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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第八章 限界は打ち破られた
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Lv99 戦力

「チェーンよ、貴様は命の恩人だ。こんなところで死するなど、我が許さんぞ」


「なんで、ミオリばっかり…くそ!!」


もっとも、狂気の渦に溺れたこの男に声をかけたとて、無意味であろうが。


なぜ、闘わずに退く判断をしたのか、己にも分からぬ。


神器使いの女と菱田トヨコの孫に怯えたわけではない。


闘う理由が、もうないのだ。


力が湧いてこない。


もともと気に食わぬ存在・飽田洋一郎に邪魔をされた。藤井寿太郎と60年来の決着を付けたかった。彼奴はもう、この世にはいないだろう。心臓を潰したから、断言できる。


『月』の光に晒されてから、我は人間の姿にも戻れるようになった。しかし、人間になど戻ってしまえば、今までの行いと誇りが無駄になってしまう。我のために死んだ1000を超える仲間たちに顔向けできん。


我のせいで死んだナナミにも。


どうすればいい。


あの男の口車に乗せられて、まんまと組したタナト教団。ここに存在することに一抹の意義も感じぬ。


藤井寿太郎。


貴様さえあんな不意打ちを喰らったような死に方をしなければ…。


我は…我は…。



△△△



鍵のパイセンたちと合流し、軍玉から来た情報を整理する。


背負ったパニッシュの呑気な寝息がすーすーと聞こえる。暴れるだけ暴れたくせによぉ! 


ムカついたからいったん床に叩きつけ…たい気持ちをグッと抑えて、ゆっくり下ろす。


「で、黒幕は偉そうに山頂から見下ろしてるってか」


ヒビキさんが拳を鳴らす。


「さっそく殴り込みと行こうじゃねえか」


「轟。君には判断能力というものがないのか」


「冗談に決まってんだろ? 通じねえな。…こういう時カナトやトミヒコなら乗っかってくれるからな」


「もちろんっすよヒビキさん! こいつ、マジでノリ悪いっすよね?」


鍵のパイセンを睨んでやる。


「君は一年だろ!? 三年の僕をこいつ呼ばわり!?」


「カケルは優しいから、みんな安心して攻撃してくるんだよ?」


「フォローになってないよ…」


やれやれ、とこめかみを掻く鍵パイセン。その隣には、夢でも幻でもない、パンドラ…いや箱守サイハが笑っている。


その気になれば俺はいつだってこの女に殺されてたのに。


「やっぱ、すげえ…」


興奮が声に出てしまう。出なきゃおかしいだろ普通。


「あ? どうしたぁ?」


「急に笑い出すなよ!? びっくりするだろ!?」


だって。


「だって、俺が叶わなかったこのバケモンを先輩2人で倒したんでしょ?」


やべえ。


興奮が収まらねえ。


心臓が躍ってる。


「おいおい、またタナトに身体奪われるなんてのはナシだぜ?」


「き、君! 僕の恋人を化け物扱いするなよな!」


「いいよカケル。この子、威勢が良くて面白いから」


だらしなかったり、弱そうだったり、ダメなところも多い先輩たちなのに。大事な場面ではちゃんと勝利を約束してくれる。水無月オボロだってそうだ。潔癖でいちいち細かいケチ野郎だってバカにしてるけど、心の根の部分ではあの安定した強さに信頼しきっている。


そう、安定感。安心感。


常に勝ち続ける強さ。


「俺も、早く俺もあんたたちみたいになりてえ!!」


やっぱり俺は、強くなりたい。


それは今も変わらないけど、前とはちょっと違う。


なんていえばいいか分からないけど、簡単に言うなら、ただ勝つんじゃなくて、誰かにとって助けになるような勝ちが欲しい。


「ああ、そっか…そうだ! そうだったんだ!」


視野が自分の意識に向いてくる。


ようやく分かった。


強さの意味。


ミツキが『求めてない』と言ってた意図が。


「ヒビキさん!」


目つきの悪い不良のトップと目を合わせる。


「いい目してんじゃねえか。言ってみろ」


威勢だけで独りよがりだった俺を受け入れてくれた男に、俺は堂々と意見をぶつける。


言う前から、これはみんなに受け入れられるだろう。そんな確信があった。


「撤退して、戦力を整えましょう。飽田も助けたいけど、飽田の親父も強いし、教団のやつらの位置を全員で把握してるわけでもない。急に人数不利で抑えられるかもしれねえっすからね」


「へっ!」


「うわっ、ヒビキさん!?」


急に俺の頭を両手でくしゃくしゃと搔き始める。


「ちょっ、これってどういう…、ヒビキさん!? リーダー!? 説明プリーズ!!」


それが、10秒くらい続いたところでようやく解放された。


「百点満点だ、この野郎」


ヒビキさんに、初めて面と向かって褒められた。


「お前のこと、仲間にして正解だったぜ」


顔がほころんでしまう。見られてもいいや、別に。


今はそれどころじゃない。


身体の内側から愉悦が押し寄せてきている。


「まあ、それはそうだよね」


鍵のパイセンも頷いてくれる。


「うん、カナト君、よく見れてるよ」


箱の先輩も異論なし。



△△△



「箱の先輩は知ってんじゃねえのか? 誰が大体どこにいるとか」


「ごめん、教えられてないんだ」


「それって、サイハだけ?」


鍵パイセンはいい質問をしたらしい、「鋭いね、カケルは」と小柄の女が小さく息を吹いた。


「私だけじゃなくて、教団員全員が教えられてない。洋一郎さん、いや飽田洋一郎に個別に呼ばれて、各々がその言い渡された場所に配置しただけ。その意図はたぶん、私みたいな裏切り者が出た時の対策だと思う」


「なるほど。そうなってくるとやっぱり帰還して戦力を整えるのが最優先だね」


「なっ? だろだろ!!」


自分の提案が通るのは気分がいいぜ!! 水無月オボロは仮面の奥でいっつもこんな感じでニヤニヤしてたんかな。それに飽田の野郎も…


飽田。


あいつは、どうなんだろう。


助ける?


ぶん殴って連れ戻す?


それはあいつが本当に望んでることなのか?


それに、俺はあいつと過去にあっているらしいけど、思い出せない。


『急成長』したときの夢と関係あんのかな。


「カナト」


肩に乗る屈強な手。


「難しい話は今はナシにしようぜ」


「ヒビキさん…」


「そういうみみっちいのは鍵とオボロに丸投げしときゃいいんだよ。俺はいっつもそれで定例会乗り切ってる」


「丸聞こえなんだけどね」


「そうっすね! ヒビキさんの言う通りかもっす!!」


「賛成したんだけど!!? ああ、やっぱりイエロースパークなんて大っ嫌いだよ!」


「まあまあ、カケル。こういう人たちもいるから楽しいんだよ?」


「サイハまで同調しなくていいから…」


不憫な鍵のパイセンを見て、この場の誰もが笑った。箱の先輩が一番楽しそうに笑っていた。



△△△



「ようやく片が付きそうね」


押し寄せる平均レベル30の魔物の軍勢も、『エンハンス』で鍛えられた防御で消滅こそはしないものの、ほとんどを気絶や瀕死の状態に持ち込むことができている。


私の仲間たちもなめられたものだ。彼らと同じくらいのレベルの人間が多くとも、研鑽したスキルと戦闘術、人間の知性が備わっている。よほどの不運でも起こらない限りは負けることはない。


しかし。


「洋一郎君の息子さんも、大したものね」


あの子。よく見ている。


研究室の横の高台から、ボードゲームの駒を操るように、魔物に『エンハンス』を掛ける、もしくは解除するタイミングを巧みに操っている。


私たちのスキルが強まったタイミングで、高めた防御をさらに強化。

魔物が攻撃に転じたタイミングで、攻撃力を促進。それも、強化対象の肉体に違和感を与えない程度の絶妙な強化度合。


『Lv28』のエナジー総量を上手に切り盛りしている。素性がまともなら今すぐにでもうちの軍師になってほしいわ。


翼を持った魔物、表皮の堅い魔物、火を吐く魔物などの多種多様な生物たち。その彼らの強みと弱みを誰よりも熟知している。


確か彼は、娘のユミコたちからは『魔物オタク』、などと呼ばれていて、日常的に魔物を可愛がっていたとか。


そのキャラは、今(・)日(・)の(・)た(・)め(・)かしら、ね。


しかしまあ、その努力も水の泡。


残念ながら、成就はさせないわ。私のとっても軍にとっても、都合の悪い努力は受け入れたくないもの。


最後の魔物。赤い鷹の魔物『ブラッディホーク・『Lv36』』を、上杉ユウトの『神速』が仕留める。


「制圧完了!!」


分隊長の一人が鷹の消滅と、周囲の気絶した魔物たちを確認し、動ける魔物がいないことを確信。勝鬨(かちどき)を上げた。


制圧にかかった時間は、4時間32分か。


時間を見た途端にのしかかる徒労。あとは研究所内の突撃部隊に帰還命令の連絡。そして、飽田洋一郎へ降伏の要求。さて、大将の首はどこかしら。


すっかり空は真っ暗になっていて、一月半前の祭事で浮かんだような眩い月が見える。


残念ね、ユミコ。


あなたの出る幕は、もう無さそうだわ。


…。


そう思っていた私が、どうやら浅はかだったようね。


「どう育てば、そんな策が思いつくのかしら」


気絶、あるいは瀕死で伏していた魔物たち。


500は存在する彼らが、ゆっくりと立ち上がった。


莫大なエナジーを携えて。


頭上には、あり得ないレベルを乗せて。


平均レベル30だった魔物たちは、強さを手に入れる。…いや、取(・)り(・)戻(・)し(・)た(・)のか。


飽田洋一郎が意(・)と(・)し(・)て(・)魔(・)物(・)た(・)ち(・)の(・)レ(・)ベ(・)ル(・)を(・)下(・)げ(・)て(・)戦(・)場(・)に(・)送(・)っ(・)た(・)。


そしてそれを、私(・)た(・)ち(・)が(・)勝(・)ち(・)を(・)確(・)信(・)し(・)た(・)今(・)の(・)タ(・)イ(・)ミ(・)ン(・)グ(・)で(・)解(・)除(・)し(・)た(・)。


そうとしか考えられない。


抑えつけられていたような強さが、一気に解放されたように見える。


息子の『エンハンス』では実現不可能なほどのエナジー拡大。


近くにいたワニ型の魔物『キラーアリゲーター』。横たわっていたそのワニのレベルは、28だった。


それが今は…


「これって、何かの冗談かしら?」


『Lv68』。


28が、68になっている。


「なんで…」


近くにいた『Lv43』の石田分隊長の腕に凄まじい速度で近づき、


「あっ、ああああああ!!!」


絶対防御の代名詞を持つ彼の『鉱石纏い』のスキルで強化した鉄の鎧ごと嚙みちぎった。


咄嗟に首を振って、全体を見渡す。


地獄にいたことに気づいた。


まんまと嵌(は)められた。


飽田洋一郎。


軍玉の私を手玉に取るか。


眼下に広がる…


『Lv72』『Lv64』『Lv68』『Lv71』『Lv73』『Lv72』『Lv73』『Lv73』『Lv69』『Lv61』『Lv58』『Lv74』『Lv78』『Lv72』『Lv67』『Lv65』『Lv74』『Lv73』『Lv72』『Lv68』…


怪物たち。


これが、500体。

文明玉(タナト教団『序列・壱』)・飽田洋一郎のスキル『虚脱』は、人間よりも魔物への通りがいいです。魔物にかければレベルが低下します。

とある経路で入手した『真紅のエナジー』は魔物由来なので、『虚脱』で閉じ込めて、タナト復活の研究を進めていました。被検体がスキルを覚醒する前に『真紅のエナジー』を注入し、『虚脱』で調整していました。スキルが覚醒して適合しなかったらそのまま見殺し、もしくは『処分』を繰り返し、成功作であるカナトにたどり着きました。

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