039.見た目は…、そして頭脳は
空は夕暮れに染まる。
収穫祭の余韻がまだ町を包む中、ジコネー宅のリビングにて、クシードたちは言葉少なに情報を整理していた。
「ナイッツが怪しいだぁ?」
静かに語られた疑念に、場の空気が一変する。
「ルシュガルの図書館でバイトしていた頃、歴史好きな職員さんから聞いた話ですが――」
“あっ、あの人だ”とミルフィの耳がピンッと動いた。
「――移民という名を借りた侵略方法にやり方が似ているんですね」
元の世界での歴史でも、似たような史実がある。
「どこのどいつがこの町を侵略しようってんだ?」
「例えば、暗躍する組織、ですかね」
「……なるほど、マフィアか」
オゥタニサの言葉に全員が息を呑んだ。言葉は静かだが、その意味は重い。
「ナイッツさんがマフィアの一味かどうかは、まだわかりませんが、ストーリーは立てられます」
クシードは、テーブルの上に描いた簡易地図を指差した。
「収穫祭当日の昨日、警備員は全員マフィアの構成員だった。そして、人間の壁で包囲してアヴスーメちゃんを誘拐。だから目撃者がいなかった」
「正しく“組織的”ね」
ナイッツの発した疑惑の言葉を、パーレットは静かに口にする。
「調査会社なんてわざわざ用意したのは、親切心じゃなくて、実は証拠隠滅のために使っているのかもしれないわね」
「だからナイッツは社名を……、いや、行政ならば他の職員ともその調査会社を共有しているんじゃあないか?」
「フロント企業だったら、怪しまれないですね」
実はあのお店が……、なんていつの世もよくある話だ。
「ナイッツの野郎……、捕まえて公開処刑にしてやろうじゃねぇか」
ミルフィも思うことがあるのか、感情は読めないがスケッチブックをギュッと、抱きしめていた。
「いや、待って下さい! 今はまだ、疑わしいだけですよ!」
「じゃあどうすりゃいいんだ!」
「そこが難点です。2つあって、1つ目は誘拐後の犯人の行動パターンを予測。2つ目はどうやって調査会社を調べるか、です」
これらを迅速に解決しなければならない。
時間をかけると、それこそアヴスーメとの再会は2度とできなくなってしまう。
「誘拐したらまずは、どこかに運ぶだろ……」
わずか1日で一回り小さくなったジコネーが、ゆっくりと口を開いた。
「運送業界の仲間全員に使ってない倉庫や、怪しい運搬物とかがなかったか、調べさせるぜ」
さすがこの町の運送協会の会長。
オゥタニサ同様、人脈が広い。
「内通者がいるかもしれねぇぜ、慎重にやれよ」
「分かってる」
ジコネーは鼓舞するように自身の胸を叩き、外へ出た。
「後は調査会社やんな……。何回もナイッツさんのとこ行っとったら怪しまれるな……」
「じゃあ〜、初めてましてぇ〜でぇ、行ったらどぉ〜?」
「で、なんでオレを見んねん――」
アマレティはクシードの全身をジロジロと確認する。
一体何を企んでいるのだ、このツノ女は……。
「――亡くなった娘を思い出したよ……」
「いやいや、アネニヨさん。これ大事なものでしょ? こんなんで使ったらダメですよ!」
「クシードちゃん。これは町の未来がかかっているんだ。そして、かなり似合っているよ!」
「ただの女装にそこまで思いを込めないで下さい!」
黒のウエストリボンが、腰の細さを際立てさせるデザインである総柄のワンピース。
ジコネー夫婦の娘の遺品を、アネニヨはクシードに託したのであった。
イベント等で女装は何度も経験しているが、変装でするなんて初めてだよ。
「明日ぁ〜、メイクもしようねぇ〜」
ミルフィも尻尾を振っていた。
アヴスーメがいなくなっているというのに、なんでコイツらノリノリなんだ……。
◆◆◆
「ええか、ラマルテ、ミミチー。オレ……ちゃう、ワタシが喋るから、なるべく黙っとくんやでッ!」
「りょうかぁ〜い! クシーレちゃ〜ん!」
「――!」
翌朝、見た目は女性という超特異体質を活かし、女装したクシードはアマレティとミルフィを連れて、ナイッツのいるトサブジエカ町庁舎の過疎対策課へやって来た。
受付でナイッツを指定し呼び出す。
「――何か……、ご用ですか……?」
「ナイッツさんって方が、人探しの対応をして下さってるて聞きまして……」
「どうぞ! おかけ下さい!」
出てきたなりは億劫そうだったが、ミルフィとアマレティを見ると、ナイッツの態度は一変した。
どうやら変装に気づいていない。
そしてなぜか、急に声を張り出した。
「人探しは派遣ですか? 捜索ですか?」
過疎対策課なのに派遣。
どういうことだろうか。
「……行方不明の友人を探していまして」
「用紙を持ってきますので、少々お待ちください!」
ナイッツは一旦席を外す。
「たぶん〜、どんな人をぉ〜、探してるかぁ書くんだよねぇ〜?」
「筆記は任せるで、アマレティ」
「今はラマルテだよぉ〜」
本名を書けばマフィアに情報を提供することも考えられる。今後の旅に支障が出ないよう、偽名を使う。
どのみち流れ者だ。
問題は無いだろう。
「この用紙に、どんな人か書いて下さいね!」
待ってましたぁ〜と、ラマルテがペンを握った。
「……ちなみに捜索は憲兵さんとは違うんですか?」
「そうです! 調査会社に依頼をします!」
クシードの質問にナイッツは答えるが視線を逸らす。
「見つかりますでしょうか……?」
「ケースバイケースですが、しっかりと仕事はしてくれますよ」
「なんて言う会社さんなんですか?」
「株式会社ミツカッタですね」
昨日のど忘れは本当だったのだろうか。
案外すんなりと出てきたな。
だが、目線を逸らす事が多い。
何かを隠しているのか……。
不自然に思ったクシードは、ナイッツの目線の先を追う。
辿り着いた先は、なんとアマレティの胸元。
机の上に置かれた豊満な谷間は、さらに強調状態である。
筆記に集中しているのをいいことに、チラ見しているぞコイツ……。
「……実績の長い会社なんですか?」
堂々とセクハラをするナイッツに、半ば呆れ気味でクシードは質問を続ける。
「今年で創業4年目になります」
「まだ新しい会社なんですね」
なんで他社の社歴まで知っているのだろうか。
「でも実績はありますので、ご安心下さい!」
と、決め台詞は笑顔でクシードの目を見て言った。
「ミツカッタさんは地元の会社なんですよね?」
「はい、地域密着の企業じゃないと提携は結べませんので」
“どこにあるの?”と根掘り葉掘り聞くのは流石に変だな。
なら次は――。
「それより、過疎対策課なのに派遣までされているのですね」
「転居の方と同じで、人材を扱う部署ですから」
「それって、ミツカッタさんとされているのですか?」
「いえいえ、別でコチラの派遣のサライと言う会社がどちらも請け負っているんですよ!」
そう言って、ナイッツは一枚のパンフレットを差し出した。見出し文があるが、この世界の文字はまだまだ勉強中……。
「書けたぁ〜」
タイミング良く、アマレティは書類を書き終えた。
「では、用紙を預からせて頂きます……、セルン様ですね。お預かり致します!」
本当に行方不明になったアマレティの元仲間の名前を書くとは……、冴えているな。
「よろしくお願いします」
必要な情報は得たからもういいだろう。
受付の控えをもらい、クシード達は庁舎を出た――。




