Lv69 暑苦しい
ルナを追うカナトとオボロ。
その裏で。
S地区。
逢魔岳。
山頂。
手を伸ばせば天まで届きそうな山。1000年前、タナトを封印した際の地殻変動により、平地が隆起して出来上がったと言われている。
見下ろすと、大量の黒い粒のようなもの。どうやら『軍勢』と呼べるほどの無数の魔物たちが、E地区の方角へと向かっているようだ。
引き寄せられている、と言った方が正しいか。
「ここが決戦の地、というわけか。なかなかに仰々しいのう。ただでさえ尿漏れが酷いってのに、もっと漏れそうじゃわい」
「下らぬ冗句をやめぬか、『魔物殺し』、藤井寿太郎よ」
またしても人間の姿を見せない『獅子王』が、タナト教団のローブを脱ぎ捨て、獣毛を纏う全身をさらけ出し、戦闘に備える。
「それとも、我が同胞たちを殺したことは、この山での決闘より気が軽いとでも言いたいか?」
ぐるる、と小さく喉を鳴らす。野生を感じさせるこの男。前回の挨拶でようやく思い出した。
『人間殺しの獅子王』。
抗魔戦役で魔物の中隊を率い、多くの人間を殺した、元人間。
「ふっ」
鼻で笑えてきた。
「何がおかしい? やはり我らを愚弄するか」
「違うわい」
刀を抜いた。
「たった一人の禊にしては、ちと大舞台では、と思ってな」
「…まさか自身の首を刎ねる気か?」
「そんなわけなかろう? 儂はまだ生きたいに決まっておる。いま儂が本気で自決すると思っていたのなら、お前の頭は本当に…『魔物』じゃな。かかか」
怒髪衝天。
全身の毛を逆立てた、獣の頂点に立つ獣が飛び掛かる。
剣と拳が、衝突した。
「数多くの仲間を殺した挙句、出てくる言葉がそれか!! 『魔物殺し』!!」
「お前らも、人間をバカにするし殺害してんじゃろ?」
さて。
この男を早く片付けて、カナトの面倒を見てやらんといかんのう。
ねぼすけさんよ。
…あんまり早く、目覚めてくれるなよ?
△△△
「ぐふふ、約束通り、ワタクシはこの日、ここに参りました。『太陽』様」
しつこい!
「今度はちゃんとこんがり燃やしてあげるんだから」
「そのお話なのですが」
『Lv39』のタコ男。
隣には、またしても『光のエレメント』使いの男。『Lv24』。前回とは違って樹木のやつがいないことが唯一の救いだけど、やっぱり私だけではあまりにも不利。
タコ男は、8本の足を滑らかに動かし、言った。
「あなたの御身をワタクシの体内に取り込み、共に逝きたいのです」
人間の部分が、不敵に歪む。
「ワタクシの中の消化液で、あなたを溶かしながら、あなたの『太陽』を感じたい。あなたはきっと、それに抗うためにワタクシを燃やすでしょう。それならば好都合。ワタクシはさらに消化液を分泌し、共に逝ける! 『月』が覚醒した今、『太陽』への処遇は自由になった。それこそ、僥倖! 神への冒涜を承知で、一瞬でもあなたと融合したい! あなたと一つになりたいのです!」
「無理に決まってるでしょ、変態タコ! 一方的に燃やされなさい!『陽炎』!」
放った炎。
案の定。
「俺のこと、忘れちまったってことはねえだろうな? お嬢ちゃん」
聖なる炎は、即座に形成された『光』の盾に阻まれる。
「おお! 素晴らしい! 素晴らしい!!」
触手に纏う粘液が増える。
「ようやくワタクシは正しく死ねる! この穢れた身体から解放されるのだ!!」
伸びてくる触手。
「『陽光凱歌』」
身体を強化して、間一髪、回避。
それでも、八つの手数を全て回避しきれない。
「っ!」
腕を掴まれた。
「オクトの旦那、早く決めろよ。じわじわ殺すなんてグロいこと、見てるこっちは勘弁だぜ」
「黙れオーファン。あなたはただ、見守っていればいいのです。ワタクシと『太陽』の、体内での蜜月を。蜜のように濃厚なひと時を。邪魔をするならば、まずはお前から殺す」
「だから怖えってそれ」
呑気に頭を掻く髭の男から私へと視線を戻すと、魔物化らしい強い力で一気に引き寄せられ、
「ぐふふ、さあ、こちらへ」
一本の触手から大穴を出現させた。
ルナ…。
カナト。
人が1人、入る程度の大きさの大穴へ、私の身体は…
「なっ、なんだと!?」
私を捕らえていた触手が、断ち切れた。
「だ、誰です!!? 姿を現しなさい! 今なら利き手の五指を溶かすだけで済ませましょう!」
エナジーが、いや、『風のエレメント』が流れた場所をたどる。
そこには、『Lv30』。
一年生で史上初の、30越え。
その2人の内の、女子の方。
「好きな子へのアプローチ、下手過ぎない?」
「あなたは…」
生徒会。
カナトの視線を奪っていた、彼女。
「不器用って点なら、あいつらといい勝負なんだけどね」
嵐ミツキ。
カナトの幼馴染の1人。
「助けに来ました、テリヒメ先輩」
あんまり話したことがないし、カナトなんかよりもずっと大人びているから、後輩なのに先輩みたいに緊張してしまって、
「あひゃ、ありがと」
口がうまく回らなかった。
「ああ、今のナシ!」
火照った顔に、夜の冷たい風が沁みる。
「噂の新人ですか。ぐふふ…、しかしワタクシのレベルよりも下。今の風ならば、再生も余裕で間に合う」
「ええ、そうね」
してほしくなかった、彼女の納得。
しかし。
「私は、あいつらと違って、器用で、卑怯だから」
突如、ぬっ、と大きな影が背後から私を覆った。
振り返る。
「がっははははは!!!」
そこには、3人の大男たち。
青、赤、黄。3つのチームの、それぞれの最高防御力。
「自己紹介と行こうじゃないか! まずは俺から! ブルーローズ3年、巨山ゴウタロウ! 陽月教の正教騎士・巨山豪気の弟だ! 仲違いしたが、我々は各々の正義に従って闘っている! 兄弟の縁を断ち切った、苦渋の決断だったがな! …心の強さ自慢だ! がははははは!!!」
「では次は俺がいただこう! よいな、ゴウシ…、うむ。俺はレッドフレーム2年、大剛タケシ! 赤の枠組みを守る大黒柱とは俺のことだ! 『太陽』と『妖狐』は、俺が守る!」
「ううむ、俺はイエロースパーク2年、岩城ゴウシ! 最近のマイブームは、ヒビキさんらとバードウォッチングだ! …こんな感じでよかったのか? まあいい! よろしくな!!!」
なんともまあ、暑苦しい男たちが割り込んできた。
△△△
「なんだァ? おめえはァ?」
何も考えてなさそうな顔。
何も考えてないからこそ、殺さなければならない。
この手で。
この『氷』で。
「滝本リョウ」
「…たきもと?」
「一年前…」
掌に食い込む爪。血がしたたり落ちる感覚。
「一年前、お前が殺した滝本レイジの、弟だ!!!」
許さない。
『Lv35』、に対し、相手は『Lv59』。
…。
レベル差なんて関係ない。
「『氷』カァ。…の割には暑苦しいナァ、お前」
お前が運よく兄さんを殺したように、俺がお前を、運でも何でも使って、ぶち殺す!!




