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銃とスケッチブック  作者: ジュウニシカナ
第3章 古の英雄とトサブジエカ
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041.老獪の一手

 闇夜の倉庫街に、一条の光だけが浮かび上がる。

 手元のライトが照らす範囲で作業していた、という目撃証言。


 だが、何が積まれ、何を運ばれたのかまでは分かっていない。

 

 ただ、この半年で続出している行方不明者の件数を思えば、ジコネーをはじめとする運送協会の面々には、もはや疑念というより確信めいたものが芽吹いていた。



「――アンタ! ここにいたのかいね!?」


 アネニヨが息を弾ませ、運送協会会館へ駆け込んできた。

 その手には、手書きの走り書きが記されたメモ。3社分の企業名と、弟が勤める郵便局で割り出された住所が並んでいる。


「ミツカッタ、サライ、ニーツーノ……全部違う住所だったね」

「全部違う住所……?」


 まさか、ここにきて別々の会社だったとでも。


「ところがね――」


 アネニヨは笑みを浮かべながら続ける。


「郵便物のやり取りは、“サライ”経由なんだね」

 

 人材派遣会社サライ。

 なぜ、そんな会社が、調査会社や運送会社とのやり取りを……。

 

 これはもしや――。

 

「3社はグループ会社かもしれへん……」


 クシードが呟く。

 郵便というインフラの裏を突いた、極めて静かな繋がり。

 

 


「空振りでもいい。とにかく行ってみよう!」

「いきなり行ってはマズくないか?」

「協会に加入しねぇか? で行けばいいんじゃないか?」

「何で今更ってなるだろ!」


 役員達の意見が飛び交う中、ジコネーはテーブルに広げられた地図に視線を落とす。

 そしてなにかを閃いたのか、彼は静かに口を開いた。


「俺に良い策がある!」


◆◆◆


 翌朝。

 空は薄曇り。昨日の晴天とはうって変わって、鈍色の雲が静かに空を覆っていた。


 ジコネーの提案により、クシード、パーレット、町長秘書、そして2名の屈強な消防団員が同行し、調査という名目でニーツーノを訪問する。


 さらに、万が一の事態に備え、周囲にはオゥタニサ、ミルフィ、アマレティ、そして町の自衛団8名が密かに待機していた。

 

 こりゃ完全に黒と見てのカチコミだな……。


「これだけの人がよく揃いましたよね……?」

「この町で生まれ育って60年近く、色んな人と会って、色んな役を引き受けた成果だよ」


 クシードの質問にジコネーはさらりと答える。


 彼の言葉には、揺るがぬ重みと、老獪(ろうかい)な自負が込められていた。

 


◆◆◆



 ニーツーノは北側の倉庫街の一角にある。

 建物は賃貸案件。

 外見はレンガを積み上げた平屋建て。

 どこにでもあるような普通の建物だ。



「――ごめんくだせぇ」


 ジコネーは事務所のドアを開けると、3名のスタッフが突然の訪問者を見た。


「……どちら様で?」


 1番奥の席に座る水牛の角を生やしたコーヌ族の壮年男性が、低く冷たい声でクシード達を迎える。


「突然すいません。私、トサブジエカ運送協会、会長職を務めておりますジコネー・ガモットです」


 ジコネーは名刺を差し出すと、コーヌ族の男は立ち上がった。

 

「……ニーツーノのヤーガーマと申します」


 お互いに名刺を交換。

 セヴィロと呼ばれるスーツに似た服装ともあり、ここまではありふれたビジネスの光景だ。


「ヤーガーマ所長、ご対応いただきありがとうございます! 私は、運搬物の協力依頼にお伺いさせていただきました! それと――」

「消防です。危険物の有無について抜き打ち検査でやってきました」


「消防? 聞いていませんが!?」


 ヤーガーマは眉をひそめ、消防団員を見た。

 丁寧そうな喋り方に反して、重厚感のある声質。コーヌ族の男性特有の巨体も相まって威圧感が増している。


「じょ……、条例で定められています。倉庫業を営む企業は、出火の可能性があるものを保管する場合は、届け出が必要なのです!」


 恰幅の良い町長の男性秘書が、条例書を提示さながら対峙。イームップ族と呼ばれる成人しても子供のような見た目の種族であるため、迫力には劣る。

 


「なんで今さら……」


 しかし、ヤーガーマは何かに気づいたのか、ジコネーを見た。


「所長、申し訳ございませんね。若者の人手不足が顕著でね。役所に相談しましたら御社はどうかと紹介されまして、そのまま消防まで話が行ったみたいなんですよ」


「……ッ」


 ヤーガーマ所長の口元が強ばる。

 こじつけ感が否めないが、抜き打ち検査なんて、そのようなものだ。

 過疎が進む事実を基にした上手い訪問方法である。

 


「で、何がご要望ですか?」

「倉庫内を見せていただけましたら、と思いまして」


 その一言で、空気が張り詰めた。


「……倉庫内は作業中です。止めさせますので、少々お待ちを」


 ヤーガーマは倉庫棟へ繋がるドアを開け、姿を消した。

 

 おそらく運送協会だけでは、断られてしまうだろう。

 そこへ行政も交えることで、断るに断れない状況を作り出せた。

 

 豊富な人脈を活かした見事な作戦である――。




 

 ――数分の時間が過ぎ、戻ってきたヤーガーマは無表情でドアを開けた。


「どうぞ、皆さん。ご案内いたします」


「で、では私はこれで……」


 ここからは危険が伴う可能性もある。

 町長の秘書だけは、公務があると言わせ退席させた――。

 



 

「おぉ、結構余力がありますね〜」


 倉庫内部は、予想に反して整然としている。


「ちょうど、出荷を終えたところですので」

「得意とする取扱品はなんですか?」


「……色々と、……様々です」

「万能型ですか! それは珍しい!」


 倉庫業界のビジネストークだろうか、ジコネーは探りを入れるかのようにヤーガーマに質問していた。


 しかし、倉庫内は、伽藍堂(がらんどう)と単純な造り。

 違和感のあるところなんて見当たらない。


 

 だが――。


「……ん?」


 ジコネーは足を止め、梱包品の一つに目を留める。


 

 ピンク色のリボン。


 見覚えがあった。

 それは同席しているクシードもパーレットも同じ。

 

 特徴的な刺繍がある限定品。


 あの日、笑顔で髪を結ったリリーナちゃん人形の付属品だ。

 


 瞬間、ジコネーの目に閃きが走る。

 

「――ところでヤーガーマ所長、消防団員諸君。お酒は好きかい?」

「……?」


 唐突な話題転換。


「毎晩、飲みますが」

「ええ。仕事終わりに良く飲みます」

 

「それは良かった。ならば、酒造庫もここにあるよね? 容量はどれくらいなんだい?」

「……酒類の扱いは無いですよ」


「もったいないねぇ〜。じゃあ、儲かるから教えてあげるよ」


 ジコネーは不敵に笑った。


「お酒はね、造ったら税金取られるでしょ? 販価の5割もするのだよ!」

「……嗜好品(しこうひん)ですからね」

 

「でも、お酒屋さんに行くと、安い酒が並んでいるのは何でだと思う?」

「ジコネー会長、もしかしてそれは――」


 “密造酒”と言う違法行為。

 消防団員の言葉を遮るようにジコネーは口を開いた。


「――君たちが楽しく飲んでいるお酒は、実は我々が管理しているのだよ! 明日から高い酒を飲みたいかい? 違うだろ? だからね、地下に秘密の酒造庫を作るのだよ」


 ジコネーは荷が積まれている一点を指差した。


「ここの地主も、それをよぉ〜く知っているんだよね」


 用意周到だ。

 地主に聞くなど事前に情報を仕入れ、この建物の構造を理解し、見抜いている。


 ヤーガーマの瞳孔は僅かに開いていた。


 

「ジコネー会長、少々、踏み込み過ぎでは?」


 ヤーガーマの一言とともに、スタッフ達が集まり始めた。


 足並みは、明らかに素人ではない。



 パーレットは担いでいたケースのロックを外し、クシードは隠していたルミナエルスのグリップに手を添えた――。

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