アルベドの手 3
フリーデリケに唆されて来てみたものの、カメリア国軍の訓練はハイデルのそれとは違った。
広大な演習施設には、野戦エリアに街中での戦闘を意識したエリア。更に、屋内戦用の建物と、様々なシチュエーションに合わせた施設があった。
兵士達も、一人で複数の武器を使う。
それに魔法の運用にも長けていた。
魔法と言えば、大火力で具現化に時間のかかるものを使うのが主であるが、カメリア国軍の兵士たちは、フリーデリケの使うような、即時、速攻性の高い単純なものを多用していたのだ。
「この戦法は、ハイデルから取り入れたのだよ」
「はぁ……。」
案内のカメリア国武官が、ナイフでの対人訓練を見せて、そう言ってきた。
「外務省からの報告で、『白狼』なる人物が、このように戦っていたと」
「その名を出されますか……ははははっ」
乾いた笑いが出てしまった。
その本人が、大使として駐在していることに、冷や汗が背を伝っていく。
「おや、ご存知で?」
「こう見えましても、以前は一つの騎士団を預かる身でしたので」
「それは、失礼しました」
「いえいえ。私も勉強不足でした。以前は、前衛後衛の従来型の戦術だったのてすか?」
「そうですね。従来型の五人組が基本でした」
「それが『白狼』の技術を取り入れて……」
「よりコンパクトな運用が可能になりました」
確かに、あいつも大人数ての作戦よりも、単独から五、六人くらいでこなしていたなと思った。
「お話し中、申し訳ない。訓練中の兵士が被ってる、アレはなんですか?」
「あぁ、あれは……。」
訓練時の装備も違っている。
我らは訓練でも金属鎧を纏って、それを着用しての動きに慣れるのだが、カメリアの兵士達は綿の入った防具に、木剣を使っていた。
「それでは、屋内戦の訓練場に参りましょう」
案内に続き、格闘訓練場から出る。
「あのっ!あっちに見える施設は、何を訓練するのですか?」
ダレンの指さす方に、ちらりと同心円で引かれた丸い線が描かれた板が見えた。
弓の演習か?
いや、弓ならば、鏃の消耗を抑えるため、藁束にするはずだ。
いったい。何の訓練だ?
「あちらは、魔法の当て的ですね」
「魔法の訓練場ですか」
「そうなります。コンパクトな魔法にシフトしたとは言いましても、今までの魔法も全く使えないわけではありませんから」
そう言って、案内の人間は先を歩いた。
ダレンは首をひねり、疑問が解消していない様子を見せる。
その辺りは、後で聞こう。
視察は順調に進み、ユニット運用での戦術や、その訓練を間近で見ることができ、ハイデル王国騎士団にどうしたら組み込めるのかと考える場面も多々あり、有意義な時間となった。
そして、案内係に見送られ、馬車に乗り込むと単独で調査していたトーマスが先に乗り込んでいる。
「トーマス。首尾はどうだった?」
基地のゲートを出てしばらくしたところで、トーマスに声をかけた。
「それは帰ってからだ……尾行されてるな」
「行き先が同じ馬車なんじゃないか?」
「馬車じゃない。左手の林だ」
基地から続く街道は、右手は麦畑が広がり、左手は防風林なのか針葉樹の立ち木が続く。
今回は箱馬車。貨車ではなくキャビンタイプだ。
ドアについた小窓から林を確認する。
トーマスの言う通り、木立の影を走る馬がかすかに見えた。
「厄介だな」
座席に戻り、二人にこぼす。
「仕掛けてくると思うか?」
「少し先で、林を抜けます」
ダレンが御者台側の小窓を覗いて声を上げた。
「そこで諦めるか……。」
一つ息をつく。
しかし、それが浅はかだったと、身をもって知ることになってしまった。
「なんだ?!アレはっ!」
ダレンの声に再び、ドアの小窓に取り付く。
目に入ったのは、馬上で長細い筒を両手で構えた黒ずくめの人物。
何をするのだ?
そう思った次の瞬間。筒から光が放たれた。
「馬車を捨てろっ!」
反対側のドアからトーマスが飛び降りる。次いで御者を抱えたダレン、そしてオレだ。
土埃を上げて四人が転がる。
「麦畑に飛び込め」
いち早く飛び出したトーマスが、俺たちに向かって叫ぶ。
馬車が大きな音を立てて倒れる。
馬は諦めた方が良さそうだが、ボケッとしている暇はない。
ダレンの抱える御者に肩を貸し、麦畑に駆け込む。
光の矢なのか、それは俺たちを追い立てる。
しかし、ここまで連射がてきるなんて、フリーデリケですらできるかどうかだ。
一体どんな魔法なのか、魔道具なのか。
麦畑を駆け、畦道の陰に飛び込む。
「おい。トロスト。どうするよ」
「こんなに連射されてちゃ、頭も上げられませんよ」
「参ったな……ダレン。トーマスでもいい。ヤツとの距離が分かるか?」
「オレっちの気配探知ギリギリだから、百歩と少しってところか」
「流石に射程外だな」
オレの魔法の腕では、届かない距離だ。
「オレっちも無理だ」
完全に手詰まりとなっていた。
◆
出発前。
私は大使に呼ばれて、執務室を訪ねていた。
「大使……開けっ放しは、どうなんですかね」
「ダレン。来たな」
「はい。出発前なのですが、何かありましたか?」
「コレを渡しておこうと思ってな」
大使は指輪を一つ手に持っていた。
エルフの里で渡されたものとは違ったが、淡い青い光に包まれている。
「コレは?」
大使の手から持ち上げて、しげしげと眺めてみるが、何がどうなっているのかは分からない。
「保険だ。何もないとは思っているが、どんな困難があるかは分からないだろ」
「それはそうですね。それで、どうしたらいいのでしょう?」
「魔力を込めて、こう声を上げろ」




