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Lv86 相談

「さあさあテリヒメ、ゆっくりしていきなさい」


12月。


足を入れたこたつから、もう二度と逃がすまいとママが私を押さえつける。無駄に怪力なママに、物理的には逆らえない。かといってスキルでどかすわけにもいかない。


「あんたの好きな大福があるわよー」


…そもそも、どかすつもりなんてないんだけど。


「晩御飯はあんたの好きなハンバーグよー」


どかしたところで、私に何ができるんだろう。


抗魔大祭で低下したレベルが、完全に元に戻った。それでも足は動かない。意志は奮い立たない。


カナトも奪われて、ルナも救えなくて、オボロさんの力にもなれなくて。


どこかで私も、ルナみたいに強くなれると思っていた。カナトみたいに急成長すると思っていた。


でも、そんなことにはならなくて。


限界が見えた。


私はあんな風に、なれない。


「テリヒメ」


間違っていた。


「もうあなたは、闘うことなんてしなくていいのよ?」


私は自分で自分のことを、強いと思っていた。


国を守れる『太陽』ではなかった。


国に守られる希少な『太陽』でしかなかった。


「こんなバカなねーちゃんでも死なれたら困るからな」


「ミコト…」


みんな宝石のように、私を守る。未だレベルのない小さな弟すらも、私を守る。


これでよかったんだ。


私があの場にいてもいなくても、結局何も変わらなかった。


それなら、無駄死にして『太陽』を失うことなんてない。ミドロさんの時みたいに、また誰かに余計なことをするかもしれない。


冒険は、もうたくさんした。満足だ。おなかいっぱいだ。


カナトが、私をいろんな可能性へと連れて行ってくれた。


もう十分、いい思いをさせてもらった。


もう、何もせずとも『太陽』で居続ければいい。『月』と司祭玉が欠けて、ただでさえ国民は不安になっているのに、これ以上、何を動く必要がある?


カナトだって、誰かが連れ戻してくれる。


大丈夫よ。あいつは生きぎたない男なんだから。


そうに決まってる。


帰って来たなら、言わなきゃいけない。


カナト。


あんたにふさわしいのは『太陽』じゃない。


もっとちゃんと、真っ暗な空を見なさい、って。


「ごめんくださいっちゃ!!!」


外から聞き覚えのある声がしたのは、その時だった。



△△△



「お、ボスの坊ちゃんじゃねえか。カナトなら、パンドラたちと狩りの真っ最中だぜ」


「いえ、少し外の空気を吸いたかっただけなので」


『序列・拾』のオーファンと、『序列・拾一』のツリー。


「ふん。文明玉様のお坊ちゃんは在宅勤務でのんびりできていいよな。僕より弱いくせに、親に守られてうらやましいよ」


なぜか、中性的な顔の樹木使い、ツリーからは嫌われている。嫌味なやつ、という俺の役(・)柄(・)がまだ染み付いているのだろうか。


「まあまあ、そういうなよ。あの残虐な父ちゃんの子供でいるのは、むしろストレスたまるってもんだ」


すれ違い、手を少し上げて歩いていく。


「今の発言、ボスにチクってやるよ! 今度こそお前を殺処分してもらうかんな!」


「そんなことで殺処分なんてする人かよ。お前じゃあるまいし」


「またガキ扱いしたな!!!」


隣を歩く美青年が子犬のように吠える。


俺の冗談でムキになるカナトを思い出す。


今からでも…


父さんの命令に逆らって、弟を…カナトを海外にでも逃がして、タナトなんて忘れたものにして、俺もどこかへ消えて。


無理だ。


もう戻れない。


覚悟を決めたんだろ、飽田ヨウジ。


赤の他人よりも父さんを選ぶと、そう決めただろう。


なんで、こんなときに、


『お前のような傑物こそ、生徒会に入るべきなのだがな』


水無月オボロの顔を思い出すんだろう。


『お前おもしれえな! やっぱお前は俺のチームに入れ! 断ったらしばく!』


轟ヒビキの顔を思い出すんだろう。


『へえ、ヨウジ君って魔物に詳しいのね。頼りにしてるわ』


長井リサの顔を思い出すんだろう。


なんで、最初から敬う気のなかった先輩たちの顔が出てくるんだろう。


『ヨウちゃん、そろそろ私のことウミネって呼んでよっ』


なんで、大して好きでもなかった交際相手の顔が出てくるんだろう。


「馬鹿か、俺は」


どうして、涙なんか流しているんだろう。



△△△



「んねえぇってば、聞いてる?」


「んあ?」


「明日の昼休み、行ってみたいお店があるんだけどって話よ?」


「んああ、いいんじゃねえか?」


リサのやつが俺になんか言ってるみたいだ。


「またヨウジのこと思い出してるでしょ?」


「ちげえよ」


「顔に出てる」


「はあ、お前ってやつは本当に頭のいい女だ」


図星かよ。


目の前の飯も全然味がしねえ。それはここの食堂のおばちゃんの力量的な問題じゃねえことくらい分かる。


「まさかあの子が、ねえ…」


「お前はその辺の相談受けてたんじゃねえの?」


「さあ、どうかしら」


「はぐらかすなよ」


リサのやつも、ヨウジとのことでなんか隠してるみてえだが、今はそんなみみっちいこと気にしねえでいいか。


しっかし、ヨウジの野郎。


「俺に相談くらいしてくれてもいいだろうが。どうせ轟ヒビキみてえなバカに話しても僕のことは分かってもらえねえってか? クソ」


「だから消去法で私に縋りついたのかもね」


「やっぱなんか知ってんじゃねえか」


トミヒコの件といい、イエロースパークのやつらは、どいつもこいつも、悩みがあったらリサのやつに相談しやがる。こいつが賢いのは知ってるけど、ちょっとくらいリーダーの俺にも深い話聞かせろよな。単なる戦闘要員って扱いなのがムカつくぜ。


「聞きたい?」


「聞きてえに決まってる」


「取り乱したりしたらダメよ?」


「そりゃあ内容次第だろ」


十分前くらいに俺の唇に付けた唇が、ゆっくりと真実を告げ始めた。

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