Lv65 原点回帰
リョウのやつ。あのやばそうなブーメランを素手で。
「ねえねえ、木こりごっこはもう終わりかな?」
『急成長』が終わる。レベルが1に戻る。
「ああ、くそったれ!」
見上げた空には、月が浮かんでいる。
まだ届かねえか。
近づいてたと思ったのによ。
「もうおしまいだ」
「そうだね。ようやく分かったかい? 僕がお前よりも強いってことが」
「ちげえよ、バカ」
スライムの核を構える。
「はあ?」
ああ、この。
クソ雑魚メンタルが。
最初からこうすればよかったじゃねえか。
『急成長』終了後のインターバル。
それは、俺が勝手に決めていたことだ。
疲れて、肺が破れるくらいきついから、勝手に制限してた。
ああ、クソ弱い。
続けて使えばいいだけじゃねえか。
△△△
「隙だらけだ、たわけ者」
2週間前。
仮面野郎との模擬戦闘。
ホログラムの世界とはいえ、容赦なくその仮想の体を99回の突きで切り刻まれた。
「貴様は、自信を持った技が通用しないと分かった途端、守りに入る。おそらくはその、『可変成長』とやらを覚えてレベルを調整し始めてからの悪癖だろう。身に着けた賢さが、貴様が持っていたはずの傲慢さを損ねている」
現実に戻ると開口一番、いつものダメ出し。
「持ち合わせろ。新たな力と従来の力を。弱者の自覚を持ち、器用に動け」
「ふん。偉そうに説教しやがって、いだっ!」
頭に現実的な痛みが走る。
「今もだ、どうしてやり返さない?」
「どうせ避けるだろ、お前は…あっ」
「気づいたようだな、愚物」
「もう一回だ、次はとっておきの新スタイルをお見舞いしてやるからな! せいぜい仮面の奥の顔まで潰されねえように怯えてろ! おせっかいな兄弟子様ぁ!」
△△△
「『魔術師型成長』!」
曲剣を鞘に納めて、それを相手に構える。
『Lv42』。
エナジーを、ありったけのエナジーを先端に。
簡単に捨てるな。
小さな可能性を。
振り分けるパラメーターは、エナジー出力のみ。
中途半端が、一番最悪。
思い出せ。
初めての対人戦闘。レベル差の開いた増田アキフミ。
初めての演習。リョウもミツキも勝てなかった大きなカエル。
盤上をひっくり返した、あの一撃を。
何度でも変えられる身の丈。
それでも変えるな、俺の芯。
原点回帰。
最弱の一撃。
成長こそが、俺の必殺。
「はあ? まさか、エナジーを飛ばそうとしてるわけ? わっかりやす」
「ご名答だ、バカ野郎」
「バカはお前な?」
馬鹿正直に溜めるエナジーを、せせら笑う敵。
「エレメント使いでもない無属性のエナジー。『弾道強化』等のスキルを使って強くするわけでもない、ただのエナジーの出力なんて微妙でしょ。粒子系のスキルで、いくらレベルが高くても威力がお粗末なことくらい誰でも…なんだこの…圧力は!?」
ああ、そうだよ。
これだよ。
昔からずっと。
俺のことなめ腐ってるやつを、こんな風にビビらせるのが好きだったんだ。
「その木刀が壊れねえなら、それ以外をぶっ壊してやりゃあいいだろうがよぉぉ!!!」
「なめるなよ…! 『即成長・世界樹』!!!」
大技の気配とともに、相手の樹木が一つに合体。大気中、そして地面から吸い上げたようなエナジーがねじれた巨木の先端に圧縮されていく。
「これで終わりにしてやる。藤井カナト」
いいじゃねえか。
…酔って来た。
全力で向かい打ってくるやつを、全力で打ち破ろうとする俺に。
『成長』という共通点を持った同じスキルで、こいつを勝手にライバル視しちまう。だがそれも、気分がいい。
やってやろうじゃねえか。
こいつレベルを超えられなくて、何がイージスだよ。
『疑似成長』。
瞬発的なパワーも使う。あとの反動なんて知るか。
勝つのは俺だ。
最大出力。
「いっけええええええええええええええ!!!!!!」
訓練通りの、音を置き去りにする太いエナジーの光線。
仮想世界上の水無月オボロをも消し去り、初めて一本取った、俺の一撃。
対するは、巨木から放たれた巨大なエナジー。
それが衝突し…。
△△△
「余計なおせっかいなんだよ、クソ野郎」
目を覚ますと、不快にもオーファンの髭づらが見えた。
「すげえ技だったな、ツリー」
「うるさい」
エナジーどうしが衝突した瞬間、負けを確信した。
隣からオーファンの『光』が割って入ってこなければ、僕は死んでいた。
「くそ…」
無傷で、エナジーが枯渇しただけの徒労。全力を出し切っただけに、怒りすらも湧いてこない。
意味わかんないだろ、あんな圧力。あいつ本当に、タナトの…。
完敗だった。
「何分経ってる? 藤井カナトは?」
「…あれから15分。お前らが派手に暴れたせいで、各々の闘う場所が変わっちまったよ。藤井カナトの坊主は少し休んで、水無月ルナを取り戻すために走り出した」
「聞きたくなかった」
なんであれだけ出して、元気なんだよ。
「文化祭の時より回復が早くなってるな、あの坊主。まあ、お前も回復は早い方だから、ほぼ互角ってことか」
「そんな気休め要らないし」
「ま、無傷で生きてるわけだし、これからも時間を重ねて強くなればいいじゃねえか、キノミ。お前はまだ、若いんだからよ」
「うっさい、その名前で呼ぶな。…頭をなでるな、子ども扱いすんな…」
目に水がたまる。息が苦しい。
林野キノミ。
親からもらったその名前は捨てた。
『強くなりたいのなら、一度捨てるしかないな。君が見る世界を全て。タナトがそうしたようにな』
僕よりも強いボスが、そう言ったから。
…。
ボスも、龍も、獅子王も、蒼い雷撃も、『太陽』も、『月』も、『急成長』も。
強さだけを求めて死ぬほど努力した僕を笑うように、本当に強い人間は僕よりもずっと強かった。このまま研鑽を重ねるだけで、いつかはそれらを超えられると、本気で思ってしまった。
弱いやつらに復讐を成し遂げた経験だけで、僕は何者かになれると思ってしまっていた。微弱な成功体験が過信を生み、努力の質を下げてしまった。
「悔しい…悔しい…」
「終わったらメシでも食おうぜ」
肩に手を置かれる。役立たずのおっさんのくせに、どこまでも僕をガキ扱いしやがって。
「ステーキハウス。E地区の繁華街で一番高いやつ」
「おっさんの財布をなんだと思ってんだ?」
「うるさい、言うこと聞けよ、僕なんかより大人なんだろ?」
次は、負けない。
ツリーのスキル『即成長』は、コスパ最強のスキルです。
無から植物を生み出すわけでなく、元あるものを成長させるだけなので、エナジーのコストがかなり低いです。
『神木刀』も『世界樹』も大技ながらに連発可能。今回の戦闘も、気絶してなかったらツリーが勝ってました。




