Lv83 浄化演習
12月1日。
抗魔大祭の日が、未だ昨日のことのように思える。
それは、みんなのレベルが元通りになったから、という意味じゃない。
今日から『浄化演習』が始まる。
タナト教団の残党を捕縛または討伐する特殊訓練。
A~F地区…住民平均レベルの高い『上位地帯』から、中学生や高校生、銃撃隊員、剣士隊員等、様々な強者たちが集められる。
そんな集まりに、私は呼ばれてしまった。エリートたちに纏わりついてるだけの中途半端な私が、またおこぼれをもらうように。
「隙アリじゃ…」
「今日から頑張りましょう!」
「ひゅーひゅー…」
素早く後ろを振り返ると、ヨウコ先輩はよそを向き、ヘタクソな口笛を吹いている。
「私、もう負けませんから」
開き直り。
それでもいい。
なりふりなんて構ってられないもん。
いっつもどっかに行っちゃうカナトを、今度は私がこの手で連れ戻すんだから。
遠くに立つリョウを見る。またレベルが上がってる。
カナトのバカじゃないけど、私だって、いつもあんたの背中を見てるんだよ。
△△△
「だからよ! 俺のことは先生って言ってくれよ! これもう30回目な!?」
「……………先生」
「そんな苦しみながら言われるのは寂しい気持ちになるが、まあいいや!」
硬派な顔のくせに、幼い子供のようにはしゃぐ男。
目の前の『剣豪』と木刀を打ち合って数日が経つ。
演習では、それぞれ役割があって、俺は対人格闘を徹底的に磨くグループに入れられた。
今日は、魔物を倒してレベリング…ではなく、純粋な対人。
「ほらほら! ザンテツ大先生の一撃は重くて速いだろ?」
若き剣豪・神藤ザンテツ。『Lv49』
1000年前、タナト封印に貢献した武神、初代イージス・神藤須佐之男の子孫。
去年までA地区中学に在籍。去年まであった序列制度では、兄さんに続いて『ナンバー2』。
スキルは『剣術』。シンプルゆえに、持ち手の剣術と研鑽次第では最強となりえる。
一ヶ月前の『抗魔大祭』では、『Lv40』相当の魔物を単独で200対討伐した実力の持ち主。
「言っとくけど、スキルは使ってねえからな。使ってたらお前もう死んでるしな。わーっはははは!!!」
「なめんな…くそ!」
「だから遅い遅い。そんな殺意の大振り、見え見えだっての!!」
振るった横降りは無情に避けられ、無慈悲な振り上げが俺の顎めがけ…視界に火花が散った。
立て…立て…
「もう終わりだ。他の生徒もいるしな」
「まだやれる…神藤…、先生」
『先生』なんて敬称も気恥ずかしいが、背に腹は代えられない。俺は一秒でも早く、力が必要なんだ。
肩に手を置かれる。
「焦るな。君は強くなれる」
昨日も聞いたセリフ。
手を置かれただけでも感じ取れる強さ。生物として格上だと感じる。
蛇塚ウロコに感じた同じ種類の強さ。
どうして俺は、到達できない。
「君にだって時間があるのだから。…オーバーワークだな。救護の人、彼を保健室へ」
狭窄する視界から遠のいていく。
クソ。
消えんなよ。
△△△
おいおい待て待て待て!!
今の…めっちゃカッコよくなかったか!?
滝本の弟に対し、お前の兄貴の親友だったぜムーブ。お前の兄貴の過去を知っているからこそ、お前を気遣っているんだぜ、的な!!
リョウ君もやっと『先生』って言ってくれたしよぉ~!!!
くぅ~! 俺ってやつはやっぱり今日もかっけえ~!!
これからの演習が楽しみなイベントに早変わりだぜ!!
「そんなだからあなたはいつまでも稚拙なのよ」
うげ、ユミコ。
お前もメンバーなのか!
見てたのか。
んなことより。
「ああ!? ざけんな! チェリーだけど! チェリーだけれども! チューくらいは経験してるからな! 元カノのリサと!!」
人のことをガキ扱いしやがってから~!!
「愛の所作の方は、きっと雑兵でしょうね。リサはきっと物足りなくて、それであなたをフったんでしょう」
「ち、ちげえし! 俺の方から倦怠期っつーか? 俺がフラれたみてえにして女のプライドを守ったっつーか…自己犠牲の精神が出たっつーか!」
「欲望まみれのあなたが何を言うのかしら? リサはつくづく男運のないコ。ヒビキの方が幾分ましね」
「だぁ! もう! やっぱお前ムカつく!! イマカレの名前出すなよ!!」
おのれユミコめ。
くノ一の女に足を破壊されて落ち込んでるかと思えば、ぜんぜん元気じゃねえか。
…。
どうした?
「あなたが頼りなのよ、ザンテツ」
急に物憂げになりやがる。
「オボロがいなくなって、私が生徒会長なんかになっちゃった。緊張して、どうにかなりそう」
上目で俺を見てくる。
「察してよ、私、強がりなんだから」
こいつの顔は、よく見ると、本当によく見るとだが、整ってはいる。大人っぽいよな。ちょっとだけな。
まさかこいつ…
俺に気があるのか!!?
だあ! クソ!
それに気づけなかったとは、俺はまた…罪な男だぜ。
こういう時は、お得意のやつ。
「俺が守ってやるよ」
こいつだって、年下なんだ。
俺が守ってやんねえとな。イージス最有力候補の俺がな。
「ふふ…」
微かに震えだす大城。
泣いてんのか。
「あっははははははは!!!!」
…。
大笑いしやがった。
「ザンテツ、ちょっと笑わせないでよ! こんな見え見えのに引っかかるとか…ぷっ、ふふ…あー、めちゃくちゃ無理! どこの道化?」
「この女ぁ~!!」
「俺が守ってやるよ、…だって。ぷっ!」
「真似すんな!」
「耳が真っ赤! 可愛いわね。でもモテない、あなたは。中学の時、通算で何人に告って振られてたっけ?」
「43人…じゃなくて!! ああもう!! お前やっぱムカつく!!!! もう帰る!!!」
「イライラにはカルシウムが良いみたいよー」
「うっせえバーカ!! 老け顔バイリンガル!!」
こいつがいるだけでチョー嫌な演習に早変わりなんだけど!!!
集う最高戦力たち。士気も高まる。




