5-3 イングロリアス
ガチャ領、伯爵邸の一室。
その乱雑な寝室には、二人の若い裸の女が転がっていた。
どちらも刀によって、無残に首を斬り落とされている。
部屋に漂う、血と酒と、甘ったるい香水の匂い。
それは空気を重く淀ませ、地獄の空間を作り出していた。
そして、この惨状の中心にいるのが、半裸のガチャ伯爵だった。
手足を手錠でベッドに繋がれ、口をテープで塞がれている。
伯爵の目に、もはや光は宿っていない。
乱れた寝具と、シーツに広がった血と失禁の染みが、直前までの彼の凄まじい足掻きを物語っていた。
伯爵は横目で、壁一面に取り付けられた鏡を見る。
そこに映る己の額には、『六つの翼と一つの目』が深く刻まれていた。
――それは、セラフィムのシンボルだった。
「よし、できた! いい感じじゃん! ねえ、見てよこれ!」
伯爵の腹の上に跨っているエルラが、血塗られた短刀を手に、満足そうに振り返る。
「いいから、もう殺してやれ。時間の無駄だ」
手に携帯電話を持ったジュールスは、感情の起伏もなく淡々とそう告げた。
「……なんだよ。あんたが、やれって言ったんじゃん」
エルラは不満げに唇を尖らせ、伯爵へと視線を戻す。
伯爵は何か言いたげに、濡れた目でこちらを見上げていたので、口を塞いでいた粘着テープを乱暴に剥ぎ取ってやった。
「なに? ……何か言い残すことでもあんの?」
伯爵は一筋の涙を流しながら、エルラを呪い殺さんとばかりに睨みつける。
「……地獄、に……落ち、ろ……!」
「あはっ、やだよ。地獄に落ちんのはお前だけだ」
エルラは少女のように無邪気に笑うと、躊躇いなく伯爵の首に短刀を突き刺した。
肉を裂き、刃が硬い頸椎にぶつかる。首から短刀を一気に引き抜くと、鮮血が噴出し、エルラの顔へと派手に飛び散った。
こんな下衆野郎でも、流れる血は赤くて、温かい。
短刀に付着した血をシルクのシーツで手際よく拭い取り、カチリと鞘に納めた。
「ねえ、シャワー浴びる時間ってある?」
「ない」
ジュールスは腕時計を見ながら、即答した。
「時間がない。さっさと出るぞ」
「はー、まじかよ。最悪じゃん」
エルラは眉をひそめ、床に落ちていたタオルを拾い上げ、顔の返り血を拭う。
「さっき、誰と電話してたんだよ?」
「クロム家の内通者だ。アヤメ嬢が乗る予定の列車の時刻を聞いていた」
「ふーん。何時だって?」
「ハーツ駅、13時4分発の列車だ。『クラトル駅』には、14時に停まる」
「……あの義手野郎もその列車に乗るの?」
「乗る」
「そうか。それはよかった」
エルラは完治したばかりの脇腹に手を当て、狂気を孕ませながら不敵に笑う。
「それなら、ちゃんとお礼参りができそうだね」
「今回はやりすぎるなよ」




