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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第六章後編 月夜の抗魔大祭
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66/128

Lv66 趣深い

「邪魔をするか、司馬明人」


忌々しいこの男。やはりこいつは、ルナを愛してなどいなかった。『月』としての髪色と目の色のみを求めていた。それを見抜いていながら、俺は何もしなかった。ルナが本気でこの男を愛していると思ってしまった。藤井カナトの心が『太陽』に傾いた気休めになると、勝手に妄想を膨らませた。それが今回の騒動を招いた。


「あなたが嫌悪する愚妹殿は、『司祭玉様』と呼んでくれるのですが、お兄様の方はどうやら礼儀も知らぬのですな」


だからこそ、この始末は俺がつける。この男を殺し、愚妹…ルナを救い出す。


「『月』の彼女とは違い、『月光』のあなたはその半端なスキル同様、頭脳も薄弱らしい」


「ならばこの薄弱で貴様の喉を切り開いて見せよう。『月光閃・湖月(こげつ)』…っ!?」


抜刀の斬撃に、金髪の女が割り込んだ。


「疾風迅雷! ニンニン! ってご先祖様はあんまり言わなかったらしいけど、可愛いから使ってる!」


こいつは確か、陽月教の忍。その『Lv18』にそぐわぬ速度、身のこなし。Z地区出身の師範や彼の姉御と同じ、身体能力と『気』が常人離れしている。


「司馬ちゃんは殺させないよん! ねっ、ゴーキちゃん」


「その呼び名をやめんか。…『轟雷薙(ごうらいな)ぎ』」


2メートルはある大男が大剣に高出力の『雷』を纏い、俺を目掛け横なぎに払う。


「『月光閃・三日月(みかづき)』」


あの圧力と重量。まともに受けては刀が折れる。いなすように月の弧を描き、受け流す。


頭上の『Lv48』。


「腕を上げたではないか、オボロ坊」


「その呼び名を止めよ、単細胞」


「はは、水臭いことを言うな、弟分よ」


こちらにとっては至極気味の悪い認識を向ける大男。


巨山豪気(きょざんごうき)。


複雑な思考が苦手で、他人への配慮も欠ける、俺が最も嫌う人種。


その大男のスキルは『雷のエレメント』。それを大剣に纏った戦闘スタイルは、その単純な思考を体現している。


しかし、それゆえに…。


「何か言ったらどうだ! 相変わらず冷たい男め! はは!」


分かりやすい強さ。


一般大衆にも伝わる驚異。


「貴様と話し合うことなど一言もない。疾く、消えよ」


司馬明人を守る最強の武官として君臨する、まさしく豪傑。


「消えてくれるといいなぁ! おぉん!」


大剣が、轟雷を纏い、襲い掛かる。


「さくら! お前は手え出すんじゃねえぞ!? こいつとは男同士の決着を付けねばならんのだ!」


「あーあ、剣を握るといつもこうなんだから、このデカブツ。逆らったら殺されちゃいそうだし…、私は司馬っちと一緒にお月様を迎えに行っちゃうよん」


「勝手に話を進めるな。『月光閃』…」


「だからお前の相手はこの俺だっつってんだ! 俺と向き合えオボロ坊!」


司馬へと進む道に立ちはだかる。伊達に『雷のエレメント』を研鑽していない。剛腕かつ瞬足。だからこそ、この男は司馬の右腕なのだと改めて思い知る。


ならば…。


「よかろう」


真正面から受けて立つ。


「まずは貴様の命から終わらせてやる」


刀を構える。


「『月光閃・名月(めいげつ)』」


刀身を、『月光』で強化する。


「へん! それでこそ俺の弟分だ! 早く陽月教に組しろ! 俺色に染め上げてやる! 贔屓(ひいき)に贔屓を重ねてお前をイイ男にしてやる!!」


「そんなものは微塵も要らん。暑苦しい」


待っていろ、ルナ。


速やかに敵を屠り、お前に長々と叱咤する。


それが、兄である俺の務めだ。



△△△



ほう。


見上げた夜空。


「なんという跳躍」


優美な満月に割り込む一つの影。


先ほどの衝撃といい、このすさまじい再生力。


「ルナぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


枯渇しているはずのエナジーは、まるで完全な休息を経たような活力にあふれている。


「初めましてだね。いや、久しぶり、といった方が正しいだろうか」


目の前の、一時的な『Lv42』の少年に笑いかけてみる。『月』以外でただ一つ、強いて興味があるとするならば、この少年。


「お前みたいなやつは知らねえ」


タナトと繋がりのある少年。


藤井カナト。


「これは失礼。私自身、長生きしているものだから、知人が多くてね」


「知り合いが多い自慢か? どこぞの生徒会長みたいで気色悪いからやめろよ、ロン毛男」


「ふふ、オボロ殿はそのような御仁ではないでしょうに。申し遅れました。私は司馬明人。僭越ながら、陽月教の最高司祭にしてこの国の司祭玉を担っております」


「マジかよ…」


権威を示すと、少年は少し怯んだような顔を見せた。


しかし、すぐに腰の短刀を抜き、


「ルナを、どうするつもりだ」


単刀直入に、私へと問う。


「あんたは、司祭玉ってことは…その、ルナの婚約者なんだろ?」


たどたどしく、少年らしく落ち着きなく目線が泳ぐ。


しかし。


その目は確かに、猟奇を含んでいる。


その猟奇は、次の私が発する言葉で単純な殺意へと変貌するだろう。


「水無月ルナは殺すことにしました。要らないので」


案の定。


「いま、なんつった?」


見る見るうちに、その目つきは変わる。


今のこの惨事たちを見れば、すぐに話が入ってくるだろう。彼のような知性の足りない子供でも、信憑性のある言葉になる。


「いいでしょう。補足も加えてもう一度。彼女を、水無月ルナを殺すことにしました。肉体はそのままにし、中身の魂だけを抜き出し、消滅させる」


「何、ふざけたこと言ってんだ…」


「荒唐無稽、でしょうか? しかし、実現の見込みがあると、私は知っている。橘御影…私の従者のスキルが実現する。…そうそう、あやつには『褒美』を与える約束だったかな。口元を整えねば。面白くなってきましたな」


「…らないんだよ…」


エナジーが荒く揺れる。


「つまらないんだよ!!!!」


弱き者の激怒ほど、滑稽なものはない。


「もっとマシな冗談持ってこい!」


「…やや、趣深い」


足元のエナジーを爆発させ、急加速を見せる。


恐るべき瞬発力。


もう少し鍛錬を積めば、レベルが上がれば、『魔物殺し』の藤井寿太郎に並ぶかもしれない。


しかし…。


「なっ!?」


「なるほど」


脚力だけを重点的に、莫大なエナジーを注いだというわけか。


「どうりで、貧弱」


短刀を振るう割には遅すぎる腕の動き。


「『急成長』の最中には、エナジーの配分箇所を即座には変えられない。スピード型から腕力特化型にはできない、か。」


「なんで、俺のスキルを…」


そのエナジーの満足に行き届いていない腹に、我が拳をねじ込む。


『彼』との約束通り、殺しはしない。


「君はま(・)た(・)、守れないね」


息が詰まり、瞼が閉まっていく少年の卒倒を受け止め、


「日南」


「あいあいさー!」


察しのいい忍にその身を託した。



△△△



『結局、あなたの王子さまは何もできなかったわね』


真っ暗な世界。


月明かりも届かない暗闇。自分の姿すらも知覚できない闇の中で、唯一聞こえる、声。


『無力で、弱くて…まるであなたのよう』


黙って。


『黙らないわ? だって…』


秋の夜風のように、透き通る声は言った。


『私は、あなた以上に『月』を知っているのだから。1000年前から、ね?』



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