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Lv82 帰りたい

「おいガキ! そっち、行ったぞ!」


鳥型の魔物『Lv40』を、最高到達点『Lv26』の矢を放ち、誘導する。


「うんうん! 任せてよ! 『急成長』のお兄さん…カナトお兄ちゃん!」


こ(・)い(・)つ(・)の射線上に。


「ビリンビリンだよ! せいぜい楽しませてよね、鳥さん!!」


俺同様、未だに本領に達していない『Lv8』の雷撃。


スキル『蒼雷(そうらい)』。


その名の通りの蒼い稲妻は、『Lv40』の鳥に激痛を与えている。


「グェェェェェェ!!」


荒野に響く悲痛の喘ぎが、確たる証拠だ。


「ああ! 逃げないでよ!」


弱った鳥目がけ、蒼雷を掌底に溜めて、もう一度放出する。


その直前。


女の後ろに浮遊する『箱』が開く。


「待って、パニッシュくん」


『箱』から伸びた邪悪な『土』がガキの手に巻き付く。


「はあ? 邪魔しないでよ、ちっちゃいお姉さん」


「ごめんね。でも、小さいのはお互い様だよ」


よく見ると、『蒼雷』は力を吸い取られているように見える。エナジーを萎ませている、そんな感じ。


にしてもこの女。


さっきの戦闘では『炎』を、その前は『水』を出していた。それも、邪悪な『闇』を纏いながら。


これが、


「『箱』さん。私を幸せにして」


タナト教団・『序列・惨』。


変幻自在の『パンドラ』。


エレメントも、形状も、『箱』の中身は自由自在に変容する。


次は、『闇』を帯びた『光』。触手のような形をした無数のそれが『光』らしい速さで、逃げ行く鳥の全身をめった刺しにし、遠くへ放り投げた。


「カナト君」


「俺かよ」


こいつらはあの鳥にトドメを刺せない。あんな高レベルの魔物を低レベルの状態で倒してしまえば、莫大な経験値(エナジー)が身体に入りこみ、四肢も頭も、胴部も破裂してしまう。


でも、俺なら。


化け物を体内に飼ってる俺なら。


「クソったれ。うっかり殺して自滅してくれりゃあいいのによ」


『弓兵型成長(ビルド・アーチャー)』の一矢が、鳥の頭を貫き、全身を粒子に変える。


…平気だ。


飽田洋一郎の計画の最終段階で、俺は外に駆り出されている。


タナトの完全復活。


『月』による想定外の弱体化で遅れた計画を、間に合わせている。


「さすがの体質。本気を出されたら私でも抑えられないかも。ボスが自ら見張ってくれればいいのに」


この化け物みたいな見張りを付けられて。


言うことを聞かなければ、3日前のように、俺は『蒼雷』と『箱』による『罰』を味わうことになる。…思い出したくもない。


『Lv3』。


こいつもまた、本領を取り戻していないにも関わらず、恐るべき破壊力だった。


どいつもこいつも、今の俺じゃ勝てなくて。


抵抗に対する報復の恐怖が脳裏を突き刺し、全身に寒気を与える。


…帰れない。


A地区に帰りたいのに、タナトほどじゃないけど化け物みたいなやつらが何人もいやがる。


でも、帰れたとしても、本当に俺は帰れるのだろうか。


こんな化け物を入れたまま、俺は帰っていいんだろうか。みんなもう、俺のことを遠ざけるか、殺す準備を整えているんだろうか。


また、こ(・)い(・)つ(・)が暴れ出したら、次はだれが止めてくれる?


…ルナ。


飽田洋一郎の言葉なんか信じたくもねえけど。


「お前は、俺のせいで…」


内側に向きかけた意識が、蒼雷の閃きに引き戻される。


「邪魔するなよな! チビのお姉さん!」


拘束を解かれた途端、


「僕はカナトお兄ちゃんと遊びたかったのにぃ!!!」


ガキ…パニッシュが暴れ始めるも、


「放せよ! 殺しちゃうよ!!」


再び『邪悪な土』で、次は手足を完全に拘束し封殺。


「私と同じ、身に余る力に苦しむかわいそうな子。…今は、お眠り」


「遊びたいだけなのに…遊びたかっただけなのに…なんで…!」


「ごめんね」


『邪悪な水』を口に当て、眠らせてしまった。


こいつ。


本当に、俺と同じ学校にいたのか?


だったら、なんで今まで。


「なんであんたは…」


「約束だから、ボスとの。両親との」


教団の黒いローブに似た私服。ローブにはない、その私服特有のフードをかぶり、


「私だって、帰りたいよ」


と、暗そうな女・箱守サイハは地面に目を落とした。


「誰も傷つけたくなんかないよ」


その小さな背丈が、かすかに震える。



△△△



広い訓練室。


排出口からあふれ出す穢れ。


その穢れども…魔物を斬る。斬る。斬る。次々と凍らせて、斬り殺す。


今日は、1000体斬るまで身体を休めない。


あの最低最悪の男の本気を引きだした途端、遊ばれるだけ遊ばれて、負けた。怪我すら負わされず、俺はこうしてのうのうと、だらだらと、生きている。生かされている。


思い出すだけでも、あの灼熱のような屈辱に、心臓が冷える。


はっきり言われた。


『断言する。お前は一生オレ様には勝てねえ。もう無駄な希望なんて持つんじゃねえよナァ? ただただ時間がもったいねえ』


お前は雑魚だ。


そういうことだ。


…。


「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


300体目。


「ぐぅぅぅっ!!」


休むな、握力。


「死ね…」


魔物なんか。


「死ね、死ね、死ね」


魔物なんか、蛇塚ウロコなんか、


全員もろとも。


「死ね…死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」


俺が救う。


「今日はこれまでだ」


431体目の頭蓋を刺し殺したところで『先生』に止められる。


「まだだ…くっ…!!」


気を抜いてしまったがために、襲い掛かる朦朧(もうろう)。


地面に剣を突き立てた判断もむなしく、俺は…


クソ。


この世界から魔物を…。


…を…。


「焦るな。君はもっと、強くなれるのだから」


手が、優しく肩に乗りかかった。


「イージスになるのは君だ。君が、世界を救うんだ」


尊敬できる人間に認められるのは、大勢の凡人に見上げられるのとは違う。


休んでいいのだと、俺の肩から力を抜いてくれた。


俺が、救ってみせる。


カナトもミツキも、何もかも。

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