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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第六章後編 月夜の抗魔大祭
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Lv68 朧月

ふははははははは!!!


ようやく見えた!!


「大きくなったな、オボロ坊!」


相変わらず小回りの鬱陶しい剣術を全力の『轟雷薙ぎ』でぶち壊し、その仮面を破壊。


少し大人びた面を拝むことができた。


「頭部は特に肥大していない。身体の成長なら仮面をつけている状態でわかるだろう」


「そういうことじゃあないんだよな!」


相変わらずズレた男だ。ふはは。


でも、


「そんな化けの皮いつまでも付けてないで、本当のお前を見せてみろ!」


そうだ。


こいつはこんなもんじゃあない!


「貴様の矮小な物差しで俺の本質を測ろうとするな」


司祭玉様の右腕としての俺が保証する。


「俺と一緒に『月』を見守るぞ! 妹の幸せを願うならば、あれが最善だ!」


水無月ルナ。


現代の『太陽』・天王寺テリヒメとは違い、あの娘は1000年前と同じ素質を持っている。いや、下手をすればそれ以上…。


ともあれ、あれほどの器を持っているなら。そしてここで10年の研鑽を積めば、この国…いや、世界全土の魔物を絶滅できる力を持つ。司祭玉様もそう仰っていた。


「貴様が…」


オボロ坊の弱き『月光』が揺らいだ。


「貴様のような愚物が、あいつの本心を推し量るな!!」


両手に持っていた刀を、片手に持つ。


「ふはははは! 抜け!」


楽しみだ。


オボロ坊がまだレベルを授かる前。小さなこの男児が、竹刀を持つ俺に噛みつくように何度も竹刀を打ち続ける光景。岩のように固まった小さな両手のマメ。


『まだ、…まだまだたりない! おれが国を、…ルナをまもるんだ!!』


義務や使命感に燃えていた、あの眼。予期されていたはずの『月』に選ばれず、失ってしまったあの熱量が、再び蘇る。


「…言われずとも」


俺も見たことのない、型。


前情報にも無かった、新たなオボロ坊。


左手で、《《もう一つの刀》》を抜いた。


そして、その左の刀は逆手に持ち替え、


「『月光閃・双月(そうげつ)』」


すっかり大人になってしまった俺を、楽しませてくれた。



△△△



2年前。


4月。


「『月光壁(ムーンバリア)』!」


ほとんど透明な光の壁は、竹刀で容易く破壊された。『Lv1』で素質がなくても、『月のエレメント』ならば散弾銃くらいは防げる。


すぐに分かった。俺は、『月のエレメント』に選ばれなかったのだ。


「オボロ様…」


言葉を失う使用人。武道場を後にした。


「これは、申し上げにくいのですが…『月光』ですね…」


医者の診断。文明玉が開発した診断機で精密に測る前から、俺は分かっていた。俺の感覚が言っているのだから。


先祖代々から水無月家の専属である占星術師は、俺が『月』に選ばれると、生前から言っていたはずなのに。俺は『月光』だった。


「兄様」


ルナが声をかけてくる。


「…もう、俺に構うな」


背を向けて、拒絶する。


俺が、守るはずだった。


夜空を見上げる。


雲に遮られても、強い光を放ち、存在し続ける月。朧気(おぼろげ)ながらも朧月(おぼろづき)としての存在感を放つ。


朧。


俺の名前が漢字登録されれば、これになる。


邪の厚い雲に飲み込まれない強い光…『月』となり、国を守る。


病死した父親に付けられた名の由来。


それが今となっては、今見える朧月の光そのものになっているなど、皮肉だ。


その翌年、


母が何者かの毒で病死した。


「母様!! 母様!! 嫌です、母様!!」


ルナの泣き声だけが部屋に響く。


己の『治癒』スキルを持ってしても、魔物特有の病原体を消滅できずに、滑らかな皮膚は火山地帯のようにただれ、息を引き取った。


「ルナ…オボロ…」


近寄り、伸ばした手をそれぞれ取る。


「あなたたちが、2人で『月』になるのよ…? 2人で、1000年前のご先祖様に負けないくらいの『月』として、みんなを守っていくのよ。大丈夫、あなたたちにならできるんだから…」


それが最後の言葉だった。


ルナが再び泣き叫ぶ。


「…愚妹が」


お前が、お前が生まれてこなければ…『月』は俺が受け取って、『月の寵愛(ルナリザレクション)』で母様を治療できた。


お前さえ…お前さえ…。


「兄様」


泣き顔を見る。


その瞬間、心臓が悲鳴を上げた。


違う。


今のは…違うんだ!


違う。お前のことを憎んでなんかない…、お前のせいなんかじゃない…、俺が『月』を授かれなかったから…お前じゃない…お前じゃ…


でも、母様が死んだのは…


どうすればいい。


『月光』の俺は、どうあればいい。


もしも、ルナが『月』を持ったら。

その身に余る力を授かってしまったら。


憎まなければ。

憎まなければ。

憎まなければ。

憎まなければ。

憎まなければ。

憎まなければ。


…もうこれ以上、大事な家族を失わないために。


『にいさまといっしょにねたいです』

『にいさま、ほんをよんでほしいです』

『にいさま、おててにおまめがいっぱい』

『にいさま、わたしもおべんきょがんばります』


お前なんか、お前なんか…。


妹の将来。母の死因。


半端な心を殺せ。


表舞台に立つのが妹なら、俺は暗雲を潜る『朧』となれ。


「私、絶対に頑張ります。この国の『月』として…」


「黙れ」


頬を張った。驚きと痛みに震える小さな手。守りたかったか(・)弱(・)い(・)手(・)が、守るはずだったその顔に触れる。


「貴様さえ生まれてこなければ」


「オボロ様、それ以上は」


使用人の言葉を無視する。


「貴様さえいなければ、母様は生きていた。貴様が殺したも同然だ」


目論見通り、ルナは涙を流した。


そして、今年。


ルナが、『月のエレメント』を授かった。


その『月』の強度は、1000年の時を超えて、1000年前の『月』を優に超えた。


先祖の伝記が誠ならば、先代の『月』の純度を遥かに超えている。


「おめでとうございます、オボロ様。あなたの妹君(いもうとぎみ)は見事、月に選ばれたそうで」


それを知ってか知らずか、司馬明人が動き出した。理由は知らぬが、スキルで1000年の時を生き延び、『月』だけを求める見苦しい穢れ。ルナを見る目が、卑しく細まる。


「兄様…私…その…」


「これ以上、俺に関わるな愚妹。何もするな、愚妹。この家もこの国も、俺が守る。貴様のような親殺しが、国を守ろうとするな」


これでいい。


「兄様、私は…!」


「貴様のような家の恥が、必要以上に外に出るな」


これでいい。


お前は、俺が突き放す。


危険を被るのは、もう俺だけで十分だ。


お前は天上の『月』のごとく、遠くに居続けろ。臆病なまま、俺だけに命を賭けさせろ。



△△△



だからこそ、


「貴様は消さねばならんのだ、司馬明人」


「おいおい、今は俺が相手だぜ!? 失礼ってもんじゃねえのか? オボロ坊よお?」


「黙れ、木っ端」


『月光閃・双月』。


単純に、刀を2本に増やした。小刀を左手に持っただけ。手数が増えただけ。


その発想をもたらしたのは、悪友の轟ヒビキと、…藤井カナト。


あの馬鹿どものなりふり構わない姿。意地汚く勝利にしがみつく往生際の悪さ。


これを素直に、学びとは呼びたくもないし、感謝もしたくない。着想すら得たくもなかった。


でも、愚妹を守るためならば。


「恩に着る、しかないか。至極、遺憾だが」


「おうおう! さっきまでぶっ飛ばされてたお前に何ができるんだ!? オボロ坊! やれるもんならやってみ…おおっ!?」


『月光閃・滅裂(めつれつ)・五月雨切り(さみだれぎり)』


身体の負担。他の技の比ではない。


エナジーの負担。心臓を食い破られるような錯覚。


回転に次ぐ回転。連撃に次ぐ連撃。狂喜乱舞。二刀のそれは、『月光閃・九十九(つくも)』の攻撃回数を優に超える。


水無月オボロ。


切り刻め。


「お前…!」


目の前の暗雲を、


「嘘だろ…俺の大剣がそんな細い刀ごときで…!」


切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで切り刻んで。


「何度も…クソっ!」


切り刻め!!


「『轟雷・大木割り(たいぼくわり)!!!!』」


刃こぼれした『雷』の大剣を天に振り上げ、落とす。落雷のごとき一振りが直撃する…


直前。


『月光閃・朧(おぼろ)』


姿を消し…


「分かってんだよ! どうせ後ろだろ!? お前は結構分かりやすい性格してる…っ!!!?」


真正面。


『朧』の効果が切れる。


技を繋ぐように、技を撃つ。


心臓が痛い。筋肉がしびれる。息ができない。


それがどうした。


「俺も、『月』だ!」


『月』ならば、この好機(ツキ)、手放すものか。


「『月光閃・|三日月』!!』」


残りのエナジーを全て使い切り、『月光』を付与した二刀で、


「ぐぅっ!!!」


マメが岩のように硬化するまで積み上げた剣技。


大男の胴部と首に、その剣技(しょうがい)を打ち付けた。


「大きくなったな…オボロ坊」



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