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銃とスケッチブック  作者: ジュウニシカナ
第3章 古の英雄とトサブジエカ
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040.倉庫と手がかり

 調査会社ミツカッタ。

 派遣会社サライ。


 どちらも、トサブジエカという小さな町の中に籍を置く、さほど知られていない企業だ。


 そもそもナイッツは、ただの過疎対策課の職員。

 なのに、なぜその名を知っていたのか。

 その小さな謎は、じわりと水面に浮かぶ油のように、クシードの胸中に広がっていく。


 それらの考察と行動の記録は、ミルフィのスケッチブックに記録されている。

 まるで、日常の断片を繋ぎ合わせて真相へ迫ろうとする名探偵のように。


 だが、その探偵の横で――。



「ねぇぇぇ〜、あのナイッツっていう人ぉ〜、ウチのおっぱい見すぎぃ〜! マジでキモかったぁ〜!!」



 アマレティが唇を尖らせて憤慨する。

 視姦に気づいていたみたいだ。

 “露出をやめたらええやん”、と諫めたくもなるが、この場合、大抵本人はファッション感覚。

 

 つまり自己表現だ。


「アマレティが美人やから身惚れてたんやろ?」

「でもぉ〜、チラ見はやぁ〜だぁ〜!」


 ガン見ならいいのかな。


 そんなプンスカ状態の彼女はさておき、企業名がわかったら次は概要が欲しい。

 インターネットなんて、この異世界には似たものすら無い。

 だから法務局で会社証明書の閲覧か。


「ミツカッタ、サライ、場所……、うーん……」


 クシードは思案に耽る。

 平屋が建ち並ぶ町内を歩いていると、ミルフィがふいにおずおずと手をあげた。


「……こ、これ……」

「あぁ、手紙か」


 通路脇には郵便ポストが目に入る。

 きっといつものように、オウレの両親へ宛てた手紙を投函したいのだろう。


「次こそ届くとええな」

「……ゆ、郵便屋、さん……、なら……住所、わ、わからへん……?」


 ミルフィのひと言に、クシードの思考が跳ねた。

 

「……それやんッ!」


 郵便局――。

 

 企業として実在しているのであれば郵便物は届く。

 ならば住所も知っているハズだ。


「早よ戻って、ジコネーさんやオゥタニサさんの人脈を辿ろう!」


 

◆◆◆



「――ミツカッタ、サライ……聞いたことがねぇな」

「創業4年ってことは、ナイッツが赴任してしばらく経った頃じゃねぇか?」

「たしか、アヴスーメが産まれる前だったね」


 ジコネー宅。

 静かなリビングでスケッチブックを広げていた。

 

 だが、地元に根を張るジコネー夫妻とオゥタニサであっても、その名に覚えがない。


「その会社の住所なら弟に聞いておくね!」

 

 なんとアネニヨの弟が郵便局に勤務。

 しかも次長だと言う。

 

 さらにその直後――。


「ジコネー会長ッ! 報告ですッ!」


 1人の老人が駆け込み、場がざわつく。


「トーソー通りのハンタ地区に、よく分からない運送会社があると分かりました!」


 眼鏡をかけたこの老人は、ジコネーが会長を務めるトサブジエカ運送協会の会員だ。

 

「よく分からない会社?」

「はい! ニーツーノ株式会社と言う、数年前に出来た最近の新しい会社です!」

 

「確かに聞いたことが無いな……」

「規模が小さいので、話題にも上がらなかったのですが、考えると誰もよく知らない会社なんです!」


 裏を返せば、彼らの商取引の場に現れることなく、単独でやっていけたから目立たなかったのかもしれない。

 

「そうか……、ならば挨拶がてら行ってみようか」

「おいおいジコネー、正面突破する気か?」


 オゥタニサが眉をひそめるが、ジコネーはニヤリと笑った。

 

「んなわけ無い! 役員会議を開くぞ!」


 ジコネーは眼鏡の老人に指示を出した。


「じゃあ、あたしは弟のところに行ってミツカッタ、サライ、ニーツーノの住所を調べてくるね」

「頼むぞ、アネニヨ――」


 


◆◆◆



 その日の午後、トサブジエカ運送協会の会館に、役員を務める老人たちが次々と集った。


 役員会議の合図は町内放送で行われる。

 打ち上げ花火が数発上げられ、鐘が鳴った。


「へぇー、あの音ってこうゆう意味だったのね。あたし、知らなかったわ」

「一般の人は知らないさ。こう言った団体の役員にだけ知らされる内容なのさ」


 パーレットでも初耳の合図。

 これは緊急を要する場合に用いられるようで、花火の色と数、鐘の打ち数で所属団体と時間を知らせているとジコネーは言う。

 

 いわゆるモースル信号のようなものなのだろう。

 ルシュガルにいた頃もたまに耳にしていたが、まさかそんな意味があったとは。



 6人の老人が集まってきたところで、ジコネーは口を開いた。


「皆んな、忙しいところ申し訳無い」

「気にするな会長」

「大事な孫娘なんだろ?」

「俺の知り合いの息子も行方不明なんだ。他人事じゃない」

「……」

「おほぉ〜、べっぴんさんが4人もいるね〜」


 

 ……加齢臭漂う会議室にて、クシード達はコーヒーを配る。

 自己紹介もほどほどに早速本題へと入った。



「さて、トーソー通りのハンタ地区にあるニーツーノについてだが……」


 ジコネーは卓上に地図を広げ、トサブジエカの北門付近にある倉庫街の一角を指す。

 

 町外れとかそのような場所ではない。

 木の葉を隠すなら森の中、と言わんばかりに堂々と街中にあった。

 

「そこに行方不明者が集められているのか?」

「いや、確定じゃない」

「……」

「夜は誰もいねぇから、確かに怪しいかもな」


 様々な意見が飛び交った。


 そのような中、1人だけ。

 ひたすら沈黙を続けた者がいる。


「なぁ、おまえさんは何も意見はねぇのか?」

「ん……? あぁ……」


 キツネの耳を生やしたケモ族の老人。

 彼は、静かに、そしてどこか辿々(たどたど)しい。


「皆んなこの町のために真剣なんだ。些細なことでもいいから何かねぇか?」

「あぁ……」


 キツネ耳の老人は、震える手でカップを持ち上げた。

 薄い陶器がカタリと鳴り、場の静けさに妙に響く。

 コーヒーを口に運ぶと、苦味を押し殺すように唇を震わせながら、ぽつりと語りだした。


「2週間ほど前なのだが……、夜の10時過ぎだ。忘れ物を取りに会社へ行ったんだ……」


 会議室の空気が、ぐっと重く沈む。

 老人のその一語一語に緊張が絡みついた。


「多分だ……。ニーツーノの倉庫だと思うが、ライトの光だけで何かを積んでいたんだ……」



 秒針を刻む音だけが会議室に響く。

 


「……お、おい、宵積みじゃねぇよな?」

「んな時間にやらねぇだろ!?」

「仮にやったとしても、照明は点けるだろッ!?」

「むしろ、ボケてねぇよな?」


 老人たちの声は互いに掠れ、ざらついていた。

 疑念がじわじわと膨らんでいく。


「……待てよ……。もしや……」

「……いや、まさか……」


 誰もが口にするのをためらいながらも、胸の内に同じ答えが浮かび始める。

 それは次第に確信へと変わり、最後の一言として誰かの口をついて落ちた。


 

「まさか……、ビンゴか……」


 張り詰めた糸が音を立てて弾けた。

 

「なんでもっと早く言わなかったんだッ!」


 1人のヒューマ族の老人が椅子を倒して立ち上がり、怒号が飛ぶ。

 

 同時に、キツネ耳の老人の襟を掴んだ。


「こ……、怖かったんだ……。皆んなを巻き込んでしまうんじゃないかと……」


「さっさと言えよッ! だからジコネー会長の孫が攫われたんじゃねぇーかッ!!」

「申し訳ない……、申し訳ございません……」


 正論たる罵声に、キツネ耳の老人は声を詰まらせ、何度も頭を下げた。

 

「いや、ありがとうよ……。とても貴重な意見だ。後は家内が住所を特定させれば、会社訪問へ行くまでよ」


 ジコネーは静かながらも、その声音には怒りと同じくらい、深い悲しみが滲んでいた。

 

 老人たちの目に映るのは、ただの倉庫ではない。

 それは、何かを秘匿し、誰かを封じる“箱”であるかもしれなかった――。

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