Lv67 ジョーカー
「へえ、やるじゃん! 銃の女の子!」
おそらくこの、金髪のくノ一。たくさんの人を手にかけている。
「私の投げたクナイを全部撃ち落とすなんて、びっくらぽんのすけ! 青天の霹靂ですな!」
この女、身体が殺しに慣れている。
母と一緒に抗争の現場を見学しに行った時の、兵士や反社会勢力の目つきに酷似しているが、
「この才能、殺すの勿体無いよね! しかもチミ、軍玉さんの子でしょ? 司祭玉の司馬っちに並ぶ、この国の4つのタマタマの1つ、軍事の最高権力者、軍玉・大城裕子の子供、大城ユミコちゃん! スキルは、えっと、何だっけ? どうせ私より弱そうだから知らなくてもいいや」
この美人は特にやばい。
「そんな可愛らしい子の処分を司馬っち、『構わぬ』の一言で私にさせるのなかなかに酷いよね。私のことなんだと思ってるのかしら! 嫁入り前の女にさせることじゃないってのー! ぷんすかぷんすか!」
この状況においても発せられる、その殺気に反した茶目っ気が、より彼女の危険さの判断材料となる。
それにしても、オボロくんの妹ちゃんが派手に暴れたおかげで、披露するはずの武装もナシになっちゃったわ。
「これが原因で死んだら、あの世で呪い続けるわよ?兄妹」
構える。
可愛らしい子犬ちゃんの愛短剣。
これまた可愛らしい子猫ちゃんの愛小銃は腰にお留守番。
くノ一の彼女には狙撃は通じないでしょうし、何より…私の子猫ちゃんの弾丸すらも避けられそう。スキルで最大限に強化したのも、予備動作やエナジーの流れで、避けるだろう。そう思わせるだけの凄みが、彼女にはある。
だからこそ。
「すごい!」
近接戦闘を仕掛ける。全力で近接特化を演じる。
手に持ったクナイと子犬ちゃんの刃先が激突する。
「軍玉の娘さんって器用ね! 銃の腕前だけだと思ってたわ! でも意外と軽装備ねぇ」
「非力でか弱い淑女なものでね。重たい荷物は男子たちに持たせているの」
「わわ! その返しすごい! センスがある! 私も戦闘中に使いたいんだけど! パクッていい? パクッていい?」
子犬ちゃんの刃先を何度も受け流される。
「ご自由に」
どうにか一撃、腹に蹴りをお見舞いする。
が。
まるで手ごたえを感じない。
「残念でっした!」
足を命中させる直前に、反応して身体を半歩後ろに下げ、直撃を避けた。
そして、蹴りを返される。なんて身のこなし。
ただ。
ここが勝負の分かれ目ね。
今のやり取りで、《《たくさん避けた》》。《《仰々しく避けた》》。
まるで、それが、それこそが自分という存在を紹介するための得意分野のように。
オボロ君にヒビキ君、それからシアン。
あなたたちが羨ましいわ。
どれだけの勇敢さがあっても、真っ向勝負ができる才能がなければ、迅速に相手を倒せない。非力だから、どうしても、複雑にならざるを得ない。
「本当に、誇らしく憎らしい味方だわ」
一気にその場から飛びのく。
「はあっ!?」
意外だったのだろう。
枯渇するほどのエナジーを足元に爆発させた、全力の後方跳躍で、完全に相手の意表を突いた。
そして、
「いらっしゃい、愛猫」
腰にお留守番してた38口径のマグナムを抜く。
小さなころ、砂漠に行ったことがある。この国とはずっと遠くの、砂漠の国。『デューンキャット』という可愛らしい顔をした猫型の魔物が大蛇に襲われていた。
大蛇がその小さな体に襲い掛かった瞬間、可愛らしい猫の顔は、鬼のような形相へと早変わりし、大蛇を威嚇した。
その大蛇は、自らの本能を大きく揺るがし、その場から立ち去った。
小さなころから己の非力さを自覚していた私には、その光景が転機となった。
過酷な環境を生きる弱者の生存本能が、強者の余裕に強烈な一刺しをお見舞いする。
この小さくて可愛らしい子猫ちゃんは、いつか見たあの砂漠の子猫のように、大いなる天敵へと牙を剝く。
「ごめんなさいね、金髪の婦人さん。私のスキルはね…」
我ながら演技派。
銃口に、最大出力の『弾道強化』を注ぐ。目の前の素直な彼女《》にはずっと、近接戦闘で回避や防御特化のスキルだと思わせ、上手くそう思い込んでくれた。
運命の一撃。
その運命が、彼女の心臓を打ち砕…
その目に赤が映る、はずだった。
「すっご…」
くノ一は、身をひるがえし、避けた。
「ごめんね! 私も嘘つきなの! 知らないフリしちゃった」
渾身の弾丸は、掠りもしなかった。
「あなたの情報もちゃーんと陽月教に回ってるから! 有名人の娘さん!」
前進する、くノ一。先ほど、全力で後退した私の比ではない、超速の一歩。
「さくらおねーさんのー、ニンジャ~、スーパーキーック!!」
頭を守る私の膝の皿に、まるで巨砲のような衝撃。
と、共に、焼き切れるような激痛が脳に伝達される。
「おっひょー決まった! …喘がないんだ? チミは我慢強いのね」
右足を、完全に潰された。
激突した尻と、汗の噴き出る首元にひんやりと、秋の冷たさが沁みる。
「あ! さっきの『嘘つき』のとこ、ジョーカーっていえばよかった!! やり直させて、ね? いいでしょ? 私もジョーカーだったんだー! どう? かっこいい? 答えてくれないと、殺しちゃうよ? …まあ、答えなくても殺しちゃうんだけどね! 命令だからね、ごめんね!」
クナイを持っていない左手に、緑色の液体が入った瓶。
「これ見ると、串カツ食べたくなるんだよね! ソースをべたーって漬け込んでさ!」
瓶に刃先を漬け込む。
「二度漬けはしないわ、なんてね!」
「ふふ…お上手ね」
「本当!? やったー! じゃあ、安心してね? チミが死んでも、私がこの言い回しをいっぱい使って流行にしてあげるから、この即死の毒で、安らかに、お・ね・む・り」
死神のように笑う彼女。
その真横。
私が放つ弾丸よりもずっと速い、音速のような速さで何かが…いや、誰かが急接近した。
「っええええええ!!!? そこのチミ、速くなーい!!??」
「無事ですか? 大城副会長」
その双剣は、クナイを宙に弾いた。
「あら、あなたは…、ええと」
滝本君と同じ一年生で、彼と同じ美男。
「イエロースパーク1年、上杉ユウトです。僕自身、薄い影ですが、ここで結果を出して有名になれることを願います」
美男は、風に吹かれる綿のように、さわやかに、あるいは儚げにその歯を見せつけた。
「へえ! 言ってくれるじゃない! かけっこならお姉さんだって負けっこないもんだ! あなたも例外なく内臓ぜーんぶぐずぐずにして殺しちゃうんだから! 覚悟しなさい! プンプン!」




