教会 3
「ミラさん。数日でよろしければなのですが、子供たちの勉強のお手伝いを、させていただけないでしょうか?」
フィッツと外壁区画の飯屋を訪れた翌日、私は一人で孤児院を訪れていた。
「えぇっと、クララ?さんでしたか」
「はい。昨日はありがとうございました」
「院長にも聞いてみますね。食堂の方でお待ちいただけますか?」
「分かりました」
昨日案内された食堂兼集会室に向かい、空いている席に腰を下ろす。
子供たちも昨日と同様に、黒板に向かい経典の書き写しをしていたが、やはり、どこか必死さが覗える。
この時間がキーとなるのだろう。
食堂はカリカリと書き写す音だけが響く。
経典をめくる音もないので、指定されたページだけを書き写しているのだろう。
意味を理解できているものがいるのかどうか……。
ガラっ。
食堂の引き戸が音を鳴らして開かれた。
その音で、子供たちの空気が緊張に変わる。
ここの大人は、何をやっているのだろうか?
「クララさんですね」
年配の女性が、ミラを引き連れてやってきた。
それに合わせて立ち上がり、出迎える。
「はい。クララと申します」
「この孤児院の院長を務めます、カミラです。どうぞお座りください」
勧められ、元いた席に腰を下ろす。
カミラは向かいの席に着いたのだが、彼女たちの方から仄かに甘い匂いが漂ってきたように感じた。
ラトーラがいれば分るのだろうが、私にはそこまでの薬学的な知識はない。
しかし、その香りは、孤児院で香るようなものでもないことは、私でも分かる。
フィッツの目をつけた通り、ミラは何かありそうだ。
「教師役のお申し出ですが、数日と言うことですと、やはり期間も短く…ありがたいお申し出でしたが、今回はお断りさせていただきます」
「突然の申し出でしたので、気になさらないでください」
「そう言っていただけますと、こちらも助かります」
ここは引き下がった方が良さそうだな。
◆
その後、孤児院への出入りを監視し易い、アパートの一室を借り、夕方から夜間にかけて監視するようにした。
手が足りず、フィッツとの二交替ではあるが、時間を絞っているのでなんとかなってはいる。
しかし、体を動かせないと言うのは、こんなにも辛いことだったのだと、思い知らされる一週間であった。
「フィッツ。なんだかんだと、毎日来ていたな」
「教会の馬車がな」
「もう少し、期間を空けたり、日を変えたりと警戒するもんだろ?」
「その辺が、ミラの何かで、おかしくなってのか」
「頃合いだな。今夜行く」
「オレは?」
「目立ちすぎるから、一人だな…ハンネ対策に、この金でどこかで飯でも食っててくれ」
そう言って、懐から銀貨を数枚出して、フィッツに渡した。
「オレだけ良いのかよ」
「アリバイ作りも立派な仕事だぞ!」
「へいへい。仰せのとおりに」
捕物に参加できないのはつまらないのだろう。
フィッツは口を尖らせ、不平をアピールしてみせる。
「何、私が学院に入学したら、フィッツが頭で動くんだ。程良い手駒も集めておいてくれよ」
最後に、金貨を一枚投げて渡す。
「そういうことね。分かった……無理だけはするなよ」
「分かってるよ。相棒」




