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第22話 従者は初デートへ行って参ります! もちろん旦那様とではありませんよ?

「と、いうわけで。明日、デートに行って参ります」


 ルナと格闘しながら書類仕事をこなしていたノクト様が手を止めた。羽ペンというより、握りしめた彼の手そのものが子猫の餌食になっている。


「……で、デート? 俺、明日は仕事あるけど」


 不可解そうに私を見つめてくるお顔は、フレーメン現象を起こしたルナとそっくりだ。笑ってはいけない、となんとか耐えた。


「いえ、ご一緒するのはヴァン様です」

「なんであいつと!?」


 嫌がられるだろうとは思ったが、ここまで予想通りの反応をされるとは。なんでなんでと両手でルナをもみくちゃにしだすので、慌てて彼女を救出した。ヴァン様とデートに行くことになった経緯──それは昨日の朝に遡る。




『レティじゃねーの。あれから元気してる?』

『はい、おかげさまで』


 アップルパイが食べたい、と旦那様がわがままを言い出したのがきっかけだった。作りましょうと申し出ても「今すぐ食べたい」の一点張りだったので、仕方なく買い出しに。その帰り道、街の広場で偶然にもヴァン様とお会いしたのだ。


『ヴァン様、お願いがあるのですが』

『なになに〜?』

『女性を紹介していただきたいのです』


 信じられないものを見るかのような目を向けられた。おそらく誤解をされていらっしゃる。急いでノクト様の花嫁探しをしている旨を伝えた。

 ペルシスタ様の件で手が回らなかったが、ひと段落ついた今、ヴァン様にもご協力いただこうと思ったのだ。


『嘘だろ、あいつ。レティになにさせてんの……?』


 従者が主人の花嫁を見繕うのが、そんなにおかしなことなのだろうか。ペルシスタ様も同じことをおっしゃっていた気がする。


『いいよ。じゃあレティ、俺とデートしよっか』

『……なぜそうなるのですか?』

『デートしながら、俺のおすすめの女の子たちを紹介すんの。ギブアンドテイクってことで──いいだろ?』


 こちらはお願いをしている身だ。異存などあるはずがない。旦那様をどう説得するかを考えなければいけないが、なんとかできるだろう。


『承知しました。正午を過ぎると旦那様との公務がありますので、朝からでもよろしいでしょうか』

『えっ、マジでいいの!? 最高のデートプラン考えとくよ』


 まさか私が了承すると思っていなかったのか、ヴァン様はにやけた口を隠しながら鼻の下をこする。軽薄な言動からは、彼が本心から楽しみにしているのかまでは読み取れない。

 明日の待ち合わせ場所を決めていると、彼は私の胸元で輝くブローチに目を凝らした。


『……なぁレティ。これ、もしかしなくてもノクトが作ったやつ?』

『わかるのですか?』

『魔導具はさ、作ったやつの名前が金具の裏に刻まれてんだよ』


 三日月のブローチを外し、魔石を留める金属部分を月の光にかざしてみる。片目を閉じて覗き込むと、そこには小さく「ノクト・イーエン」とあった。魔導具に製作者の名を刻む不文律があるなんて、初耳だ。


『これがあれば、つけている者同士の位置がわかるのです』

『いやいやいや、重すぎぃ! 魔石の色も虹だし……レティ、知っててつけてんの?』

『もちろんです』


 自分とは違う生き物を見ておられる、そんな顔だった。なぜそこまで嫌がられるのかがわからない。ノクト様の身になにかあったとき、居場所がすぐにわかるなんてこんな便利なものはないのに。

 ブローチそのものはさほど重くもないし、虹色の魔石はノクト様の瞳を思わせる色合いでむしろ気に入っているくらいなのだが。


『魔力を流して目を閉じなければ見えませんよ?』

『あいつは常に馬鹿みたいな魔力垂れ流してんだから、監視されてるようなもんでしょーよ……デートのときはこれ外しといてね』


 素直に頷くと、ヴァン様はほっと吐息を漏らしていた。確かに、外さなければまたノクト様が追いかけてくるかもしれない。後を追ってこられること自体に問題はないのだが、旦那様の体力では外で無理に体を動かすと体調を崩しかねないのだ。それだけは避けたい。


『じゃあ、明日。広場で待ち合わせな!』


 同僚らしき自警団の方に呼ばれ、ヴァン様はスキップしながら見回りへと戻っていった。




 そうして、「と、いうわけで」に繋がるのである。


「ブローチは置いていきますが、無用なご心配はなさらないでください」


 お昼までには帰りますと付け加え、経緯も話し終えた。だというのに、ノクト様はまだ口を開けたままだ。

 旦那様、と呼べばハッとして、今度は早口でまくし立ててくる。ヴァン様と出かけることがいかに無意味か、イーエン家の従者としてどうあるべきか、などなど──このままでは日が暮れそうだった。キリのいいところで話を終わらせなければ。


「旦那様、よろしいですか。今回はついて来ないでくださいね」

「でも」

「絶対について来てはいけませんよ」

「…………わかった」


 少しばかり長い()のある「わかった」ではあるものの、了承は得られた。説得も成功し、ひとまず一安心。そう考えていた自分の甘さに打ちのめされたのは翌日であった。


 ノクト様はとんでもない暴挙に出られたのである。


 支度を終え、出かけようとしたまさにそのとき──アドリ様に呼び止められた。


「エクレティカ、今日の予定は白紙になさい」


 外出のことはアドリ様にも報告済みだ。緊急事態かと思って彼を見ると、すりおろした林檎の皿と冷たい水を張った(たらい)がその手にあった。

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