Lv71 ムカついてんなら
おいおい!
「陽月教のやつらは大方片付けたってのに、増援、…しかも言葉の通じねえ魔物かよ!」
しかも結構レベルがたけえ。どいつもこいつも『Lv30』以下がいねえ。
オボロの野郎、カナトやユウト、ルナも心配だが…。
「おい、ヨウジぃ!」
「…ちゃんと呼んでありますよ」
うじゃうじゃといやがる魔物どもの中。ひときわ雷の輝きを放つ虎型の魔物。一年前に捕らえた上玉。
「よっしゃあ! さっそく浴びるぜ、金雷!!」
俺みてえにかっけえ目をしやがる虎に触れる。するといつもみてえに、身体中に電流が走る。
ああ、これだよこれ。
「ぐりぁはぁぁぁぁ!! ヒャッハー!!!!」
蛇塚の野郎をいたぶった時の雷を、またこうやってシャワーみてえに浴びるんだよ!!
「ああ、キマッてきたぜおい! …畜生ども!!」
俺のくそつええスキル『スキル耐性』で支配した雷を纏いながら、
「せいぜい、命にぐっと力入れとけや!!!」
黄色の火花、全開!!
『Lv38』やら『Lv35』やらのカスども。
「ケケ、やっちゃってくだせえ! ヒビキさん!」
最高の舎弟の『磁力』で20匹まとめたそいつらを、
「気が利くじゃねえか! ああん!? クッソ弾けろや!!!」
金ピカの雷の鉄拳でぐちゃぐちゃに砕いてやった。
「ああ、ヒビキ、ああん、やっぱりあなた、最高ね」
股から下をくねくねとよじり、隣で戦う長井リサが息を乱した。
△△△
「見よ、水無月オボロ」
『月』の輪に縛り付けられた身体。エナジーの発露すらも抑制され、身体に力も入らない。
俺は、生かされた。
空けられた胴部も臓器も、折られた刀すらも、まるで初めから何事もなかったかのように元通りになっていた。
「貴様には用いなかった錫杖…『闇明かし』の輝き」
死ぬ自由すらも奪われ、
「あんなものではない。あの御身は今、タナトと闘い、次元を超える!」
ただ、見せられている。
藤井カナトの自我が化け物に奪われ、妹が完全に妹ではなくなるための闘いを強いられている光景を。
「今宵こそ、1000年の時を経て、復活し…急成長するのです!!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
カナトを内包した赤いエナジーの巨体が動き出す。
「ふふ」
ルナの顔が、卑しき優美に歪む。
『闇明かし』の先端が眼球を焼き切るほどの光を蓄え、
「『月の隔壁』」
先刻、俺の刀を砕いた以上の硬度で、『月』の障壁を生み出し、タナトの猛攻を無効にした。
ルナの身体を乗っ取った橘。頭上のレベルは、『Lv35』と本来のルナより高くなっているが。
「ははっ、驚いたかしら! 獣さん!」
それでも、『Lv70』…それもかつて、国家規模の脅威となった『破壊の巨獣』の攻撃に、『月』はヒビ一つ入らない。
ルナ。
お前はこれほどまでに、強かったのだな。
いや、薄々気づいていた。ルナが、1000年前以上の『月』を操ることに。目を背けていたんだ。俺自身のプライドのために。
守る、なんてよく言えたものだ。
これはエゴだ。
兄としての強い自分を崩したくなかったのだ。妹に忘れられたくなかった。いつまでも、『強い兄様』だと思われていたかった。
「明人さん!」
ルナを乗っ取った橘が叫ぶ。
「見ていてください! 私は必ずタナトを倒し、あの『真紅のエナジー』を吸収してあなたの好きな姿に…、あなたが求める存在になって見せます! 高次元な『月』に!」
『闇明かし』を天に掲げた。
「たとえ、私の意識が消えて別の人格になったとしても、私は、この一瞬を! あなたに捧げるのです!! この先なんてどうでもいい! 今の…今この一瞬の私がそうしたいのだから!!」
空気が揺らいだ。
「『月の神罰』!」
赤いエナジーを纏う化け物の頭上。
言葉通り、『処刑』の技。
『月の憤慨』と同様の光線が天から何度も降り注ぎ、タナトを地へ押しつぶす。
「ぐぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
赤いエナジーで形成した体躯が、削れていく。
△△△
「三日月!」
真正面。
ルナの身体が杖を操り、三日月型の光を横なぎに放つ。飛来する三日月の刃を、俺は…いや、俺の身体を包み込む『真紅のエナジー』が、その手元にまた『真紅のエナジー』で剣を形成し、三日月を斬り飛ばす。
『やめろ…化け物!!』
制御が効かない。そもそも、制御ってできるのか。
…。
うっすらと。
本当にうっすらだ。
『カナト君…ごめんなさい…ごめんなさい…』
ルナの声が聞こえる。
微かに、それは幻聴のように。
『ルナ!!』
わずかな希望だった。意味がないのに、真っ暗闇に手を伸ばす。
『カナト…くん…』
声が、俺を呼ぶ。
その瞬間、ルナの優しい顔を思い出せる。
『俺が何とかしてやる! こんな化け物引っぺがして! 絶対、俺がお前を助けだす!』
会話ができる。
通じる。
でも。
『ごめんなさい…』
ルナは拒絶した。
『私はたくさん、人を殺した』
小さな声が、明確な涙声へと変わる。
『それは、お前の意思じゃねえだろ! お前に乗り移った女が、お前を勝手に…』
『感じたんです!』
次第に、声が鮮明に聞こえる。近接戦闘をしているからか。物理的な距離が関係しているのか。
『手ごたえ…。私が人を殺した手ごたえ。あれはまぎれもなく、私の手で殺した感覚なんです。それにみんなは許してくれない。カナト君が許してくれたって、私はもう、どこにも帰れない』
『弱気なこと言ってんじゃねえ! お前は、そんなやつじゃねえ。弱そうだけど、本当は強い。だからお前は、『月』に選ばれたんじゃ…』
『勝手なこと言わないでよ!!!』
耳を切り裂くような金切り声が、俺の言い分を貫いた。
『あなたに…、私のことなんてほとんど見てくれなかったあなたに、何が分かるんですか!!』
ルナが、怒った。
怒ったところを初めて見た。
おどおどしてて、誰にでも優しいルナが、俺に怒った。
『『月』に選ばれたのが私じゃなくて兄様だったら、母様だって死ななかった。私が殺したようなものです』
知らなかった。
喉が詰まった。
『だから…だから…治療するのが怖くて…、戦闘訓練の時も、遠征の時も、文化祭の時も、『使える力』を使えなくて…違う、使わなかった。臆病な私の気持ちを優先した』
何も、知らなかった。
ルナの苦しみをなんとなく察した気になって、俺は主人公を気取るように、あいつに勇気を施したような気になって。
細部まで、知ろうとしなかった。
ルナの涙声は次第に平常へと戻る。
『だから私は、もう帰れない。私は、カナト君が思ってるような優しい人じゃない。私は、何もしたくない』
ぴしゃりと言われた。
『ルナ…』
『もう、話は終わりです』
『ルナ、待てよ。おい…なんか言えよ…』
傲慢だった。
俺が差し出した手なら、ルナは絶対に掴んでくれる。そう勝手に信じ込んでいた。見くびっていた。水無月ルナは、俺のことを大切に思っている、なんて思い上がっていた。
だよな。
そうだよな。
ルナから見た俺なんてのは、人より少し特別なスキルが使えるだけの『Lv1』。水無月家の深い事情なんてものを知らない一般人で。
今まで一緒に居続けられたのが奇跡だったんだ。
ルナは、俺のことなんて、隣のクラスなだけで、イエロースパークの一員なだけで、同じ地区に住んでいるだけで、同じ人間なだけで。
二人だけの共通点なんて、一つもなかったんだ。
「『月の審判』」
こちらに狙いを定めた。
心臓に、『月』を感じる。
「素晴らしい! もう少しだ、橘。私の思うがままの姿に成れ!」
「あぁ! 明人さんが、私を見ている。私の全身を、なめまわすように、肉欲に飢えた獣のように、私のためによだれを垂らしている…! はい! 逢瀬のままにぃ!!」
直感する。
次の攻撃は、
「『月の憤慨』」
急所への、必中。
タナトの『紅』を『月のエレメント』が突き破り、俺の筋肉やら骨やら心臓なんてものは、軽々と貫通した。
噴き出す血。
ふわりと、落ちていく身体。天へ向く目線。
「ぐぅぅぅ…」
手を伸ばす。
月が綺麗だ。
じいちゃんが言ってたな。
女の子に使ってみろ、と。
1000年以上前に、文豪か誰かが用いて、広まったらしい言葉。
好きだ、って意味らしい。
好意を直接伝えないのがセンスいいのう、とじいちゃんが笑って言っていた。いつかカナトも好きな女ができれば言ってみるといい、…なんて10歳の子供に言うことでもねえだろうけど。
『じいちゃんらしいや…』
赤いエナジーが、力を失っていく。俺の体表にへばりつく大きさにまで縮む。
ルナ。
「これで、これでこれでこれでこれで!!」
おまえ、まだいるんだろ?
「ふふ…大儀であった、橘よ」
「タナトのエナジーは私のものよ!! あっはははははははははは!!! 見ていただけましたか、明人さん!! 私は、私はこれであなたの望む『月』に!!」
「目の前でキンキンうるせえよ、うんこババア」
立ち上がる。
エナジーを拳に集めた。
「は?」
目の前の水無月ルナ。
思い切り、首を掴んだ。
「な…ぜ…」
口をパクパクと動かすルナの肉体。
「いつまでも引きこもってんじゃねえ! この甘ったれが!!」
言いたいことを言ってやる。
「さっきお前、俺がお前のこと知らねえって言ったよな?」
もちろん、『月が綺麗』なんて戯言は言ってやらねえ。
「んなもん当たり前だろうが!!」
「貴様! いま自身が何をしているか分かっているのか…ぐぁへぇ!!?」
「うっせえ黙ってろ! ロリコン野郎!」
片手でぶっ飛ばしてやった。
話を戻す。
「俺がお前のことを知らねえのは当たり前だ。だってお前、何にも教えてくれなかっただろうが!!」
そうだ。こいつは何も話してくれなかった。
「は…なれろ…」
「それで私のこと分かんないくせに、なんて偉そうにほざいてんじゃねえ! 弱そうに黙り込んでたら誰かが勝手に助けてくれるなんて大間違いなんだよ! 助かりたいなら動け! 助けてほしいなら話せ!! てめえがどうしたいのか、どうなりたいのか、どうしてほしいのか、諦めるのはそれを全部やってからの話だろうが!!!!」
翡翠色の眼に、
「みんながどうとか、俺がどうとか、そんなもん分かんねえ。お前の価値は、お前が決めろ!」
ぶつけたい言葉を全部ぶつけてやった。
首から手を放す。
来るか、反撃。
…やってやるよ。
「なんなのあなたは…」
女が杖を構える。
俺も、構える。
「藤井カナト。イージスになる男だ」
タナトが残した『真紅の剣』。少しずつ消えそうなそれを掴み、構える。
「いいわ! あなたもろとも、消し炭にしてやるんだから。あなたは、この子を傷つけられるかしら。『月の憤慨』…なにっ!?」
乱れ。
『月のエレメント』による光線は、俺…ではなく明後日の方向へと飛ぶ。
「まさか…この娘…この期に及んで抵抗を!!」
「それだ、ルナ! 俺の言葉にムカついてんなら、ちゃんとお前に戻って言い返しに来い! 言われっぱなしは気に食わねえだろ?」
作者です。
ここはマジで興奮しながら書いてました。アニメの映像が脳内再生余裕でした。
カナトお前、成長したなぁ…




