入学試験 2
午前の筆記は問題ない。
午後の実技も問題はないと思う。
私は魔法技術ではなく、戦闘技術を選択していたので、更に距離が稼げるはずだ。
もう、うろ覚えとなった星メモのゲームシナリオでは、魔法と剣技ではクラスが違ったはずで、共同授業のダンジョン探索までは接点すらない。
「お嬢様。そろそろ行かれませんと」
昼食を終えて、だらだらとお茶を楽しんでいたいところだが、午後の実技は少し楽しみだった。
「そうだな。確か闘技場だったか」
同年代の子女たちと剣を合わせることなど無かったので、単純な好奇心だ。
「はい。そのように聞いています」
「行く」
「ご武運を」
控室を出て案内に従い闘技場へ足を運ぶ。
「よう。お前も剣技なんだな」
足を止め、声の方に向き直る。
午前の試験前に、ヤンキー高校生のような声掛けをしてきた男が立っていた。
顔にはニヤニヤと蔑むような笑みを張り付かせている。
パッと見たところ、体つきは悪くなく、もしかすると幾つか実戦も経験しているのかもしれない。
そんな雰囲気がある。
なんとはなしに右手を差し出してみた。
手を出す動きに合わせて、緊張から分析、判断となり緊張を解いて、私の右手を握った。
「自信に、それを裏付ける対応も悪くない」
「何言ってんだ?」
「お前は強いだろうって言ったのだよ」
「はぁっ?」
午後の試験に、楽しみが一つ増えた。
「済まない。闘技場までの案内を頼めるか?学院は不慣れなものでね」
「分かんねぇヤツだな……ったく。付いてきな」
ズボンのポケットに両手をツッコミ、先を歩いていく。
ちょっとイキってはいるみたいだが、頼まれれば断れない、そんな根の良いやつみたいだ。
さて、問題だったのは、午前の試験で隣に座った結城結奏の方だ。
ゲームの印象では、もっと穏やかで落ち着いた、柔らかい雰囲気だったように感じたのだが、実際に会った結城は、どこかギャルになりきれない半端者というイメージ。
制服を着崩してはいたが、かばっと胸元を開くでもなく、首元のリボンも少し緩めた程度だ。
スカートも短くはあったが、裾を上げているわけではなく、ウエスト部分を丸めているスタイル。
転移者なのか、それとも転生者なのかは、判断がつかないが、ゲームヒロインの結城結奏とは、明らかに違っていた。
「ここだぜ」
闘技場。
学院内の施設のはずなのだが、見た目はコロッセオそのままで、観客を入れて剣闘士の試合開催もできそうなほどだ。
「ありがとう。えぇと……なんと言ったかな?」
「名乗ってもいなかったな。オレはパーペン男爵家のスベロアだ」
「私はアスカニア公爵家のフリーデリケだ。ありがとう、スベロア」
「公爵家かよ!」
「よい。気にするな。気軽にリケと呼んでくれ」
「調子が狂うぜ。分かったよリケ。オレの方はロアで頼むぜ」
結城結奏との扱いの違いは、まず、互いに貴族家の者であることも大きいが、スベロアの実力と性格は、今後の私にとってとても大きな助けになると判断したからだ。
エギーユたちに比べれば、このくらいの口の悪さは可愛いくらいでもあるけどな。
二人肩を並べて闘技場の通路を進む。
「受験者は資格証と共に、こちらへお進みください」
貴族子女が多いからか、案内のアナウンスも丁寧だ。
「私は二番だから、ロアよりも先だな」
「だろうな。オレは三十番代だ。ゆっくり見させてもらうぜ」
「見るものがあれば良いのだが」
「ま、せいぜい頑張んな」
受け付けを済ませ、ロアと別れた。
私は控室の方ではなく、会場の方へと案内されているからだ。
控室とは言うものの、数に限りがある。
なので、番号順に観客席、控室、会場と順に呼び出しがなされ、観客席での待機中には、他の受験者の実力も目にすることができるのだ。
最後の扉を潜り、会場に出る。
円形の闘技場の足元は乾いた土となっており、足をバタつかせるだけで、土ぼこりが舞うような場所。
踏み込みも一瞬だけ潜り込む感じがするので、急制動をかけるときには滑りに注意が必要そうだ。
「受験番号、一番、二番前へ」
「はい」
右手の出口から別の受験者が出てきた。
金色の髪に柔和な顔つきの、なかなかの美男子で、体の線も細く見えるが、服の下は分からない。
この場に平服で現れているのは、余程の実力者なのだろうか?
油断はできない。
ロアも触れては来なかったが、私の方は街で荒事をこなす時の装束だ。
パンツスタイルなので、ズボンに膝下までのブーツ。
上は半袖のチュニックに手甲と、胸と腹を覆う革鎧を着け、上から細身のローブを着込んでいた。
獲物は会場でのことだったので、相手に合わせて適当に選ぶつもりだ。
相手は自身の出口付近に置かれた武器ラックから、片手剣と盾を選んだようだ。
私はどうしようか……。
「これにしよう」
多少のハンデがないとね。
私は武器ラックの上段から、ハルバードをむんずと掴み、片手でそれを扱う。
その場で軽く振り、獲物の重心などをチェックして、試験管の待つ闘技場の中心へ歩みを進めた。
「これから実技の試験を始める。共に訓練用で刃引きはされているが、当たりどころが悪ければ、大きな怪我をするから注意するように。何か質問は?」
「「ありません」」
「では、両者位置について」
相手の男が私に背を向け、間合いを広げるために離れていくのだが、私はその場から動かない。
男が振り向いて剣を構えようとして、私がその場に留まっていることに驚いていたが、気を取り直せたようで、剣と盾を構えた。
「始め!」
宣言と同時にハルバードを肩に担ぎ、全身に魔力を流す。
「やぁー」
対戦相手は立ち止まっている私に目掛けて、盾を前に駆け込んで来ていた。
ここからどうするのか知りたくなったが、さほど興味もないと思い、向かってくる相手の盾に、ハルバードを横薙ぎに叩きつけた。
木製の盾は砕け、それを支えていた腕すらも、砕いたかもしれない。
対戦相手は横に飛ばされ、剣を振るうことなく横たわっている。
「加減を間違えた」
そう思い、勝敗の宣言も聞かず、倒れた男のもとへと駆け寄った。
男は予想の通りに、左腕を押さえて呻いている。
「今、治す。ハイレンデス・リヒト(癒しの光)」
苦悶の表情であった対戦相手も、その表情が和らぎ、起き上がれるようになった。
「おい。大丈夫か?」
試験官も後から近づいてきた。
「はい。癒しのおかげで…。」
「勝者は二番」
私の実技は一振りで終わってしまった。




