分を慰められないのだろう。


 そんな二人に癒しの魔法を施してから、バケツの水をかけて目を覚まさせる。


 目を覚ましたところで、猿ぐつわを噛ませているので、何もしゃべれるわけではないのだがね。


 目を覚ました二人は予想を違えることなく、猿ぐつわで何を言っているかは不明だが、騒ぎ始めた。


 手に持っていた木製のバケツを、女の顔面に投げつける。


 ゴン。


 女の鼻から血が流れ落ちた。


 「次はないぞ」


 二人に向かって静かに言い放つと、男の方の背後に回り、猿ぐつわを外す。

 口が自由になれば、やはり騒ぎ出すのだ。


 「わ…私はっ!ヴァンシュタイン枢機きょ……。」


 「お前が誰かなんで関係ないんだ。次はないと言ったよな」


 床に落ちていたからのバケツを、ヴァンシュタイン枢機卿の頭に被せてやると、小気味よいリズムで叩いてやった。

 バケツの内側は反響につぐ反響で、わんわんと音が襲いかかっていることであろう。


 「うぁあ〜っ!」


 絶叫とのセッションを終えて、バケツを少し上げてやる。


 「さて、私の言うことを聞く気になったかな?」


 耳元で囁いてやると、うんうんと何度も頷いて見せてくれた。


 「では、自己紹介から行こうか」


 「は、は、はいぃっ!わ…私は、教会枢機卿のヴァンシュタインです!」


 「偉い人なのに謙虚だなんて、ステキね」


 耳元で、目一杯の艶っぽい声を出してあげた。

 

 「ありがとうございますっ!」


 こやつは、豚の才能があるかもしれないな。

  

 「次は、孤児院で私の未来の資産を、嬲ってたみたいだけど、どうして?」

 

 「はい。じょ…女王様に代わりまして、躾をしておりました」


 完全に豚。


 「そんなこと、頼んだかしら?」


 「女王様のお手を煩わせるわけにはいきませんので、出過ぎたまねではございましたが、代行いたしました」


 「自分で考えて出来るのね。そういう子は好きよ……」


 ロープを束ねただけの即席のムチで、男の腿を叩く。


 「ぷきゃ〜っ!」


 ほんとに豚。


 「でも、やり過ぎはいけなかったわね」


 「あ、ありがとうございます」


 ハァハァと、男の息が荒くなってきていたので、肩口にもう一発たたき込んだ。 


 「ピギャ〜っ!」


 豚に失礼かもしれないと、思い始めた。


 「豚は、孤児院のお金で何をしてたのかしら?」


 「孤児院のお金ですか?」


 ムチを太腿に一発。


 「質問は受け付けないわよ。さぁ、どうしたのかしら?」


 「金で、酒と女を買いましたっ!」


 「正直で良いわね!」


 再び、太腿に一発。

 どうりで、孤児院の建物のボロさや、人手不足が解消されないわけだ。


 「私のモノを勝手に使っちゃったのね」


 「め、滅相もございません。お借りしただけですっ!」


 牢の鉄格子近くに置いてあったバケツ。

 これにはみずがまだ入っていた。

 その水に、手に持っている縄を浸けて、それに染み込ませれば、水の重さで打撃力アップだ。


 ロープを男の腿に叩き込む。

 ずしりと重い音と共に、男の絶叫ぎ響いた。


 「ひゅ〜……ひゅ〜……。」


 喋る気力はなく、項垂れて、呼吸する音だけが聞こえた。


 「私のものを勝手に使ったのだから、それ相応の罰が必要なのよね」

 

 「ひゅ〜……ひゅ〜……。」

 

 答えはない。

 癒しを与え、回復してやる。


 「あ…ありがとう…ございます…。」


 「元気がないわね。もっと欲しいのかしら?欲張りさん」


 「いえいえ。これ以上の褒美は、私めには不相応でございます」 


 「そう?」


 「はいっ!」


 脂汗したたる最高の笑顔を見せる豚。


 「次の確認よ。豚は聖女を呼び出したわよね」


 「ど、どこで、それをっ!」


 水を含んだロープを床に投げ捨て、鉄格子近くにセットしておいた武器ラックから、六角形に削り出した木の棒(棍)を手に取る。


 「二度は言いたくないのよね。質問は受け付けないわ」


 言葉と共に、棍を腿へと振り下ろす。

 ぐしゃりと潰れる音と共に、男は絶叫し、白目を剥いた。


 再び、癒しを与え、バケツの水を掛けて起こす。


 「聖女を召喚したわね」


 「はい……いたしました。教会の影響力を強めるためでございます」


 「ちゃんと、言えたわね。偉いわ」


 ニコリと笑顔を見せてやる。

 特別なご褒美だ。


 衰弱と精神的な疲弊で、暗くうつむいていた男の目に、光が戻って来た。


 「王への翻意だったのかしら?」


 「そのようなことはございません。金をもっともらえるようにでございます!」


 清々しいほどに、金の亡者なのだ。


 なんとも情けない真相であるが……。

 

 「うぁぁっ!」


 静かだなと思っていた女が豹変したと言うよりも、全く別の生き物へと変貌した。

 肌は青白くなり、頭には捻じくれた二本の角に、目と唇は燃えるように赤く色づいている。


 「ふんっ!」


 力任せに拘束していたロープを引きちぎり、自身の力で自由の身となり、猿ぐつわも自身の手で外す。 


 「あわわわわわ…。」


 豚が椅子の上で震えていた。

 どうやら、ミラの正体は魔族だったようだが、このタイミングで正体を現しても意味はないだろう。


 「さんざ……。」


 棍を手加減無しで、椅子に座る相手の頭に叩き込む。

 ぐしゃりと頭蓋が砕け、脳を潰していく感触が手に伝わってきた。


 「豚は、彼女が魔族だってことを知ってたの?」


 魔族と言えど、特別に強いわけではない。

 少し、魔法に強いようではあるが、それでもエルフ族ほどの強度と量ではないのだ。

 もったいぶらずに、さっさと正体を現しておけばよかったのにと、強く思った。


 「いえ。あれ?私は……ここは?」


 豚が、キョロキョロとあたりを見回している。

 もしかして……。


 「豚よ。私は誰だい?」


 「いったい、誰だね。そのようなふざけた仮面を……。」


 「だまりな!」


 やっと終わりそうだと思った尋問であったが、問いただすことが増えてしまった。


 ◆


 ヴァンシュタイン枢機卿の尋問は、改めて騎士団の詰め所で、お父様との立ち会いのもと行われることになった。


 聖女召喚については、既に聞き出しているので、今回は魔族と教会の癒着についてが中心となる。


 まぁ、癒着しているわけではなく、教会の中枢にまで手を伸ばされており、好き勝手されているのが現状なのたろう。


 「ヴァンシュタイン枢機卿。魔族による精神支配を受けたと思われる時期について答えてくれ」


 お父様か最大限の敬意を持って、ヴァンシュタイン枢機卿に問いかけた。


 「うぅむ……。ミラとかいう女が、孤児院に来たのが昨年の暮れぐらいだったと思う」


 頭を振り、何かを頭の中から追い出したいのであろう。

 

 「そこからの記憶は曖昧なのか?」


 「そうではない。すべて記憶しているよ……ただ、判断が必要になると頭に靄がかかったように、はっきりとしなくなる」


 「あの魔族の女にコントロールされていたのだな」


 その様な魔法なのか、薬品なのかは不明であるが、理性のタガを外し、判断を欲望に傾けると言ったところだろう。

 

 「そのようだな」


 枢機卿の様子に、お父様も同意するしかなかった。

 

 「私は…私は……。」


 その場に泣き崩れる。

 子供たちにあれだけのことをし、その記憶を残しているのだ。良心が残っているのなら、その呵責に耐えられないであろう。

 それに、魔族の精神支配魔法とは言え、聖職者であり、その最高峰である枢機卿が、その魔法に抵抗できないとはなさけなさすぎる。


 この事件で、教会の運営について、ついぞ口を出してこなかった王室が、それを支配下に置き、金と汚職にまみれた中身を吐き出すことになるキッカケとなるのだろう。 

 

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