教会 2
明くる日。
お父様の許可をもらい、フィッツは晴れて私付きの騎士となったので、早速、王都の散策へと出かけていた。
「ここだぜ」
「孤児院か……ボインでフンワリなシスターがおるだろ」
「母性的で!ものごし柔らかと言って欲しいぜ!!」
図星であったようだ。
「あら?お客さ……フィッシャーさん」
シスターの方もまんざらではなさそうだ。
王都にはいくつかの孤児院が設立されており、その運営は教会が取り仕切ってはいるのだが、財源の七割は王国が負担していた。
まぁ、ストリートチルドレンがいないわけではないが、その増加を抑える役割を担っている福祉施設でもあるので、費用の負担について、王国としては何の忌憚もない。
ただ、本当に運営費に回っていればの話しだかね。
「シスター。初めまして、私はフィッシャーの友人でクララと申します」
予め決めておいた偽名を名乗る。
「これはご丁寧に。私はこの孤児院で子供たちの面倒を見ておりますミラと申します」
「ミラ。今日はこのお嬢さんに、孤児院を見せてやってくれないか?」
「それは構いませんよ。どうぞ、こちらへ」
建物の中へと招かれる。
建物自体が老朽化しており、所々、修繕が必要な箇所も手が回らず放置されている。
そこまで予算がないのだろうか?
否。それは違うだろう。
おおかた、どこぞの教会関係者の懐へと消えているのだろうな。
建物の内部も整理整頓され、掃除も行き届いているのだが、質素というよりも貧しさを感じてしまう。
子供が多いはずなのに騒がしくも無く、どこか雰囲気も暗い。
「この時間は、年齢に合わせて勉強をしています」
「教師を雇っているのですか?」
「年上の子が、下の子を面倒見るようになってます」
さて、このミラから、どうやって教会の中枢へとつなげていこう。
フィッツがここに連れてきた意図……もしかして。
「フィッツ。そうか、癒やしが必要なくらい疲れていたのだな」
「まぁな。厳しい上司がいるもんでな」
乗ってくれるじゃないか。
「騎士のお仕事も大変なのですね」
私たちの関係を知らないミラは、心配そうにフィッツを見た。
「あっ……いや、まぁ……色々ありまして」
しどろもどろに答える。
ミラの前ではかっこつけたいお年頃なのだろう。
さて、子供たちが勉強しているという広間兼食堂に案内されて来た。
皆、消し書きのできる黒板に向かって、必死に何やら書き込んでいる。
その姿は鬼気迫るものすら感じるほどだ。
「今は経典の書き取りですね」
さらりと言ってのけたミラ。
文字の読み書きが、皆できるというのか?
ゲーム内で識字率について、明言はされていなかったが、貴族や商人ならまだしも、孤児院のそれも教師がついていない子供が読み書きが出来ているとは思えない。
席を回り黒板を覗こうとするのだが、背中で手元を隠されてしまう。
なんとなく見えてきたかもしれない。
年長者が小さな子供に教えていると言っていたのに、そんな素振りは一切見えない。
「この子たちよりも小さな子は?」
「今の時間ですと、お庭ですね」
「陽気も良いし、庭遊びにはちょうどいいな」
そちらも、ここと同様に、異常な子供の姿が見れることだろう。
「フイッツ。そろそろ」
「あぁっと、ミラさん。今日は突然だったのに、ありがとう」
「いえいえ。フィッシャーさんにも、私たちの取り組みを見ていただけましたから」
フイッツに向けて、にこりと柔らかな笑みを浮かべるミラ。
その後、私もミラに礼を述べ、孤児院を後にした。
別邸へと向かう道すがら、フイッツの思惑通りに動くしかないと思う一方で、やり返されたなと思いもした。
「フイッツ。私を孤児院に連れてきたのは内部から調べろって事なんだろ?」
「正解!教師役ってのがいないみたいでな、お嬢なら代わりになるだろ?」
「やるのは良いが、学院の入学まで時間も無いんだ」
「それは大丈夫だ。この孤児院には定期的に、教会の偉いさんが来るみたいなんだよな」
「胸くそ悪い」
「おっと!そこまで分かったってのかよ」
「あの子供の反応を見ればな」
「どうも、あのミラって女が臭かったんだが、オレじゃこれ以上はな」
おっぱいに釣られていたのかと思っていたが、フイッツはフイッツで、何らかの情報を得ていて、独自に動いていたようだ。
「そのきっかけには会わせてもらえるのか?」
「こっちだ」
フイッツは王都の外壁区画の方へと、何かを避けるように路地から路地を抜けて足を進めた。
◆
外壁区画は同じ街だとは思えない程に、雑多で粗末な建物が並んでいる。
「ここだ……おばちゃ~ん。飯食わせてくれ」
「はいよ。空いてるとこに座んな」
ずいぶんと気安い関係なのが見て取れる。
「フィッシャーさんはいつものでいいのかな?そちらの方は?」
「同じものを頼むよ」
「はーい」
元気な返事をして厨房の方へと下がっていく女の子。
「今の娘なんだな」
「察しが良すぎて、しゃべる必要なしか?」
「詳しい話しを聞かせてくれ」
「だよな……もう、一年近く前の話になる……。」
フイッツと、その相棒が警邏で街を見回っていたときに出会ったらしい。
日も傾き、夕暮れの赤い光が、街を焼いたように赤く色付けるころ、警邏中のフイッツは何かを感じたのか、路地の方も見ていこうと相棒に提案したそうだ。
何の気は無しに入った路地は影が濃く、一足早い夜のとばりに包まれていたそうで、薄暗く、視界も良くなかった。
そんななかではあったが、どこの店の裏口だろうか、薄汚れた白いシーツに、何かを包んで置いてある。
近くに寄ってみると、頭だけがそのシーツからはみ出ており、気持ちよさそうな寝息を立てていたそうだ。
そのシーツ包みを保護して、この飯屋の女将に預けたそうだ。
全く、その足で別邸に連れてくれば、手間も省けたのだが、フイッツの屋敷に迷惑はかけられないと言う、気遣いも無碍にはできない。
「なるほどな」
「何かミスをすると、折檻部屋に連れて行かれて、色々とやられるみたいだ」
「やはりそうか……」
予想したことであったが、改めて聞かされると、胸の辺りがムカムカすると同時に、いたたまれない気持ちが生まれてくる。
「キズも見せてもらった」
「こういうことを報告してくると言うことは、あそこの孤児院に司教とまではいかないが、教会の中枢に関わる人間が来るのだな」
フィッツは私の問に、無言で頷いた。
金だけでなく、守り、育てるべき子供を、そのように扱うなんてな。
クズだ。




