入学試験
少し、カニアの街のことを話しておこう。
この五年間、治療師の育成に力を入れつつも、アスカニア家に隠れて、暴利を貪ろうとしている奴らの取り締まりも強めていた。
利権が生まれると、それにありつきたくなる。
なんとか組合や、なんとか協会、それに宗教がそれにあたるだろう。
街の組合や協会については、チリショーテ壊滅の威をもって、お前もそうなりたいかと、対話を重ね、反抗するようであれば実力を誇示して屈服させた。
ただ、人材不足は否めないこともあり、頭の取り換えはできないので、元からの頭を金で釣っている状態である。
少しでも翻意を見せれば、ムチが飛ぶようにはしているので、私がいなくても多少はもつだろう。
その辺りはオットーを中心とした少年探索団で取り仕切っている。
この中に修行中のエギーユたちもいた。
さて、治療師の方だが、薬の処方や診察、診断についての勉強会の方はラトーラに任せ、若手世代が中心となり形になりつつある。
このまま、学府として立ち上げてもよいかもしれない。
しかし、聖属性持ちの少なさから、私の後継がなかなか見つからなかった。
聖属性持ちはその性質から、教会勤めへと進む者が多く、人材がその外へと流れることは稀である。
そういうこともあり、教会は回復魔法を独占していると言っても過言ではない。
「なぁ、リケ。私って、魔法は使えるのか?」
最後の患者を見送った後に、治療室へと戻って来たガラハウが私に尋ねてきた。
そうか、教会での儀式を受けていないのだ。
儀式の内容は、レベルアップで取得できるボーナスポイント、それを消費して、ガチャを回すというイベントとなる。
なので、私でも代行はできるはずだ。
「ちょっと見せてもらうよ」
人物鑑定スキルを使い、ガラハウのステータスを覗く。
レベルも年相応で、ボーナスポイントも十分あるのが分かった。
「では、儀式を行う」
もっともらしく宣言した上で、両手を広げ目を閉じた。
やることは、属性ガチャを回すだけなのだがね。
「な、なに!?男の人?」
ガラハウこ声を上げる。
彼女の頭の中には、恐らくあの音と映像が見えてるのだろう。
と言うことは、属性は『聖』属性。
後釜が見つかった。
イベント終了後に、再度、ガラハウを鑑定してみたが、星屑スキルはつかなかったものの、私にはないアーラス様の加護持ちの『聖』属性だ。
「ガラハウは聖属性の魔法が使える」
「聖属性って、アレだろ。リケの使う…。」
「そう。だから、明日から特訓だな」
と、こんな流れもあり、教会に頼ることなく、後釜も見つけられたわけだ。
なかなかのご都合主義。
これもアーラス様の思し召しなのか、ゲームシナリオの強制力なのかは分からないが、治療院のその後も安泰となった。
◆
そして、話しは現在に戻る。
別邸から学院までの道のりは、憂鬱すぎて足取り重く。
道草を食おうものなら、ハンネからの強烈な叱責が飛びもした。
そして、残念なことに何事もなく、その正門へと着いてしまったのだ。
「マフィアの誘拐イベントでもあればよかったのに…。」
何かのトラブルで、受験自体がうやむやになってしまえばとも考えたが、当家は公爵だった。
お父様パワーで、ねじ込むなど容易いことだ。
「ぶつくさ言ってないで、シャキッとして下さい」
「これも貴族の務めか」
溜息一つ。
「会場はあちらのようですね。先に受け付けを済ませましょう」
「もう、後戻りはできないのだな」
受付はテーブルを並べた簡素なものだった。
受験者数だけでも相当な数になるだろうから、その対策なのだろう。
学院の受験資格は王国の貴族の子女、もしくは一定の収入のある商家の子女に、それらに該当するものの推薦状を有するものとなっている。
なので、身分に関係なく受験はできるようになっているのだ。
「次の方」
受付を担当している女性が、アナウンスをする。
次は私たちだったので、受付へと進み出た。
「これを」
学院より送られてきた受験者証をテーブルに差し出す。
「拝見します」
丁寧な応答。
さすが、王都にある学府の頂きといったところかな。
「これを持って、通路を進んで下さい。同じ印のドアの部屋へお入り下さい」
受験者証と、イラストの描かれた札が渡される。
「ありがとう」
礼を言って受け取った。
「次の方」
「何なの、その呼び出しはっ!私は……。」
貴族の子女だろう。
面倒くさい……。
案内された通りに通路を進む。
通路の南側には教室が並び、ドアには何らかのエンブレムが描かれており、手前から、獅子、グリフォン、フェニックス、ドラゴン、サーペントと続き、私の手にはフェニックスが描かれている札があった。
「ここか」
「お嬢様。私は控室で待っておりますので」
「分かった」
通路を進んでいくハンネを見送って、ドアノブに手をかけ、押し開いた。
教室はよくある階段状の講堂形式。
既に先に受け付けを済ませていた者たちが、思い思いの席に着き、試験の開始を待っていた。
私は入り口近くで一番下の段の席に着く。
目立ちたくもなければ、ここで誰かとコミュニケーションなど取りたくもない。
とにかく試験を終えて、さっさと帰りたいという想いで私の心は一杯だ。
「お前。どこの家だよ?」
(なんだ?!この問いかけは。ヤンキー高校生かよ!)
自分の考えに吹き出しそうになるのだが、さすがにそうはいかない。
肩を震わせ、笑いを堪える。
「なんだ?オレにビビってんのか、可愛い子ちゃん」
(わ、私を笑いで逝かせる気なのか?)
腹筋が攣りそうになりながら前屈みになり、兎に角、相手をしないよう努める。
「チッ。無視かよ、シケてんな」
去り際の捨て台詞も古い。
そんな男を見送ると、明らかに日本人と言った出で立ち……高校の制服姿……の女性が近づいてくる。
明るめの茶色の髪をセミロングのボブカットに切り揃え、甘めの目元に、通った鼻筋に、小振りだがふっくらとした唇。
愛らしい見た目の女子高生だ。
「ねぇ、隣空いてる?」
このタイミングで最も見たくなかった顔だ。
『星屑の聖女 結城結奏』その人だ。
とは言え、断る理由はない。
「空いている」
それだけ伝えた。
「知ってる人いなくてさ、私、結城結奏」
自己紹介まで始まってしまった。
「私はアスカニア侯爵家の息女であるフリーデリケだ」
さすがに、名乗らないわけにはいかないだろう。
「フリーデリケ……フリちゃんて呼んでいい?」
なんとも気安い。
ここに来るまでに貴族と接する際の作法を教わらなかったのだろうか?
「ご遠慮願う。それと、フリーデリケ『様』だ。まだ、学院生ではないのだ」
入学すれば家名や爵位にとらわれない、実力主義の学院だが、まだ、その学徒になったわけではない。
「あ……うん」
ここまでやられてようやく引いてくれた。
関わり合いになりたくはない人間のトップオブトップ。
早めに距離を取っておきたい。




