アルベドの手 5
「メインの後に出すのもなんだが、コレも戦利品だ」
トロストが出したのは、ライフル銃だった。
「ライフル?!どこでコレを」
「ライフル?そういうモノなんだな……まぁ、いい。視察の帰りに襲われたのは報告したが、襲撃者が使っていたものだ」
色々と問いたいことがあるのだろうな。
しかし、それに答えることは……。
「異世界の技術だな……向こうでは鉄の玉を、火薬というもので飛ばすらしいが」
ゼノが事もなげに言ってしまった。
「そういうことだ……うぅん」
トロストからライフルを受け取る。
デザインは古く、二次大戦くらいのガーランドというモノに似ていた。
木製のアンダーボディに、金属の銃身とアッパーボディ。
薬室やボルトにあたるものは無く、トリガーのみ取り付けられている。
ライフル銃に魔力の残滓を感じるので、射撃には魔力が必要なのは分かった。
「こいつは……世界をひっくり返すゲームチェンジャーになるな」
構えて照門に照星を合わせる。
「どういうことなんた?陛下もそう言っていたが」
トロストが少し焦ったように、問いかけてきた。
「皆。少なからず魔力を持っているだろ?」
「そうだな」
「魔法を使うとなると、同じ魔法だとしても研鑽を積んだものは、少ない魔力で発動させられる……そこまでは知っているか?」
ゼノとエンヴィはウンウンと頷いていたが、他の者はよく分かっていないようだ。
『これはスゴいわね。使う魔法の魔力をぴったり同じになるようになってるわ』
「エンヴィの解説通り、研鑽を積む必要なく、無駄な魔力消費が抑えられる……この魔道具さえ使えばな」
エンヴィはいたく気に入ったようで、ライフル銃にまとわりついていた。
「あぁっ!?だからか」
ダレンが声を上げた。
そのことに、皆が驚く。
「すみません。演習施設の端に的を置いた場所が見えたので、案内の人に聞いたところ、魔法の訓練との説明だったのです」
ダレンが、そこまで一息に話した。
「何か感じたのだな」
私の問にダレンが頷く。
「魔法の訓練にしては、直撃跡が小さかったので疑問だったのです」
「と、なると……カメリアは訓練に必要な分の量産を終えていると見ていいのか」
頭を抱えたくなる。
星屑メモリーズの設定に、そんなことが書かれていた記憶はない。
となると、私と同じ転生者なのか、召喚者なのか、どちらかは分からないが、技術をもたらしたものがいるのだろう。
そう言えば、魔族領のエレベーター……問うてみるか。
「ゼノ。魔族領にも異世界から来た者がいるのだな」
「いた。が、正しいな。なぜ、分かった。我、妻よ」
「妻ではない!……エレベーターだよ。それにホテルだな。確証を得たのはライフルだがな」
「そうか……お前もなのだな」
自分で口を滑らせてしまったことに、ゼノの指摘で気づいたが、後の祭り。
肩を竦めてみせるしかない。
「そうだよ。私は向こうの世界から来た」
「マジかよ!……なんてな。そうじゃないかとは思ってたがね」
私の告白に、トーマスがそう言った。
付き合いが長いだけに、どこかで気づいたのか?
「カニアから一緒だったんだ。それに、白狼のやり方は斬新すぎたよ」
そう言って、私に笑いかけた。
「いやいやいや。フリーデリケが異世界人?!」
トロストとダレンは、呆然としていた。
ヴェーダには話していたが……あれ?ハンネは驚いていない。
『人族は、魔力が見えないってホントなのね』
呆然とする二人の周囲を、フラフラとエンヴィが飛びながらそう言った。
魔力で色々と判断をする妖精に、私がどう見えているのだろうか気になるところだ。
◆
私のことは、既に結城結奏とヴェーダの件で語られているが、改めて、妖狐のメンバーにも話して聞かせた。
「下らない男だったのね……」
マリアンヌが、ボソリと呟いた。
マリアンヌだけではなく、話しを聞いた皆が一様に暗い顔になっている。
「何を落ち込んでおるのだ。あくまでも、ここに来る前の話しだ……今は皆をこき使っておるのだ、以前の私のようになるなよ」
「それもそうだな……オレっちは、次の調査に出る。また、ケヤキ亭でな」
トーマスが気を利かせて、わざとぶっきらぼうに振る舞い、執務室を出ていった。
「我が共に居ればな……。」
「東京が火の海に沈んでたな」
「東京?」
「そういう、地名があるんだよ」
「そう言えば、我が領に訪れたものも、そんな地名を言っていてな……何だったか」
ゼノの元で、その知識を振るっていた者も、日本人だったようだ。
エレベーターのような構造物や、ホテルのようなサービスに、銃火器にも詳しい。
そんな人物か……。
「とりあえずは、トーマスの調査が終わるまでは、各自、通常業務に戻るんだぞ」
「そうだ……な」
トロストがようやく声を出した。
「ほら。行った行った。それとも、トロストとダレンはケツを蹴られんと動かんのか?」
二人が自分の尻を押さえてギョッとした顔になる。
「ダレン。修練場を見に行こう」
「で、ございますね」
そそくさと、二人の武官も部屋を出ていった。
「ハンネ。皆にもお茶を」
「はい。お嬢様」
「ゼノも、そちらにかけてくれ。マリアンヌと、ヴェーダも少し休んでいくといい」
『甘いのもあるかしら?』
「エンヴィは、そればっかりだな」
「さっきも、ハンネさんから、キャラメルもらってたじゃない」
「妖精って太るのかしら?」
マリアンヌが興味深いことを言った。
丸々とプニッとした妖精か……それはそれでカワイイな。
ハンネの準備が整うまで、私はライフルを調べていた。
トリガーガードを引き下げ、トリガーグループを引き抜くと、レシーバーとバレルが木製のアンダーボディから外れるようになる。
M1ガーランドと、全く同じ構造になっているが、レシーバーの構造だけが違っていた。
ボルトは無く、給弾する構造にはなっていなかったが、薬室にあたる箇所に、魔法陣か彫られた金属棒が入っている。
『何それ?』
両手でビスケットを抱えて飛んでいるエンヴィが、私の手の中の金属の棒に興味を持ったようだった。
「陣が掘られているんだ。この陣に見覚えはあるかい?」
『人族の魔法はよく分からないわね。ゼノは分かる?』
「どれ、見せてみよ」
「投げるわよ」
断って、ゼノに金属棒を放り投げる。
皇龍殿は空中でうまく掴むと、それをしげしげと眺め始めた。
「素材は魔導銀だな」
銀と魔鉱石との合金で、魔力の導体としては最高クラスの金属だ。
「この陣は……魔力を定量で放出するものだな。引き金を引くことで、陣が完成するのだろうな」
「なるほどね。良く考えられてるな」
「しかし、これは……。」
手の中の金属の棒をじっと見つめ、ぼそりとゼノが言った。
「何か心当たりでも?」
私の問いに首を振る。
「いや、ありえんな……あやつは何百年も前に死んだのだ。今更……な」
ゼノは、少し寂しそうな顔をした。
「それは、もしかしてタモン様の?」
ヴェーダが話に割って入る。
「そうたが……娘。よく知っていたな」
エンヴィのお世話をしていたヴェーダが、ソファから立ち上がったかと思えば、床に膝をつく。
「ヴェーダ・グーデリアンと申します。陛下」
そう言ったヴェーダは、人に擬態していた魔法を解いた。
「なるほどな……それで知っておったのか」
名と姿を見て、得心したようだが、私にはさっぱり見えてこない。
「少しは聞かせてくれるのか?」
「乙女の秘密を探るもんじゃないわよ……とは、言えない状況ね」
お茶を楽しんでいたはずのマリアンヌも、興味津々なのだろう。
魔族領への旅から、気にはなっていたことだ。
「魔族領でグーデリアン家と言えば、魔道具の製作で無の通った家柄だ」
「始祖は、それこそタモン様の研究に携わっておりました」
ゼノの言葉をヴェーダが引き継ぐ。
「しかしだ……禁忌としたタモンのいくつかの研究に手を出し合ってな」
「私の父でございます」
「そこで、爵位の剥奪と、それに携わった者を粛清した」
「当然の報いでございます……金に目の眩んだ者の末路」
そう言ったヴェーダの顔には、何の感情も浮かんではいなかったのに対し、粛清した側のゼノの方が、少し悔いているように感じる。
まぁ、家のことだ。深くは聞くまい。
「その生き残りが、古の書物を解読したか、持ち出したとは考えないのか?」
当然の推測を口にする。
「そんなはずは……無いとは言えんな。全てを灰にしたと思っておったのだか、こうして娘は生けておる」
自身の甘さに歯噛みしているようだ。
そして、手にしていた金属の棒を私に放る。
「私は我が領にて、あいつの残した文献を確かめる」
ゼノの表情が引き締まる。
「何故。タモンはライフルを、世に出さなかったのだ」
ゲームチェンジャーとも言える代物だ。
世に出したなら、パワーバランスは魔族側に傾いたことであろう。
「何と言っておったかな……そう、ロマンがない。そう言っておったぞ」
「人族は、ロマン主義に助けられたのか……ははははっ」
私はひとしきり笑うと、ゼノの様子が少しおかしいことに気づく。
「確かめたら……また、来てもよいか?」
天下の皇龍が、もじもじと遠慮がちに聞いてくる。
先程の引き締まった顔はどこへ行った?
「話しは聞かせてくれ……だが、嫁にはならんぞ?」
「良し。すぐに確認してくる」
喜びの声を上げ、ゼノの姿は掻き消えた。
ほんの僅かな魔力の放出で、ポータルを使われると、実力差をまざまざと見せつけられたようで、癪に障る。
「まるで、恋する少女ね」
マリアンヌが呟いた。
「私か?」
「やぁだぁ〜。あんたじゃないわよ。皇龍様」
「恋する乙女と言うのは、あぁなるのかね」
「初々しくて、むず痒くなっちゃう」
さて、ゼノの調査を待ってはいられない。
カメリアの軍部が掴んで離さない人物を、特定しなければならなくなった。
世に出てしまったら、パワーバランスは一気に崩れ、西側諸国連合ではなく、カメリア一強となってしまう。
ハイデルで開発を急がせたとしても、それを運用するには時間が足りない。
再び、戦線が開かれる前に……。




