アルベドの足跡 6
相手の本拠地に乗り込んだら、本来は数多の構成員に囲まれ窮地に陥るが、知恵と工夫と魔法と筋力。それに、友情でそれを乗り越えるものなのだろう。
だが、私はしない。
今回は人質もなければ、交渉が必要な相手ではないのだ。
折角、マリアンヌやトロストといった戦力があるのだが、次のために温存だ。
移民街でもカメリアの街に近い地域まで歩いてくると、先を歩いていたネズミが遠慮がちに振り返った。
「姐さん。ここです」
移民街には不釣り合いな、レンガ積みの四階建ての建物をネズミが指差す。
「ここは、ずいぶんと立派な建物だな」
「元は役所だったみたいですぜ」
「そうか……新築して移動でもしたのだろうな」
「いや、移民街にするってことで、元の住人ごと引っ越したんだよ。キツネ」
背後の路地から声をかけられる。
「トーマス。突き止めていたか」
「こっちは地道に調べてたどり着いたってのに、お前は一足飛びに迫ってくる……自信をなくすよ」
そう言って、肩をすくめてみせた。
とはいえだ。やはり、ここまで迫っているのだから、トーマスの調査力は流石の一言。
「そういうな。今回は運が良かったんだよ……そこのネズミが元のアルベドからのメンバーでな」
「移民たちの互助組織だったっていう」
「よく調べてるな」
説明が省けるのは楽なのだが、そこまで調べているなんて、末恐ろしいな。
私はどんな秘密を知られているのだろう。
「姐さん……そちらは」
遠慮がちにネズミが口を挟んできた。
「すまん。こちらは私の有能なスカウトであり、相棒のトーマスだ」
「トーマスだ。よろしくな」
トーマスの挨拶を待ち、ネズミの方の紹介に入る。
「こっちは、元のアルベドのリーダーのネズミだ」
「なっ!?そこまで、バレてましたか」
先の事務所での態度を見れば、そこにたどり着くのも容易だろうに。
「リーダーね……となると、お前がウマルか」
おっと、私の知らない情報が出てきた。
トーマスには隠し事はできないと、実感する。
「ネズミはネズミよ。さて、やるぞ」
「ちょっと待て、三人でやるのか?」
驚きの声を上げるトーマス。
今に始まったことではないが、さすがに四階建ての元役所だ。内部の人数も不明で突っ込むには、不安が大きいか。
「いえ、姐さんお一人でやるそうですぜ」
ネズミが呆れた声で、トーマスに伝えた。
「いくらキツネがアホでも、そりゃ無謀ってもんだよ」
アホと呼ばれたよ。
「まぁ、見ていろ」
二人の目の前で、魔法を展開する。
一つ目はいつも秘匿したい会合などで使っている、結界の魔法。
それで、建物を隔離する。
そして、二つ目。
建物の中をイメージして、そこで魔力の爆発を連続で発生させた。
こういうことが可能なのだから、結界の魔法も万能ではないってことだ。
レンガ積みの建物が内側から爆ぜ、崩れていくが、結界のおかげで瓦礫が周囲に飛んでいくようなことはない。
「派手にやるとは言ってましたが、こりゃあ……。」
「あいつらと軍のつながりも、瓦礫の下か」
その光景を目にして、がっくりと肩を落としたトーマス。
「トーマス。私は世直しをしたいわけじゃない。カメリアの軍がどうとか、そんなのはどうでもいいんだよ」
「それじゃあ、アルベド潰しはどうするんだ?」
「やるさ。次はヤツラの方から来てくれるだろうしな」
「だろうな」
「それで、お二方。あちらの瓦礫は」
「消しておくよ」
無数の魔力泡を展開して、瓦礫を更地にする。
ハイデルでも倉庫などを消した際に使った魔法だ。
「でも、本当にきやすかね?」
「あのてのヤツらはメンツを大事にするからな」
「そうは言いますが、キツネの姐さんの住処なんか掴めるんですかい?」
「「あっ」」
トーマスと声が被る。
正体も住処も、尾行者を全て葬ってきたのだから、分かるはずもない。
ヤツらも襲いたくても手が出せないという、歯痒さを味わうことになるだろう。
それはそれで、面白そうだ。
それに、焦りが出れば、人は過ちを犯すというものだ。
「まぁ、良い。それに、意図的に流すこともできるか」
そう言って、ネズミを見る。
「あっしですかい?」
「それは、良い手だな」
トーマスはネズミの肩を叩いて、私の案を推してくれた。
「トーマス。拠点は消したが、情報は取れているな」
「そりゃ、時間かけてコツコツ集めてたからね」
「社会的にもご退場願おうかね」
「なら、オレっちは寄り道して帰るわ」
「悪いな。ケヤキ亭で落ち合おう」
「それで、あっしは?」
「付いてこい。まずは、風呂と着替えだ」
ハンネの言いつけを思い出し、着替えの調達と浴場で匂いを落としてから、帰ることにする。
「ところでネズミ。風呂屋を知ってるか?」
「あっしの知ってるところは、女のいるところですぜ」
「そこでいい。頼むよ」
ハイデルでは、娼館を三つ持ってる身だ。
どうせなら、勉強してハイデルにも作るかな。
◆
アルベドの拠点消滅から数日。
ようやく新たな魔道具を手にできた。
魔力弾射出器のハンドガン化は成功し、私の手の中にあった。
しかも、ルーンを扱えるオルグは別のものまで作り、その試し撃ちで、再び屋敷の壁を吹っ飛ばしたのだ。
「お嬢。こっちも試してみんか?」
ハンドガンの試射を終えると、オルグの手には形こそライフルに似ていたが、銃身、いや、砲身と言ったほうが良いモノを持った銃器があった。
「オルグ、これは?」
「ちいとばかし、いじってみたんじゃがな。試してみろ」
そう言って渡されたものを受け取り、ライフルと同様に構えてみたが、砲身に高さがあるせいで、照門が覗けなかった。
そこで、腰撃ちに変えてみる。
「撃ち方は同じだが、少しばかり魔力を喰うから気をつけろよ」
「分かった」
魔力を流し込みトリガーを絞る。
砲身からは魔力の奔流が、凄まじい速度で流れ出し的と言わず、屋敷の囲い塀と言わず、なぎ倒していった。
ゲロビ……ロマンじゃないか!
その威力に、高揚する気持ちが抑えられない。
「オルグっ!良いぞ!!これは、イイモノだ」
「お嬢なら、そう言ってくれると思ってたわい」
自慢げにオルグはそう言ってみせ、高らかに笑い声を上げた。
「お二人とも楽しそうでなによりてすが、お嬢様。こちらの惨状は?」
アスカニア家執事のハンスが、冷めた視線を私とオルグに向けた。
◆
結局、ハンドガンのアンダーボディもオルグが作ってしまっていた。
数はハンドガンタイプが六丁に、バズーカタイプが二門。
私用のものは、エンヴィ製のモノに換装してある。
改めて手に取り、コレを使った戦いを考えてみたが、完全に今までの戦い方を一変させる。
既にマリアンヌ、ヴェーダ、トロストに渡してあるが、トロストには不評だった。
今までの剣での戦いが、否定されているように感じたのだろう。
分からないでもない。
「トロスト。私が与えたそれは、カメリアのものより少し強いがな……防げない強さじゃない」
「鎧では無理だろう?」
トロストが手に持ったソレを、ジッと見つめ逡巡している。
「それだけではな。なぁ、盾の魔法を習得してみないか?」
ハッと顔を上げるトロストだったが、直ぐに表情は暗いものとなる。
「オレは聖属性ではないからな……。」
「ちょっとみてくれ」
私は小さなつむじ風を出し、それをくるくると手のひらの上で踊らせた。
「私は聖属性持ちだが、こうして風の魔法も使えるようになった」
「お前が規格外過ぎる……そうではないのだな」
「エンヴィにモニョモニョするってのを、習った結果だよ」
「モニョモニョ?」
「すまんな。そこは上手く言語化できないのだが、魔法ってのはあくまでもイメージだ。属性ってのは得意分野で、他の属性……その考え方も違うのだろうな」
「オレも魔法については門外漢だからな。だが、オレでも盾の魔法は使えるってことだな」
「そうだ。まずは、魔力で板を作るところから始めてみるといい。エンヴィやヴェーダという、魔法のエキスパートがいるんだ。使わん手はないだろ?」
「盾の魔法は、魔弾を防げるのか?」
「防げる。それに、両手が使えるから剣を捨てる必要はないよ」
「そうか、弓兵相手と同じか……近寄りさえすれば、今のままでも対応できる」
「ソレの戦術は、まだまだ発展途上だろう……ならば、今持てる最高のものを補完してやるほうが早いし、混乱もない」
「そこまで考えていたのか……オレもまだまだだな」
「手始めに、ここの武官は全員が対応できるようになってるといいな」
「仰せのままに。トリーア大使」
大仰な礼をしてみせるトロストだった。




