Lv76 お前なら
「よくもやってくれたわね、この汚物めが…、今度こそ完全に浄化して…な、によこれ!? 身体に力が…エナジーが…」
水無月ルナの肉体が眠りに落ちる。
橘のエナジーが消えていく。
「『月』が…、私の『月』が…!!」
やめろ。
「貴様の『月』ではない。俺の妹だ」
「黙れ!!」
よくも。
よくもやってくれたな、藤井カナト!
「タナトのいれもの! その御身から離れろ!! …退くがいい! 半端者の兄め」
水無月オボロ。
この死にぞこないめ。
「ふん、あの愚物に説得は無駄。諦めよ、司馬」
不敵に笑う『月光』。
二刀の芸当を得たところで、所詮お前は偽物。あの眩い『月』には成れんのだ!
「くっ…!」
もはや芸当とも称せぬ偽物の技を、易々と弾いて見せる。
千年生き、鍛えた私ですら届かぬ域というものがある。お前のような赤子同然の若輩がそれを目指そうなど思い上がりにも甚だしい。
現に貴様は、私に歯を立てることすらもできんだろう。
「『月光』よ。お前に手本を見せてやろう。これが『光』だ」
名刀・『叢雲』。
そのスキル・『光のエレメント』。
再び向かってくる半端者に振るってみれば、その『月光』ごときを帯びた、それもたかだか10年ほどの剣技を手でどかされた羽虫のごとく吹き飛ばす。
「これもまた、すばらしき『光』」
刀身が月夜に輝く。
諸刃の剣、という点も儚く、それも美しい。
私のスキル『逆行』は、己の肉体、そして無生物に適用できる。己の肉体に使えば永遠と効果を発揮するが、無生物に発揮すれば。
「概算して一晩、といったところか」
「何ニヤニヤしてんだこのロン毛ジジイ!」
次はお前か。藤井カナト。
「態度を改めよ。タナトがいなければ、ただのいれものに過ぎないだけの無能め」
『真紅のエナジー』の気配が途絶えている。『月』による損傷か、いれものの影響か。
「いずれにせよ…くく」
頭上の『Lv70』は完全に消失している。
『Lv1』に戻った後に、慌てて『Lv49』の仮面を纏ったというところか。
それで何ができる?
「『斬撃全振り成長』!!」
「とことん、鈍」
ぽきぽきと、愚かな水無月のごとく剣を折る。芸がない。よって、つまらない。
「タナトのいないお前に、存在価値はない。ふふ…疾く消えよ」
振り上げた『光』。
もうよい。
あの『月』のままで。
折り合いを付けねばいけない。
幼少期の橘御影のように、時間をかけて、己を1000年前の『月』の生まれ変わりだと思わせる。
それに労力を割けばよい。
なぜなら私は、生きられるのだから。
永遠に!
「まだだ! 司馬明人!」
「しつこい」
ほう。
今の剣閃を避けたか。
だが、二撃目への対処が疎かだったようだ。肩に刺さる刃先が、その確固たる証明だ。
△△△
「藤井カナトっ!!」
「っ…!」
希望。
俺はあの男に、大事な妹を雑な性根で丁重に扱うあの男に、一縷の希望を感じた。
どうしてか、『急成長』時のレベルが上がっている。以前は『Lv45』だった。
頭上の数値が、歯がゆく、もどかしい。
『Lv49』。
早く気づかぬか。
それとも、知らぬのか。
いずれにせよ、愚か者め。
だからこそ、先を駆ける俺が示さねばならぬ。
弱き『月光』を光らせ、水無月オボロという些末な肉体で、希望の灯を燃やし続けねばならない。
『あなたたちが、2人で『月』になるのよ…? 2人で、1000年前のご先祖様に負けないくらいの『月』として、みんなを守っていくのよ。大丈夫、あなたたちにならできるんだから…』
そうですよね、母様。
「『急成長』を解け! 藤井カナト!」
「…何言ってんだ!」
「できるだろう! 今の貴様なら!」
「諦めろってことかよ!」
「聞かぬか愚か者! 黙って俺の命令を…!」
…。
違う。
ルナ。
お前なら、お前なら。
「お願いだ」
きっと、こう言うだろうな。
「俺を信じてくれ。貴様が…お前だけが頼りなんだ」
「…分かった」
藤井カナトは必要な肯定だけを発し、うなずき、意図して『Lv1』に戻った。
そして。
「で! どうしたらいいんだよ? まさか手柄を横取りしようなんかじゃねえよな? お兄ちゃまぁ!? …おい、何笑ってんだ!」
思わず、笑みがこぼれてしまった。
こいつは、本気で勝つらしい。
この男と一度闘い、まるで歯が立たずに敗北しただろうに。
そうでなくても、『急成長』を使おうが、やつのレベルには到底及ばないだろうに。
「身の程知らずめ」
「全くだ。ただ、あなたを含め、ねえ?」
「貴様には言っていない。いや、貴様もルナにまとわりつく身の程知らずか」
「その減らず口を、今宵、私が終わらせよう」
司馬明人が、『叢雲』を構え直す。
俺にできることは、
凌ぐ。
それだけだ。
「もう一度スライムの核を割れ! エナジーの膨張を極限まで意識しろ! 『Lv50』に届け!」
二刀を構える。
「そして願え! タナトの力を!」
再会した『蛇』が、『龍』となっていたように。
『Lv50』を超越した男が、生まれ変わったように。
あの非現実を、実現しろ。
「それでいてお前は、お前を失うな!」
無理な頼み。…なのは承知だ。
それでも、やってもらわねば誰も救えない。
「そ、そんなの…お前、自分が何言ってんのか…」
「お前は!!」
飛来する『光』の刃を弾く。
重い。重い。重い。
どうにかして、弾き飛ばす。
言葉を終えるまでは、決して死なぬ!
「お前はイージスになるのだろう!! 藤井カナト!!」
「っ!!」
「ルナを守ると豪語したのも嘘だというのか!! お前の日常的に見せる威勢は、土壇場では発揮できぬ虚勢だったと自ら証明するのか!!」
再び『光』を受け止める。
死ぬわけにはいかない。
「るせーよ…」
藤井カナトが、
「クソったれ」
スライムの核を手に持ち、
「やってやるから、お前こそ死ぬんじゃねえぞ!」
砕いた。
「お前は生きて、俺をイージスに推薦しやがれ! 水無月オボロ! …うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
大気を揺らした青白いエナジー。
頭上の数値が、
『Lv50』。
「おいこのクソバケモン! いつまでも引きこもってねえで俺のために働きやがれ!!」
全身を取り巻く青白い、普通のエナジーが…
「…やるではないか、いれもの風情が」
『真紅』に。
そして、『真紅の剣』までもを顕現した。
「ラウンド3だ。覚悟しやがれロリコン野郎」
先刻のタナトほどのエナジーはない。
しかし、
「飛ばした『光』を切り裂くか」
「次はお前だ!」
「なめるな、若輩」
確かにこいつの全身には、うっすらと『真紅の粒子』が纏っていた。
まぎれもなく、僥倖。
藤井カナトは、自我を持ったまま『タナト』に成った。
「今の、お前なら…」
お気づきかと思いますが、オボロは嫌いな相手には『貴様』と呼びます。
今回、カナトのことをずっと『貴様』と呼び続けていましたが、ここで『お前』と呼び直したのはカナトに対する信頼が芽生えたからです。
「俺にも『お前』呼ばわりしていいんだぜ? おにいちゃま?」
「『貴様』には絶対に呼ばん」




