アルベドの手 4
「エルシャイネ、ドラッヘ!(いでよ、ドラゴン!)」
ダレンの声に振り替えると、首に下げたチェーンの先を握りしめている。
「どうしたダレン?」
堪らず声をかけた。
流石に、謎すぎる言動に不安を覚えたからだ。
「大使から預かった指輪なのですが、困ったことがあったら、そう言えといわれてまして」
「窮地には違いないが……。」
言葉が続かなかった。
それは、麦畑を覆い尽くさんばかりの巨体が、突如現れたからだ。
「ドラゴンか?」
トーマスが上空を見て呟く。
ドラゴンが俺たちを認め、高度を下げるように旋回してきたが、その間に身体が小さくなって、地上に降り立つ頃には俺たちとそう変わらない姿と大きさになっていて。
「お前は、フリーデリケと共にいた……。」
「ダレンでございます。陛下」
陛下?!
「あの娘に渡したはずなのだが……。」
「私達の身を案じ、貸し与えてくださったのです」
「流石。心優しい娘だな……ますます惚れてしまうではないか」
「ダレン。こちらは?」
「魔族領の主。皇龍であらせられるゼノ陛下です」
「魔族領の主!?」
「こりゃあ……ビッグなゲストさんだぜ」
光の矢が飛び続ける中、トーマスが軽口を叩く。
「なんだ。ずいぶんと難儀しているようだな」
出るに出られぬ状況に、ゼノ陛下が言った。
「射撃されてるようなのですが、この連射で打って出るわけにもいかず、このザマです」
その時、立ったままでいたゼノ陛下の頭に、光の矢が直撃したのだが……。
それが、当たる直前に弾け飛んだ。
何が起きたのだろうか。
オレは目の前の出来事に、唖然とするしかなかった。
「大したことないな。どれ、ちょっと行ってくる」
当たった……当たるはずだった場所を、右手で撫でると、散歩にでも出るかのような気安さで、射手の方へと歩き始めたのだった。
しばらくすると、射撃の弾着もなくなる。
「流石……ドラゴン」
顔を出して様子を見ていたトーマスが、呻くように言った。
「もう、大丈夫そうだ。陛下に合流しよう」
立ち上がったトーマスに続き、オレとダレンも立ち上がる。
御者も目立ったケガはなさそうだ。
畦道をゼノ陛下の方へと歩きだす。
陛下もこちらに歩いてきていたが、右手にはぐったりとした何かを引きずっている。
おそらくは、射手だったものだろう。
「陛下はどんな感じだったんだ?トーマス」
「うちのリケもやりそうよ」
「真っ直ぐ、突っ込んでましたね」
ダレンも見ていたようだが、リケもやりそう?
「流石に、リケは無理だろう?」
「リケは盾の魔法が使えるからな……同時に六枚は展開させられる」
なくなれば次と、六枚の防御を最大限に使い、最速で相手に接敵する、その姿が容易に想像できてしまった。
「それは……やりそうだな」
学院で見せていたものは、本当に全力ではなかったのだな。
未だ、個人技で遅れは取らないが、こういったシチュエーションでは手札が多いフリーデリケに軍配が上がるだろう。
「コヤツはどうする?」
右手に引きずっていたものを持ち上げた。
気が付かなかったが、左手には筒のような何かを持っている。
「生きてはおるぞ」
「でしてら、畑に転がしておきましょう。それより、その筒のようなものは」
陛下が左手を上げる。
筒には、握りやすそうなグリップがついており、肩当てだろうか、先に向かって広がるものも付いていた。
「我には何ともないが、人族には厄介な物だな……戦が変わるほどのものだ」
魔法の運用が変わって、それだけでも戦の姿は変わったというのに……騎士の時代は終わるのか?
「敵はもういないみたいだが、馬車はダメそうだ」
先を見てきたトーマスが、オレたちと合流して、偵察結果を伝えてきたが、良い報告だけではなかった。
「歩きか……。」
オレはカメリア首都までの道のりを考え、溜息が出てしまう。
しかし、陛下は違ったようだ。
「そうか。お前たちを送っていけば、フリーデリケに会えるな!」
よい考えと言わんばかりの顔をする。
「リケもずいぶん気に入られたようだな」
「えぇ……訪ねた時は、嫁にするって宣言なさったくらいですから」
「うちのリケを?!」
「ははは……。」
トーマスの驚きの声を、含みのある笑いでごまかしているようなダレン。
「よし。背に乗るんだ」
畦道に突然現れるドラゴン。
周囲が麦畑で良かったよ、
◆
「で、連れてきたと……このロリゴンを」
私の執務室に現れたゼノの姿に、不機嫌を露わにした。
「それで、視察の成果は?」
「まずは、オレっちからだな」
「アルベド関係か」
「やっぱり、アルベドはカメリアの軍部が関係してるな」
「断言できるものは?」
「コレだ」
トーマスが腰のポーチから、ネックレスのようなものを取り出した。
「リケが魔族領に行く前に拘束したロバートも、コレと同じものをしていた」
「他の現場で取り押さえたものはしてなかったぞ」
トーマスの報告に、トロストが疑問を口にした。
「そいつらは尻尾だったろ?」
「確かに、中枢につながるものは得られなかったな」
「コレがあると言うことは、それなりの地位に就いていると思っていいだろうな」
「誰の部屋で?」
「見つけたのは一つじゃない」
そう言って、ポーチを探ると二つ、三つと取り出した。
こういったモノを常日頃から、身につけていないのは軍務に身を置いているからなのだろう。
訓練や実戦でケガをした際の救護活動で、見られてしまってはマズイからな。
「見つけた場所は?」
「大臣執務室、基地司令執務室。それに士官の部屋からだ。時間があればもっと見つけられただろうな」
「これはコトだぞ……国を揺るがしかねんな」
トーマスの答えに頭を抱えてしまう。
「リケよ。聞いている話しだが、我が領から民を攫っているのはカメリアの政府が絡んでおると……そういうコトか?」
黙っていたゼノが、静かだが、怒気を撒き散らしながら、そう言った。
「ゼノ。その怒りはもっともだが、ここでは抑えてくれ」
「ぬっ……すまないな」
「いや。当然のことだ……窓から飛び出ていかないだけ、助かったよ」
ゼノの怒気にあてられ、領事館内は少しばかりパニックになったことだろう。
皆。済まない。
「しかし、そこまでアルベドの手が食い込んでいるとなると、国が絡んでいてもおかしくはないな」
「バズの感じから察すると、急進派ってのがね」
トーマスの推測は、得られた情報に裏付けられたものだ。
もしかすると、その急進派が、アルベドの本体なのかもしれないな。
「ゼノ。怒りはもっともで、魔族領として手を下さなければならないモノが得られてしまった」
「そうだな……。」
「だが、私に預けてはくれないだろうか?」
「フリーデリケ。何か考えがあるのだな」
「正直。あまりない。だが、ここでカメリアと魔族領との対立が露見すれば、再び、魔族と人族の対立となるだろうな」
「おとぎ話しの再臨か……それは避けたいところだ」
ゼノは大きく息を吐きだすと、私の顔を見た。
「フリーデリケよ。魔族領の命運を、お前に託そう」
「ありがとう。身命を賭してでも、最悪のシナリオを止めてみせる」
そう言った私に、ゼノは頷いてみせた。




