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銃とスケッチブック  作者: ジュウニシカナ
第3章 古の英雄とトサブジエカ
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038.カケラ紡ぎ

 一夜が明けた。

 だが、太陽が再び東の空へ昇ろうとも、心に射す光はひとかけらも見えていない。


 アヴスーメが姿を消してから、既に十数時間が経過している。何の手がかりも得られず、空気はますます重く沈んでいくばかりだ。


「ジコネー、アネニヨ。無理はするなよ! クシードちゃんが作ってくれた朝メシでも食って休んでいてくれ」

「……」


 オゥタニサの声は、どこか震えていた。だが、それを悟られまいと平静を装っているように見える。

 反応のない2人に背を向けると、彼はそっと玄関へと向かった。

 

 リビングの棚にはアヴスーメがすぐに遊べるよう、プレゼントされた限定版のリリーナちゃん人形がある。

 まるで、もう一度遊んでくれることを心待ちにしている笑顔だ。


 人形に付属してたピンク色と、特徴的な刺繍が施されたリボンで、アヴスーメは髪を結っていた。


 可愛く着飾り、楽しいお祭りを一緒に過ごしたい。

 その小さな手はミルフィを引っ張って、この玄関のドアを開けた。


 当たり前と特別が入り混ざった幸せな日常。

 それが一瞬にして崩壊する。


 明日が今日の続きである保証など、どこにも存在しない。

 クシードは拳を握り、奥歯を噛み締めた。


「嬢ちゃん達、本当にすまねぇが、よろしく頼む――」

「はい!」


 必ず見つける。


 クシード達は決意を言葉に込めた――。




 オゥタニサとクシード、パーレットは、再調査の第一歩として、事件現場である収穫祭の会場である中央公園へやって来た。

 

 夕方のフィナーレに向かっているものの、昨日と変わりはなく、賑やかで祭りの余韻に包まれている。


 だが、唯一、違う光景もあった。

 

「昨日より警備がおらんくないか?」


 と言うか1人もいない。

 

 クシードが周りを見渡すも、警護にあたっていたのは自衛団だけだった。


「ナイッツの奴、昨日は書類の不備だとか言っていたよな?」

「それにしたって極端ね、初日だけ過剰警備なんて。何かおかしいわ」


 杜撰(ずさん)なのか、それとも計画なのか分からない。

 

「……実行委員会に行ってナイッツに聞いてみよう」



 


「――あぁ、オゥタニサさん!」


 書類が散乱する中、ナイッツは慌ただしく事務作業をしていた。

 

「忙しいところすまねぇが、昨日の行方不明者の捜索について進展はどうだ?」

「申し訳ございません。憲兵と調査会社へ委託はしていますが、まだ何の連絡もなくて……」


「調査会社?」

 

 クシードの眉がひくついた。


「ええ、憲兵だけでは人手不足なところもあるので、外部の専門機関にも依頼しているのです」

「専門家にまで依頼されているなら、なんだか安心できわね!」


 パーレットは納得している様子だが、彼女の言いようからすると、この異世界でも調査会社への依頼は一般的ではなさそうだ。


 つまり、このような場合は個人から依頼するのが普通だと思える。


「ちなみに、その調査会社ってなんて言う名前なんですか?」


「え? ええっと……、その……なんだっけなぁ……ど忘れしましたね」


 目が泳ぐ。言葉尻は尻すぼみになり、笑ってごまかすも明らかに不自然だ。


 

「ヘラヘラするなよ。コッチは真剣なんだ……、ところで、今日は警備員の数が少ない気がするのだが何でだ?」


「ええと……昨日のメインイベントがピークだったので、今日は自衛団のみで対応可能と判断しました。予算の都合もありまして……」


 パーレットは冷ややかに鼻を鳴らす。


「へえ、初日にアヴスーメちゃんが行方不明になったのに、その翌日に警備を減らすのは“対応可能”なのね?」


 ナイッツの口元が引きつった。


「……とにかく、進展があったら報告してくれ。頼むぞ!」


 次は憲兵の詰所へと向かう一行の背に、ナイッツの姿が歪んで見えた。




◆◆◆


 

「申し訳ございません。今回もやはり手がかりが、一切見当たりません」


 昨日対応してくれた青年憲兵は、深々と頭を下げる。


「気にするな。君達の実力不足じゃあない。それより、“やはり”と言うことは、今回の事件は前例があるんだな?」

「はい」


「どんな内容だったか、見せてくれねぇか?」

「機密事項ですが、上官に伺いを立てます!」


 青年は急ぎ足でその場を離れていった。


「見せてもらえますかね……?」

「問題ない。ここの所長は俺の元部下で、ここまで育ててやったんだ」


 その人脈の凄さを物語っているのか、小太りの中年男性が息を切らしてやってきた。


「また太ったんじゃねぇか? ササ所長さんよぉ」

「ちゃ、ちゃんとダイエットはしてますよ! オゥタニサ()()!」


 ササ所長は3人を応接室へと案内する――。




「――ここ半年で行方不明者の捜索依頼は40件を超えています」


 トサブジエカの人口は約2000人程度らしい。

 かなりの治安の悪さが窺える。


「多すぎるな……」


 この数値を聞いて、オゥタニサはおろかクシードたちも言葉に詰まった。


「ええ……、あまりに多いので混乱防止のため、実際の件数は伏せております」


 件数には旅行者や冒険者も含んでおり、アヴスーメのような子供の行方不明に至っては14件。

 そして半数近くは未解決だと言う。


「それと、ここにいる皆さんだけで留めて欲しいのですが……」


 ササ所長は周囲に誰かいないか確認すると、慎重に語り始めた。


「我々はこの事件を、“組織的な犯行”として捜査しています」

「――!」


 “組織的”


 昨日、ナイッツも同じことを言っていたような気がする。


「あくまで可能性です。確定的な証拠は掴めていませんが、単独犯では説明がつかない事例が多すぎる……、これが、我々の見立てです」


 さらにササ所長は、口外すると犯行組織に気づかれてしまう可能性を考慮し、この仮説を知っているのは詰所の上層部だけとも述べた。



「ちなみに調査会社が別にいるってご存知ですか?」

「調査会社? ……知らないですね」


「憲兵だけでは人手不足だからと、行政から依頼を出しているんだってよ」

「我々も舐められたものだな……」


 オゥタニサの言葉にササ所長の眉間に皺が寄った。

 どうやら連携が上手いこと取れていないようである。


 それはそれとして、なぜナイッツは昨日“組織的な犯行”だと言えたのだろうか。

 

 まだいなくなった直後。

 単にはぐれた可能性もある。

 それに、憲兵ですら仮説で組織的な犯行と言っている。

 

 オゥタニサの短気もあって、その場はあまり気にしていなかったが、今冷静に考えるとナイッツの言動は怪しさを感じた。


「どうしたの? クシード」


 思慮深く難しい顔のクシードをパーレットは不思議そうに聞く。


 

「ん? いや、なんでも……こんなに治安悪かったら、確かに過疎は進むわなぁって……」


「昔はのどかな農村で、行方不明と言えばただの家出だったんだけどな」

「そうですね。私もこの町へ赴任してきた時は平和な町だと感じました」


 オゥタニサとササ所長の言葉の裏を返せば、昔は治安が良かったのだろう。


「いつぐらいからですか? こうゆう、よく分からない事件が増えたのは?」


「……数年前かな? その頃から人が増え始めましたよね? オゥタニサ上官」

「言われてみればそうだな」


 いわゆる移住か……。


 転移前の世界でも、外国からの移民を受け入れた結果、犯罪率が上昇したニュースの記憶が蘇る。


「そう言えば、ナイッツとの出会いも転居者の検閲をしていた時だったな……」

 

 オゥタニサは懐かしむように語るも、クシードの中では点と点が繋がり始めていた――。

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