アルベドの背中 1
「諸君。では、参ろう」
私の言葉で、まずはトーマス、エンヴィのポイントマンチームが動き出す。
トーマスからのハンドサインで、アタッカーチームが動き出した。
フォーメーションは想定訓練時と同じ、マリアンヌとトロストのツートップから始まり、ダレン、ヴェーダのミドルライン。そして、ケツ持ちの私とつづく。
侵入場所はトーマスの提案の通り、北のゲートから少し離れた場所で、ここからならば建物への取り付きも容易になる。
そして、トーマスの言った通り、この場所は警備の死角とでも言うのか、私の気配察知にも人影は捉えられなかった。
エンヴィが先に壁の向こうを探り、その合図を待ってトーマスが続く。
その後、アタッカーチームが侵入し、最後に私となる。
私の侵入を確認すると、トーマスとエンヴィは何も言わず、建物までのルートを駆けた。
距離はあったが、どこからも見られてはいないようだ。
トーマスからのハンドサインは、チームで来ても大丈夫だという合図だ。
フォーメーション通りに動く。
今回の侵入作戦に当たり、皆の装束も私と同じ物になっている。
狐の面も着け、《狐》として動く初めてのチーム強襲戦である。
武装も統一され、ハンドガンとダガーを二本。
ハンドガンは、ハンネが狂乱しながら作り上げた、革製のホルスターに入れて移動してきている。
装束に、面に、ホルスター。
材料があるからとはいえ、ミシンもないこの世界で、よく作り上げたものだと、感心ではなく、畏怖の念を覚えるほどだ。
建物への侵入に際しては、マスターキーを使う。
私がドアノブを握って、捩じ切るだけなんだけどな。
鍵の機能しないドアを、トーマスの合図に合わせて開ける。
その先の通路を銃口を向けつつ確認し、トーマスが次の物陰まで駆けていき、合図を出す。
私の気配察知があるにも関わらず、こうした進行をしているのは、気配察知対策のカウンターマジックを警戒してのことだ。
魔法も万能ではない。
それができるのだから、それを防ぐことだってできるはずだ。
ライフルのような魔導器を量産する国である。
どれだけ警戒しても、全てをクリアすることなど、できはしないだろう。
廊下から階段に移る。
上階の警戒はエンヴィが先行して、結果をトーマスに伝えると、トーマスが後に続きアタッカーチームに合図を出す。
手のひらを広げて私たちに向けた。今回は待てだ。
アタッカーチームも待機フォーメーションとなる。
ダレンと私が、後方警戒の左右を分担することになっていた。
こちらも、いつ人が来るのか気が気ではない。
緊張の時間が続く。
一秒が一時間にも感じられ、構えたハンドガンのグリップを握る手に、じっとりと汗をかいていた。
時間にして三十秒程度だろうか、永遠に思われた時間もヴェーダの肩叩きによって終わる。
前進だ。
私はダレンの肩を叩き、ダレンが先行して階段を登っていく後に続いた。
侵入は順調に進み、作戦前にトーマスから聞いていた部屋の前まで、割とすんなりと来れてしまう。
事の後の脱出の方が難しいと思うのだが、今回の帰りはポータルの魔法がある。
脱出に考えを割く必要はないのだ。
私の気配察知には、部屋の中に人影が二つ。
鍵は掛かっていないと思うが、先頭のトーマスからマスターキーのリクエスト。
今回は中に人がいることが予想されるので、ドアノブを捩じ切ると同時に、トーマスとマリアンヌが飛び込む手順となる。
三、二、一とトーマスが指を折り曲げていき、行けの合図。
それと共に、ドアノブを捩じ切りドアを押し開く。
私は正面に銃口を向けて構え、トーマスとマリアンヌの突入を援護する。
撃たれることも想定し、なんとかシールドの魔法が使えるようになったトロストが、私の前にそれを展開した。
そして、私の両脇から低い姿勢で突入していくトーマスとマリアンヌ。
ここで、いうセリフは決まっている。
「動くな」
部屋には、軍務大臣と基地司令の二人。
私達の手にしているものを理解せず、大臣の方は立ち上がろうとした。
バカだな。
私はトリガーを引き絞り、その肩を撃ち抜く。
撃ち抜かれた大臣は、肩を押さえ椅子に戻る。
痛みからか、額に汗が噴き出していた。
「ふざけた……。」
口を開いたので、もう片方の肩も打ち抜く。
「ぐぅっ……。」
「誰が口を開いて良いと言った。次はないぞ?」
警告を発した私を睨みつける男。
反抗心があることは認めよう。だが、逆転できる目もない状況では、単なる強がりにしか見えない。
「さて、アルベドの諸君。突然の訪問で申し訳ないね」
アルベドという言葉に、二人が僅かに反応した。
まぁ、事前に関係があるどころか、その中枢を乗っ取っていたことまで、こちらは知っているのだがね。
私は執務机の方へと足を進める。
私の後を追い、ヴェーダとダレンが室内に入ると、ドア際から廊下を監視する体勢に移っていた。
「ずいぶんと、好き勝手やってくれたな。お前たちの所業には、魔族領の主もお冠なのだよ」
机の上にあるものを薙ぎ祓い、座る場所を作る。
そして、私はそこへ腰をかけると、ハンドガンの銃口を男の額に突きつけた。
「さて、少し話しを聞いてやろう。お前たちは何が目的で、魔族領から子供や魔獣を攫っていったのだ?」
質問をしたが、答えはない。
ハンドガンのグリップで、男の顔を一発殴る。
「答えろ」
「……カメリアを変えるためだ」
目を伏せた男の答え。
「嘘だな」
再び、男を殴る。
「何がカメリアを変えるだよ。どう変えたいんだ?魔族領の子供を攫って」
「……。」
男は何も答えない。
そりゃそうだ、国を変えたいならば、議会議員の取り込みを積極的にやった方がよい。
それに、漠然と変えたいと言われてもな……。
「大義だ、志だと騒ぐだけ騒いだだけかよ。中身も何にもないのに、何が国を変えるだ」
私の言葉に何も反論はできない。
バズから、コイツらの挙げている議案を見せてもらっていたのだが、上っ面だけのペラペラのものだったよ。
「そうか。目的もなく、無辜の民……しかも、子供を攫っていったのか……救えん奴らだ」
私は躊躇なく、トリガーを絞った。
魔力の弾は、入射時に潰れることがないため、キレイに貫通するのだ。
男が背にした壁に、多少の血しぶきが散っていたが、それだけだ。
「さて、君。君は話しをしてくれるだろう?」
私は執務机に腰掛けたまま、トーマスとマリアンヌに銃口を向けられているもう一人の男に振り返った。
「君たちの目的はなんだったのだ?」
男は、やはりしゃべらない。
いや、あれだけ上役が詰められていたのだ、喋るに喋れんだろうな。
机から立ち上がり男に近寄ると、その鼠径部に銃口を当てた。
「喋れないのならば、選択肢をやろう。一。子供を攫いカメリアと魔族領の関係悪化を促進させる」
銃口を今度は胸に当ててみる。
「二。魔族領を孤立させ、人族対魔族の対立を作り出す」
そして、頭。
「三。大戦を誘発させ、勝利する」
胸へともどし……。
「四。魔鉱石の採掘権を独占する。さぁ、どれなんだい?」
再び、鼠径部に戻ってきた銃口。
男は、プレッシャーと恐怖で、汗を流し始め、身体も僅かに震え始めていた。
「まぁ、選べるわけもないか、お前らの目論んでいたことを並べただけなんだからな」
私の言葉に、僅かだが男は頷いた。
「虫けらが」
そう呟いてトリガーを引く。
男はその場に崩れ落ち、床の上で呻いていた。
そりゃ痛いさ。
股関節を砕かれたのだから。
男の前に私はしゃがみ込み、髪を掴んで顔を上げさせた。
「お前たちは犯してはならない罪を、一度ではなく、幾度も重ねてきたのだ。その命をもってしても償いにはならない」
私は髪を離して立ち上がると、床に顔を伏せた男の頭を、撃ち抜いた。
床に広がるドス黒い何か。
あれだけ酷いことを、平然と命じてきた者には、赤い血など流れてはいない。
だから、ドス黒い何かが床に広がっていっているのだ。
「さて、用は済んだな」
魔導器のハンドガンは実に良い。
魔法を使ったという反応こそ出るのだが、音もなく魔力弾が射出されるので、事後であっても誰も駆けつけては来ない。
「次に向かおう」
そう言って皆の方に振り返ると、私を見て心配そうだったり、引きつった顔をしていた。
きっと、感情を何も映していない目をしていたのだろうな。




