Lv94 君が思うほど
あの日、僕は一命を取り留めた。
格好よく死ぬことができず、待っていたのはサイハの正体が周りに知られることの恐怖。
運命は僕を楽に死なせなかった。
サイハを守り抜く。
僕に生きる理由を与えた。
そして、今年。
運命に裏切られた日。
抗魔大祭の日。
サイハは来た。
危険に晒したくはないと思いながらも、僕を守ってくれるという言葉に、僕は素直に胸が躍った。
また、調子に乗ったんだ。
『月』の光が、僕の命がけを一瞬で奪い去った。
僕が命を懸けた『施錠』なんて、あっさりと浄化した。
凡人の発想では到底たどり着かない、強大で、凡人の視野を覆いつくすほど強大すぎるがゆえに、最後の最後までその存在に気づかなかった。
『月』は、僕らの有無を言わさず、是非を問わず、無慈悲に慈悲の光を放つ。彼女を悪と断定するように、彼女の過去を明るみに出した。
強大な光は、彼女の闇を晒したいだけ晒したくせに、消してはくれなかった。
彼女は、もう普通の女の子になれないと、望まない力を使って僕の前から消えていった。
それでも。
「サイハ!」
僕が、何度でも。
「なんで…来たの…」
「何度でも、君を普通の女の子にしてみせるよ! だから…!」
こんな薄暗い地下から。
真っ暗な闇から。
君を…普通の女の子、箱守サイハを連れ戻してやる。
「『解錠』!」
「んぐっ? …だぁ! サンキューな、弱そうな先輩!」
藤井カナトの拘束を外す。
「弱そう!? まあ、この際何でもいいけど…」
頭を掻く。
「君には悪いけど、手伝ってもらうよ」
まさか、またイエロースパークに貸しを作るなんて。
「へっ、あんたに言われなくてもそのつもりだ!」
藤井カナトは、嫌な顔一つせず、怯えることすらもせず、歯を見せて、虚勢でも何でもなく、無邪気の子供が本心をさらけ出すように笑った。
「この根暗クソチビ女をぶっ殺すチャンスだからな! 覚悟しやがれ、惨めな『序列・惨』!」
「あはは、冗談きついよ…本当に殺したりしないよね…?」
「…」
「なんか言ってよ!!?」
彼だって、苦しいはずなのに。
帰りたいとか、帰っても居場所がないんじゃないかとか。
たぶん、サイハと同じ気持ちだろうに。
「いくぜ! この化け物よりも『真紅』を使いこなしてやらぁ!」
魔物を経由せず、『Lv52』。疑うわけじゃないけど、オボロ君の話は本当だった。
「…よし、心臓は暴れてねえ。そのままいい子にしてろよ、バケモン」
エナジーで作り上げた『真紅の剣』を構え、躊躇いなく。
「『斬撃全振り成長!』」
飛び掛かった。
△△△
どうして、来ちゃうの。
どうして、私を諦めてくれないの。
どうして、私を嫌ってくれないの。
私は、たくさん人を傷つけたのに。
カケルのことだって、殺しかけた。
もう、放っておいてよ。
…力を貸して、『箱』。
カケルに、恐怖を植え付けて。
私が、箱守サイハがどれだけ残酷で卑劣で薄情で無慈悲で穢れた女だということを、彼の脳髄に焼き付けて。
あんな思い出なんか。
あんな思い出なんか。
あんな思い出なんか。
「『冥雷→曲射』」
変幻自在の『箱』。『闇』の自動付与以外は質も形も、自由自在。
手を差し出し、指向。
湾曲をイメージ。
私らしい『闇』にまみれた雷撃が、想像通りのカーブを描く。
「やべっ!」
やっぱり。
藤井カナトは、変則的な攻撃に反応が遅れる。
全力で撃ったけど、死にはしない。指先から肩までの骨は砕け、肉は千切れるだろう。でも、彼にはタナトの超再生がある。
少し気を失う程度で済むだろう。
「『施錠!』」
雷撃が止まった。
思った以上に、格段に反応が早い。
「今だ、藤井カナト!」
「サンキュー! ひょろい先輩。…らぁっ!」
『真紅の剣』が止められた冥雷を切り裂き、かき消した。
「…読んでたの?」
「君のことは僕が知ってる。知り尽くしてるから、僕からは逃げられないよ」
「…しつこい男は、嫌われるんだよ?」
「君に嫌われても、僕は君を幸せにする。僕ごときならいくらでも最低になっていい。どうせ拾われた命だ。君に僕のすべてを捧げる」
「だからそれを…やめてって言ってるの!!」
いい加減、分かってよ。
私の本質を。
君が思うほど、私は綺麗なんかじゃない。
君が私を思うほど、私は息ができないくらい苦しいんだよ?
もう戻れないの。
洗い流せないの。
「『深淵水冷→奔流』」
黒い濁流を顕現。
溺れて。
もう、何もしないで。
この質量なら、『施錠』も『解錠』も間に合わないでしょ?
「『魔術師型成長!』」
え。
『可変成長』を変更した?
だってそれは、レベルアップ中は使えなくて、『Lv1』からまた上げなおさなきゃいけないって、出かけるときいつも言って…。
「意外と素直なんだな、お前。俺みたいな単純野郎に引っかかってどーすんだよ!」
憎たらしい笑みを浮かべながら、藤井カナトは地下室の天井目がけ、
「ちゃんと自分の身体守っとけよ、鍵のパイセン!」
剣先から凄まじい質量のエナジーを放出した。
周囲の音も、目の前の景色もごっそり奪い去ってしまうほどの『真紅』が覆いつくす。
5階建ての研究室の天井。
開いた風穴から差し込む黄昏。
彼らは風穴に飛び、地下から1階へと離脱し『深淵水冷』を回避。
彼らを追いながら、目線は少し上に向いてしまう。
「しっかり見惚れてんじゃねえか。光に!」
「藤井カナト…!」
「もう観念して一緒に帰ろうぜ、箱女。お前もお前で、ストーカーみたいに付きまとう男がいるし。俺にも俺で、俺のことが好きで好きでたまんねえバカ『太陽』がまた沈みそうだからな!」
向けられた剣先。
「『獄炎→囲い込み』」
傲慢の『真紅』が、いや、正確にはこの男が私の決意と殺意を刺激した。
「もう、殺し合うしかないよね…」
描写してませんが、もうこの時点でサイハのレベルは元に戻っています。
『Lv25』。『箱』が強すぎるので、低めのレベルでもクソ強いです。
ちなみにカケルは『Lv30』。カケルも、恵まれたスキル性能とサイハの癖の読みで、どうにか持ちこたえてます。カナトがいるのもかなり助けになってます。




