Lv89 かみ
10年前の、ある夜。
両親と祖父母が血塗れになって倒れていた。
「ふう。これで任務完了だな。ボスと、司祭玉に報告すっか」
「なんたる技量。これが忍の血族か。…ぐふふ、しかしワタクシたちは勝ち、こうして生きている。これも、太陽のご加護!! ああ、願わくばあなたに焼かれたい! 1000年来の『太陽』が現れぬものかな! チェーン! ワタクシはここで2時間ほど祈りを捧げて帰ります」
「バカ言ってねえでずらかるぞ、タコ助。明日は隣のR地区。噂の残虐な山賊集団は、寝不足なんかでやり合える相手じゃねえ。…まだメンバーが4人なんだから、無駄死になんかしたら地獄でボスにどやされる」
黒いフードを纏った2人の男。
「愚か者はお前ですよ? ワタクシの魂は死後、太陽様の御導きにより天へと昇るのだ。あなたのような嗜虐主義者と一緒くたにするでない」
「人を勝手に血も涙もないサディストみたいに言うんじゃねえよ。…そうだろ? 嬢ちゃん?」
目が合う。その時にはもう、遅かった。
巻きつけられた鎖。
首元に伸びる刃物。
ああ、私もここで殺されるんだな。
…そうはならなかった。
「こいつはメンバー候補じゃねえし、俺は嗜虐主義者なんかでもねえ。どうすっかね」
「殺してしまえばよろしい。太陽様もきっとあなたをお赦しになるはず」
「俺が手を下すみたいな流れにするのやめてくんねえかな」
喉が震える…。
私の家族だった肉塊たちを見る。
血がつながっているだけで、子供の私のことをどうとでも扱っていいと思っている悪魔たち。
悪魔のような記憶。
『お前には才能がある。磨け。そして長年、陽月教に抑えつけられていた雪辱を晴らし、我が一族の栄華を取り戻すのだ』
老害の妄言。
『あなたは選ばれたのよ? お父さんやお爺さんの言うことを聞けないのなら飢えて死になさい』
私にだけ飯を出さない母親。
『お前! 何をやっている! 一秒の遅れが一生の終わりと知るがいい!!』
3キロの遠泳。溺れて死にかけた私に、一本も指を差し出さずに罵声を浴びせた父親。
やりたくもなかった修行。
背負いたくもない宿命。
終わってくれた。
この人たちが終わらせてくれた。
そして、あの人が。
「もう、背負わなくていいのですよ。日南さくら。あなたはあなたのために生きるのです」
司馬明人が、あいつらを悪と断定してくれた。私の真の親になってくれた。
△△△
S地区。
逢魔岳。
見えてきた巨大な建造物は、軍事施設を思わせるほどの大きさ。研究所だと、誰かに言われなければそうと断定できないだろう。
ふむ。
「解錠指定…」
鍵カケル。
この子もなかなか、傑物。
タナト教団の『序列・惨』だった恋人の力を『施錠』できるほどの素質。代償はあれど、物体・気体のみならず、相手のスキルや精神への干渉が可能な概念系のスキル。
この子も早く漢字登録されちゃえばいいのにねぇ。
研究所を囲い込むようにばら撒いた『紙』。財玉の金成樹が顕現した膨大な『紙』。
「ホンマ、首脳陣は考えることのスケールが大きいわ。鍵くんとこんな悪魔的なコンボが完成するとは思わんかったわ」
西宮コンジのスキル『罠師』。そのスキルで『紙』にエナジーとエレメントの『挿入口』を生成。そこから部隊200人全員のエナジーやエレメントを詰め込み、A4用紙サイズの超火力エナジー爆弾を5000枚作る。
推定の爆破範囲は1枚につき10立法メートル。瞬間の威力は、鋼に風穴を開けるほどに膨らむだろう。
今にも爆発しそうなほど、文字通りパンパンに力を注いだ。放っておくと『紙』が爆発する。
だからこそ、その危険な爆弾たちを『施錠』し、ここまで持ち込んだ。鍵くんのスキルがなければ、爆発の危険から中途半端な爆弾しか作れなかっただろう。
そして。
「全配置、完了です」
本当に興奮するわ。
予定よりも2分速い配置。
A地区中学1年・上杉ユウト。
スキル『神速』。
その診断は、決して間違いではなく。
まぎれもなくそれは、神業的なスピード。
「ふふ、では始めようかしら」
軍玉に就任して以来、私はここにきて初めて興奮している。
オペレーションK。『神と紙』による悪魔たちの解体ショーを。
天へと向けた銃口。かつて第一人類史で人気だった『陸上競技』に使われたピストル。
「レディ…」
パァン!
と、威勢のいい銃声とともに、『紙』たちは研究所の外郭を爆発で覆い、
「奪還最優先だ!!」
「行くぞ!!」
「おおおおおおおおおおおおお!!!!」
才能たちは走る競技者のごとく、本丸へと進軍した。
開戦!




