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悪役に生まれたのなら、徹底的に悪の道を貫いてやる!  作者: 鈴木ハルカ


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アルベドの足跡 7


 さて、本題であるアルベドの方は、本拠点消失から表立った動きは見られなかったが、しかし、裏の方ではその動きも、慌ただしくなっているようであった。


 バズからは、カメリア議会での急進派の状況が共有され、その動向に焦りが見えるようになったそうだ。


 アルベドの本体が弱体化したことを、他に知られる前に通したい議案でもあるのであろう。

 しかし、今までのようにアルベドの工作員は使えず、流動票の獲得が思うようにできていないこともあり、何か行動を起こすのではないかと、議員のなかでも噂になっているようだ。


 このまま放って置くかとも考えたが、頭が残っていて、軍を動かせる以上は、やはり、殲滅するしかない。


 「ヴェーダ。トロストとマリアンヌを呼んできてくれ」


 執務室の席で算盤を弾いていたヴェーダが、顔を上げる。


 「今ね。月末締めの最中なの。ご自分で行ってくださらないかしら?」


 「うっ……それは、お疲れさまです。ハンネ、ヴェーダにお茶を淹れて差し上げてくれ」


 オルグへの製作依頼で、相当な予算を使ってしまった私の尻拭いを、ヴェーダがしてくれているのだ。

 魔鉱石ならゼノに頼めば融通してくれたのだろうが、ミスリル銀を使ってしまったからな……そのうち、どこかの鉱山で強制労働でもさせられそうだ。


 自分で領事館を歩きトロストとマリアンヌを探す。


 「大使。何かありましたか?」


 廊下でダレンと行き合う。


 「トロストとマリアンヌを呼ぼうと思ってな」


 「なら、トロスト外交武官は、私が呼んで参りましょう。マリアンヌ様は、ラウンジにおられましたので、そちらへ行かれると良いかと」


 「ありがとう」


 「いえいえ……では」


 「あっと…ダレン。お前も一緒に執務室だ」


 「畏まりました」


 一礼して、トロストのいるであろう方向に向かっていった。


 マリアンヌはダレンの言う通り、領事館一階のラウンジで読書中であった。


 「レディ。ご一緒させてもらって良いかな?」


 マリアンヌに声をかけた。

 本から視線を上げて私の顔を見ると、口元に柔らかな微笑を浮かべる。

 こういうマリアンヌの所作は見習いたいものだ。

 

 「リケちゃん。どうぞ、座って」


 そう言って席を勧めてくれる。


 「済まんな。実は、呼びに来たのだよ」


 「そうだったのね。その顔は決まったってことでしょ?」


 「敵わないな……それでは、お手を」


 そう言って、マリアンヌに左手を差し出す。

 そこに当たり前のように、右手を乗せ立ち上がるマリアンヌ。

 彼女には、なぜかこうせねばならないような雰囲気があるのだ、淑女とはこうあるべきなのだろうな。


 ◆


 執務室にはトーマスがいないだけで、狐のメンバーが揃った。

 エンヴィもハンネの作った狐の面を付けて楽しそうに、部屋を飛んでいる。


 「さて、集まってもらったのは、カメリアの要人三人を潰すと決めたからだ」


 「国家間の諍いになるんじゃないのか、さすがに」


 トロストは現実的だ。

 確かに、私やトロスト、ダレンが表立って動けば、ハイデルとカメリアの間に溝ができるだろう。


 「そうだな。だが、頭を潰さねば、アルベドは消えんだろ?」


 「それはそうだが、政治に任せても良いんじゃないのか?」


 「そうですよ大使」


 トロストに続きダレンも反対のようだ。

 だが、私の目指すモノに、国など関係は無い。


 「確かに国家間の関係は悪化するだろう。だが、忘れていないか?放っておけば、ゼノがカメリアを焼き尽くすぞ」


 「そうよね。カメリアと魔族領との関係は、ゼノ陛下を、リケちゃんが抑えてるから、悪化していないように見えてるだけなのよね」 


 「本来の状況は最悪なんだよ。そして、大戦を阻止する。それを請け負ったのは私だ」


 「しかし、それをハイデルが……。」


 トロストは勢い込んで声を発したが、語尾は小さくなっていく。

 それもそうであろう。あの子供たちを目にしていて、立場がどうとか言える人間ではない。


 「それに、今回の襲撃はコレをメインに使う」


 ハンドガンを机の上に出した。


 「あぁ、そういうことね」


 マリアンヌが納得したような声を上げる。


 『どういうことなのよ。マリアンヌ』


 「エンヴィ。あなた、私の考えも見えたんじゃないの?」


 『皆の声がゴチャゴチャだから、見てないわよ!』


 皆。どこかで葛藤があるのだろう。


 「マリアンヌの思ってる通りだ。コレの存在については、私たちとカメリアしか知らない。ならば、コレを使った襲撃ならば……。」


 「カメリア内部のイザコザと見ると」


 ダレンも合点がいったようだ。


 「しかし、そう上手くいくのか?」


 トロストは未だ懐疑的だ。


 「トロスト。戦場を変えてしまえるほどの武器だぞ。それを他国に問えると思うか?お前の国でもライフルを作っているのかと」


 「そうだな。他国には秘匿しておきたいものだよな……。」


 トロストは私とのこの問答で、自身が政治向きではないと、至ってしまったようだ。


 「それにな。私が気に食わんのだよ。バズには良くしてもらってるが、国としての自浄努力が足りん!ゼノに焼き払われんと分からんと見える」


 「前置き。長過ぎません?」


 ヴェーダが算盤を弾く手を留めて、そう言った。

 なんとも辛辣なお言葉。

 

 「そうよね。トロストっ!グダグダ言ってないで、私について来い!!……それだけで良かったんじゃない?」


 マリアンヌも辛辣だな。


 『終わった?終わったの?人族は考えすぎなのよね……疲れちゃわないの?』


 どこか上の空だったエンヴィが、正気を取り戻したように、瞳に光を戻していた。


 コンコンコン。


 タイミングを見計らったように、ドアがノックされる。


 「入ってくれ」


 「いつまで待たされるのかと思ったぜ」


 部屋に顔を出したのは、トーマスだった。

 ハイデルとのつながりを掴まれたくないと言って、領事館には近寄らないのだが、今回は特別ということで顔を出してくれた。


 私の執務机まで歩いてくると、机の上に一通の封書を置いた。

 封書にはカメリア王室の封蝋がされている。

 これならトロストも逡巡することなく、アルベド殲滅に注力できるだろう。


 私個人としては、気に食わないがね。


 封を切り、中から一枚の紙を取り出す。

 広げてみれば、こちらにも王室の印章があり、正式な依頼が記載されている。


 「気を回してくれたバズからのプレゼントだ。この作戦は、カメリア国王より《正式》に、狐に下賜されたぞ!」


 私の言葉に、作戦に前向きではなかったトロストとダレンの顔が変わる。

 お前たち……ニコラウス伯父様の剣じゃないのか?

 

 「それじゃ……。」


 「ハイデルとは、名実ともに関係ない作戦になったな」


 顔が引き締まるトロストとダレンに、私は複雑な心境だった。

 マリアンヌと目が合うと、彼女にウィンクされる。

 エンヴィでなくとも、私の心はお見通しのようだ。


 ◆


 襲撃戦を前に、参加するメンバーでの、想定練習をしている。

 メンバーは私、トロスト、マリアンヌ、ダレン、トーマスにヴェーダとエンヴィ。

 銃器を使った戦いというのは、各々が初めてであり、剣や弓とは間合いも違えば勝手も違う。


 トーマスとエンヴィのポイントマンコンビは、凄まじいほどの早さでターゲットのポインティングをこなし、後から付いてくるアタッカーチームを置き去りにしてしまうような場面も見られた。


 アタッカーチームは前面にトロストとマリアンヌのツートップ。ミドルラインに視野の広いダレンと、レンジの長いヴェーダを置き、後方警戒装置の私と言うフォーメーション。


 「トロスト隊長!右前方」


 「ダレン。方位だけ伝えるんだ。ニ時。敵」


 私の声掛けに、いち早く反応して射撃までこなすマリアンヌ。

 こちらはポイントマンチームとの連携もスムーズで、ほぼ、声を出さずに手信号だけでコミュニケーションをとっていた。


 トロストとダレンは騎士という立場と、その訓練の積み重ねが抜けずに、新兵装の運用がうまくいっていないようだ。

 射撃に関しては、二人とも問題ないのだが、やはり、チームで動くとなったときに剣戟を意識してしまっている。

 

 練習している場所は、移民街を抜けた先にある倉庫街。そにある倉庫の一つを占有し、板壁等を使って屋内想定のコースを作り、訓練を行なっていた。

 この場所は、ネズミの伝手で手配できたもので、練習用ターゲットの再配置等の手伝い等の人足もネズミに用意してもらっていた。


 「ヴェーダ。角を曲がって十二時に百歩。いけるか?」


 ポイントマンのトーマスから声が上がる。

 

 「任せなさい」


 ヴェーダは意外な戦力だった。

 とにかく認識が早く、射撃も正確で、三十歩以上の距離ならば、誰よりも当てる。


 《クリア。先に進む》


 トーマスのハンドサイン。

 しかし、私の気配察知に一つ影が映る。

  

 「ハイリゲ・シルデ(聖なる盾たち)」


 前面にシールドの魔法を展開すると、二時の方向から石が投げられる。


 石粒だって当たれば痛いが、それがなければ、訓練も身が入らないというものだろう。

 こういった訓練の手伝いも、ネズミに手配してもらった人足たちでまかなっている。


 ◆

 

 人足と私たちは決行までの時間を、倉庫の一部を改修した宿泊所で寝泊まりしていた。

 これは、情報漏えい予防のためだったのだが、思いの外、人足たちには好評である。

 寝る場所に飯、着替えに風呂まで付いているとなれば、移民街に戻りたくもなくなるよな……小遣いももらえるし。

 

 「いやぁ~。仕事なのに、こんなに良くしてもらって良いんですかね」


  訓練を終えて、領事館から送られてきた書類に目を通していると、風呂上がり姿のネズミが、簡易的に置かれた私用の執務机に寄ってきた。

 今の私は、狐の面を着けてはいない。

 

 そして、ネズミの手にはエールのジョッキが二つ。


 「気が利くな」


 「そりゃ、どうも。ほいっと」


 受け取ったジョッキを口に当て、煽る。

 程よく冷えたエールが、ノドに心地よい。

 これもエンヴィのなせる技で、エール樽を氷漬けにして冷やしているのだ。


 少し離れた食堂を兼ねた娯楽スペースでは、狐のメンバーと移民街から来ている人足たちが、楽しそうに酒を酌み交わしている。

 

 「ネズミが見たかった未来は、あんな感じなんだろ?」


 「参ったな……分かっちまいやすか」


 照れ隠しなのか、ジョッキを煽るネズミ。


 「あっしは……そりゃ、金持ちになりたくないって言ったら嘘ですぜ。だけど、普通に仕事して、普通に飯食って、普通に帰る場所がある……そんな普通を求めて、はるばるカメリアまで来たってのに」


 「ネズミは南の方の出なんだな」


 「そこまで、お見通しとは……いやはや」


 「私の部下にも、一人いるんだよ。娼館を三軒任せてる」


 アヒムの浅黒い顔が思い出される。

 

 「ずいぶんと信頼されてやすね」


 「始めこそ敵対組織の幹部の一人だったんだがな。何故か向こうに信頼されてしまってな……その信頼に応えたまでだよ」


 「じゃぁ、あっしもキツネ様を信頼したら、何か任せてくれるんですかい?」


 「ネズミ。そういうところだぞ。私はお前を信用し、信頼したから、ここの手配に人足集めを任せたんだろうがよ」


 「ははっ……いけねぇな。すっかり、あっしの目は曇っちまってる」


 「そのうち晴れるだろうよ……っはぁ〜。もう一杯、頼まれてくれるか?」


 「へい。お任せを……。」


 「「はははははっ」」


 二人。ひとしきり笑い合い、ネズミはエール樽の方へと歩いていった。

 少し項垂れたような後ろ姿だったが、時折、顔に手を当てているのが見える。

 もしかしたら、泣かせてしまったかもしれないな。


 ◆


 想定訓練は順調で、元々、戦闘能力の高い集団だ。

 ニ週間の反復で、私の想定を軽く超えてきた。


 そろそろだな。


 皆を食堂に集め、ネズミに手配させていた別チームの調査から作った、カメリア軍の演習駐屯基地の地図を広げる。


 「基地の地図ですね」


 現地に行ったことのあるダレンが声を上げた。


 「そうだ。トロスト、トーマス、ダレンはより詳しい説明ができるだろ?」


 三人からの聞き取りをしつつ、地図を補足していくが、街のゴロツキたちも、いい仕事をしてくれたようだ。

 建物配置の変更などはなく、説明だけが書き加えられていく。


 「侵入するとしたら、西か東だな」


 「いや、北のゲートから、少し離れたところがいいと思う」


 トーマスが口を挟んだ。

 前回の訪問時に、何かを掴んできたのだな。


 「分かった。トーマスの案に乗る。そこからのエスコートは任せたぞ」


 私の言葉に、自身の胸を叩いて示すトーマス。

 その相棒のエンヴィも、何故か胸を反らしていた。


 「それでは、三日後の夜に」


 私の言葉に、皆は黙って頷き執務室を出ていった。


 「カッコつけてるとこ悪いけど、ここに印章ちょうだい」


 予算の申請書が、ヴェーダから差し出されたのであった。


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