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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第六章後編 月夜の抗魔大祭
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77/128

Lv77 代わり

『お初にお目にかかります。司祭様の御子、司馬明人様』


『月』…神無月黄泉(かんなづきよみ)が、初めて私の存在を認識した。


月光のように光り輝く頭髪。

翡翠に輝く瞳。

恭しく動く唇。


一目ですべてを奪われた。


あの瞬間を、1000年経った今ですら忘れない。



△△△



「お前も私の愛を邪魔をするか! 英雄の踏み台め!!」


わけのわからねえことを口にしながら、向かってくるロン毛のおっさん。


「くっ…!」


このバケモンのエナジーを引っ張り出したはいいものの、さっきの出力よりも全然しょぼくて、俺らの方がまだ劣勢だ。


つーか強すぎんだろ、こいつ。


リョウとか蒼い雷のガキみたいな天才肌じゃなくて、その逆。まるで人の一生以上の時間を生き続けて、ずっっっっと鍛錬してきたみたいな重み。


目を塞ぎたくなるほどの『光』の線が、縦振りとともに降りかかってくる。


この剣で受けるか。いや、受けられんのか。


考えんな。


早く、早く、判断しろ。


「『月光閃・三日月』!」


二刀が割って入ってくる。


「呆けるな。愚物」


「すっかり態度が元通りじゃねえか、仮面野郎」


「今は仮面はしていない」


「細けえことはいいんだよ」


クソ真面目。ほんと、顔面が整っててムカつくぜ。バカにできるのは、ちょっと背が小さいくらいしかねえのが腹立つ。


「俺が時間を稼ぐ。お前は『真紅』を溜めて、『一撃』を叩きこむことに注力しろ。半端な攻撃はすべて、こやつのスキル『逆行』で修復される。だからこそ、こやつの意思能力を瞬時に消し去るほどの一撃必殺を叩き込め」


「できんのかよ…」


「また卑屈になっているのか? 先が思いやられるな」


「ちげえよ。お前が時間稼ぎできるのかって言ってんだよ」


「ああ、できる。…やらねばならん」


優美に笑った。優しそうな目じりがルナそっくりだ。


「こやつの剣筋は知っている。幼少の頃、稽古で何度か見てきたからな」


「ほう。その程度の知見で断固するか、未熟な『月光』め」


ロン毛が醜く笑うも、


「その油断が命取りになるだろう。『月』ばかりに酔いしれる愚かな老害」


仮面野郎…いや、水無月オボロは持ち前の頑固さで意志を曲げない。


どっちも苦手なやつらだぜ。


「油断をした覚えはないが?」


「ちっ…」


水無月の肩に傷が入る。


「お、おい…マジで大丈夫かよ」


「信じろ、たわけ者」


背を向けたまま左手を真横に伸ばし、


「お前は、お前を全うしろ」


俺の前進を阻止する。


「先輩命令だ」


その横顔のせいで、従わざるを得なくなる。


認めたくねえ。


認めたくねえけど。


「お前のことなんか、一度たりとも敬ったことはねえよ」


この人はずっとルナの兄貴で、生徒会長だったんだな。



△△△



「ふははは!!! 滑稽滑稽!!」


司祭玉・司馬明人が高らかに笑う。


「油断などはせぬさ! 『月』がいるのだから! 目の前の『月』を前にして、半端なことは許されぬ! 相手が『月光』と『いれもの』ごときだとしても、全身全霊をもって確実に滅する。それが『月』への…黄泉様への敬意なのだ!!!」


相手を弾き飛ばした司馬明人が、天を仰ぎ、濁流のように溢れだした愉悦を顔に出す。かつての想い人を夢想し、感涙する。


「またやり直すのだ…! 橘がいなくとも、催眠でも何でも用いて水無月ルナの人格をあの方に仕上げる! ああ、『月』、『月』、『月』、『月』、『月』、『月』、『月』、『月』、『月』…まだ、この魂は、確実に貴女様を愛している!!!」


ああ。


気持ち悪い。


「今度こそ私の本意を伝えるのです! 今度こそ私の願いを成就するのです! 水無月ルナの魂を供犠(くぎ)とし! 今度こそ私が!」


ルナの気持ちを無視して…


「神藤須佐之男(しんどうすさのお)。貴様はもう死んでいる! 以前のごとき邪悪な横入りもない!」


1000年前、タナトを封印した英雄にして初代のイージスとなった偉人を場違いに愚弄する。


「まぎれもなくこの私が! 貴女様に本当の愛を与えるのです!!」


ムカついた。


本当にこいつは、自分勝手なやつだった。


自分の望みのためなら、他人の命を…


私の大切な人を!!


「それを油断だと言っているのだ。司馬明人」


「何度も言わせるな『月光』! この私が黄泉様の前で油断など、無作法ゆえにするわけがない! 私の1000年かけた想いを的外れに結論付けるな!!」


「うるっさいわよバーカ!!!」


「なっ!?」


はあ。


やっと言えた。


でも。


言うだけじゃ私の怒りは収まらないんだからね!!


「出力最大! 『炎天焔(えんてんほむら)』!」


この男が長々と自分語りをしてくれたおかげで、思う存分『陽光凱歌』で溜めることができた『太陽』の威力。


そして、この広範囲。


「ああああああ!! 熱い!! 熱いっ!!!」


ちゃんと当たってくれた。


でも。


「ああ! 私の…私の高潔な姿が!! 嫌だ、嫌だ!! ああ!! うぅ!!」


己の燃えた姿に取り乱しながらも、『逆行』で見る見るうちに戻されてしまう。


「…よくもやってくれたな」


「『月』ばっかり見てるからよ、このロリコン若作りジジイ」


思い切り舌を出して挑発してやる。


「相も変わらず『太陽』の使い道をまるで知らぬ『愚図』め」


「ふん! 『愚図』で結構よ! その言葉、今は結構気に入ってるし」


ちらりと姿を捉えるだけで、胸が躍り出す。


やっぱり、さっきの赤いエナジーは、カナトの中の『破壊の巨獣』が…


「テリヒメ! お前、あぶねえから下がってろ…」


「カナト!! あんた、カナトなのね!!」


「俺は前からカナトだよ。頭湧いてんのか?」


「そうそう、こういう言葉を選ばない無神経な感じ。このイライラさせてくるのが、いかにもカナトって感じ」


「お前は俺をディスりに来たのか!?」


「安心したのよ、バカ」


よかった。


「意味わかんねえよ、バカ『太陽』が」


ちゃんとカナトだ。


「それに、カナトに心配されるほど弱くないんだから。オボロさんだっているんだし、大丈夫よ」


手に持った『陽光宿し』を再び握り直す。


深呼吸する。


司馬明人…全力の効かない『Lv58』の敵を、しっかり眼中に入れる。


大丈夫。


「やれるな、テリヒメ」


仮面をする意味がないくらいの美男子が私に問う。「やれるのか」ではなく、「やれるな」と言われたのが嬉しかった。


「愚問ですよ、オボロさん! 『太陽』だって、ちゃーんと強いんですから!」



△△△


「もうよい。頃合いだろう」


『光』を纏った刀。微かに触れるだけでも、『真紅』のエナジーが浄化されるように消えていく。


なのに。


「これが名刀の真髄です。あの世で永遠に悔いるといい、愚物め」


ロン毛ジジイが高く飛び、天高く掲げた刀が、とんでもない量の『光』を纏う。


何度も円を描き、作り上げた球(・)体(・)。さっきのテリヒメの『炎天焔』と同じくらい広範囲のそれが落ちてくる。


あっという間に視界が球体の『光』に覆われて…


「やべえ、死―」


「『月光閃・滅裂・五月雨切り』!」


「水無月さん!?」


『月光』が、水無月オボロが、俺の前に割り込み、渾身の奥義を放つ。


夜空を駆けるように、弱くとも鋭い『月光』が、目の前の大きな『光』を何度も切り裂く。


何百回切り裂いたか分からないほど、水無月オボロは降り注ぐ莫大な『光』を小分けにして、見事に中空へと消し去ってしまった。


「言っただろう。俺が時間を稼ぐ、と」


「嘘だろ…」


驚いたのは、俺だけじゃない。


「なんだと!? 貴様のような『月光』が、なぜ『叢雲』の『光』を凌げるのだ!?」


「…俺が…ルナの…たった一人の兄だからだ…」


俺を『光』から守って見せた水無月オボロは、膝を折り、剣を地に刺して息苦しく肩で呼吸し黙り込んだ。


全身から力が湧いてくる。


水無月オボロの奥義に感化されたんじゃない。もっと物理的で現実的な、…確かな力の実感。


「出力最大の『陽光凱歌』よ!」


一国の姫を気取るように、背後の女が高らかに笑った。


「やっちゃいなさい、カナト!」


「もたつくな、愚物よ…」


無駄にはしねえ。


「行くぜ、バケモン」


お得意の水平切りをお見舞いするために、剣を構える。


「行くぜ、俺」


足裏に溜めた渾身の『疑似成長(エナジードライブ)』で地面を蹴り、


「なっ!?」


ロン毛ジジイに一気に詰め寄る。


そして。


この一撃に、


「うおおおおおおお!!!」


俺の価値、全部を乗せる!!!



△△△



一つのものを追いかけて何が悪い!


だから私が、負けるだと!?


「ふざけるな…」


意識が…


藤井カナトの『剣』から離れられない!!


「どうして…どうしてだ!!」


『陽光凱歌』で強化されただけの、ただの水平切り。『叢雲』で容易く防いだ、素人に毛が生えた程度の一振り。


その際の、弾け飛ぶタナトの『真紅』に皮膚を掠っただけ。


掠っただけだ。


それなのに。


『逆行』を用いて、その小さな傷がふさがらないだと!?


「血が…血がぁぁぁぁ!!!!」


血が、垂れる。垂れる。垂れる。垂れる。


止まらない。


タナトのスキルの一つに、『エナジーの暴走』があるが、それは『逆行』で止められることは、1000年前に経験済みだ。

それならなおさら、あんな借り物の『真紅』で傷ついたくらい、造作もないことなのだ。


それなのに。


…それなら。


…バカな。


こ(・)れ(・)は、藤井カナトのスキルだというのか!?


あり得ない。


エナジーを受けた『叢雲』すらも、粉々に割れる。


こんな…『存在』を否定するように、台無しにしてしまうような…。


この餓鬼のスキルは、『抑圧』の類ではなかったのか!? 単にタナトを抑えるだけの器の役割ではなかったのか!?


「貴様は…貴様は何者なのだ!!!???」


「はあ…はあ…、何が言いてえ」


「とぼけるな!!」


血が…止まってくれない!


それどころか、体内に入ったエナジーが暴れる。


痛い。怖い。苦しい。辛い。


死にたくない。


「た、助けてくれ!!」


嫌だ。


「き、君の言うことを何でも聞く!! だ、だから、助けてくれ!!」


「耳を貸すな、藤井カナト。こやつのせいで何人もの人間が死んだ。街には1000を超える魔物が、こやつの指示で放たれている」


「それに、助かる方法はなさそうだし」


黙れ。


「貴様らごときが口をはさむな! 脆弱な光どもめ!! 私は、藤井カナト殿に話しているのだ!!」


ああ、早く答えてくれ!


「スキルを…スキルを解除できるだろう!? カナト君! カナト君!」


「…できる。その感覚がある」


交渉の余地がある!!


「なら…それなら!!」


「カナト! そいつは、この事件以外にも人をいっぱい…。ルナだって…」


「だから邪魔をするなと言っているのだ、『愚図』!!」


「…あんたに」


カナト君が私に問うた。


「あんたに何ができるんだ?」


ああ。


希望の光だ。


できるさ。私なら、何でも。


「何でも言ってごらん」


「司馬。貴様はこの期に及んで」


「もう限界なんだから!」


「いいんだ、テリヒメ、水無月…さん。ちょっと聞かせてくれ」


くく。


全ては、私の思い通りに動く。


生きてさえいれば勝ちなのだ。


スサノオよ。


貴様がいくら強い戦士だろうが、老いて死せば、貴様は勝負の土俵にすら立てない。時代の地層に埋もれに埋もれ、《《もう一度人類が滅びれば》》貴様を知るものなど一人もいなくなるだろう。


今回だって、生きながらえた私の勝ちだ。


「お金かい? 女かい? イージスの地位かい?」


「…ルナを」


「ん?」


「ルナを諦めてくれないか?」


「っ!!!???!!!」


何を…。


何を言っている!!!


「そ、それはでき…」


「できなかったら、あんたはここで…殺さないといけない」


「ま、待ってくれ! よく考えるんだ!」


何を言い出すんだ、この餓鬼!!


私が、私が何のためにこんなに永く生きたと思っている!


「君はイージスになりたいんだろう? 憧れのお爺様にも認められたい。『Lv1』だと差別されて、虐げられて、幼馴染とも差を付けられて、一人になって。よく考えるんだ。水無月ルナは、死なない。少し人格が変わるだけで…」


「だから、それが嫌だっつったんだよ。長生きしてるんだろ? この国の玉(ぎょく)なんだろ? なんでそんなことも分かんねえんだよ」


「どうしてだ!? 君の方こそ、どうして分かってくれない!!」


生きているじゃないか。


『月』は、ちゃんと綺麗な髪と目をしているじゃないか。


どうして…、なんでだよ…。


「あいつは、いっつもオドオドしてて、怖がりで、人の目を見て話すのが苦手で、自分の兄貴にすら遠慮して、甘いものは見てるこっちが引くくらい食べて、泣き虫で、優柔不断で、…俺はそれがいい。『月』の代わりなんていくらでもいるけど、ルナはたった一人だけなんだからよ」


同じだ。


同じ目だ。


1000年前、あの男と同じことを言っている。


『いやいや、俺はね、ヨミちゃんが『月のエレメント』とかどうとか、そんなのはどうでもよくて、あの子が『太陽』だろうが『炎』だろうが『煙』だろうが、どんなスキルでもいい。『月』の代わりはいても、あの子の代わりはいない。向こう1000年は生まれないだろうな。未来の重鎮様であるこの俺が断言してやるよ、アキヒト!』


ああ。


スサノオ。


藤井カナト。


お前たちはどこまで、私の愛を嘲笑えば気が済むのだ。


「交わりたかった…」


血が、もうなくなってくる。


視界が狭窄する。


先ほどまで浮かんでいた満月が消えている。


おぼろげにも見えない。


「ああ、黄泉様」


月は雲に隠れて、


「綺麗でした。あなたはまだ、何年経っても私の中では綺麗でした…」


また私から遠ざかるのだ。





第六章後編 月夜の抗魔大祭


—完―

これにて抗魔大祭編、完結です。


この章は作者が一番ノリノリで書きました。


中二全開で書かせてもらいました。

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