Lv64 俺が、全部消さなきゃな
弱い人間の言うことなんか、誰も聞いてくれなかった。
「またお前か、林野」
中庭の花。散らされた花弁。ちぎられた茎。ぶちまけられた土。
「違うんです先生!」
僕は、植物が好きだった。鳴き声もなく、動き回ることもないのに、存在感があって、綺麗で、神秘的だから。
植物が好きな僕がこんなことをするはずない、なんて言い分も先生は分かってくれない。
「どう違うんだ?」
「それは…」
3人のクラスメートと、遠くで目が合う。
言ったらどうなるか分かるよな。
僕よりもずっと力の強いやつらが、そんな目をしていた。
勉強を頑張っただけなのに、目を付けられ、身体の暴力、精神の暴力を受け続けた。自分たちの悪事を、すべて僕のせいにして、そのせいで先生からも女子からも嫌われた。
中学に行きたくない。
暴力だけが取り柄のあいつらにレベリングなんて加わったら、…想像したくもなかった。
でも、神様はいつだって僕の味方だった。
僕を、強くしてくれた。
『即成長』。
あいつらが宿した『炎のエレメント』、『筋力強化』、『防護壁』なんか、意にも介さない。
「な、た、頼むよ、林野」
圧倒的な樹木の再生が、小さな『炎』を埋め尽くす。
「今まで悪かったよ!」
『強化』された肉体を、成長させた蔦で締め上げる。
「お、俺たちは、お前のことが羨ましかったんだよ、な?」
『防護壁』は、小枝を『即成長』した樹木の槍で簡単に貫いた。
「お、大人になれよ、林野…こんな子供みたいなことやめようぜ…」
うるさい…。
僕が強くなった途端にこれか。
「お前らが言うなよ!!」
そいつらの腕と足を縛り上げ、そのまま関節を、
「「「あああああああ!!!!!」」」
締め上げて、へし折った。
その日は、その足で、かつての地獄へと向かった。
分かってたくせに、僕を助けず、むしろ叱り続けた小学校の教師も同じように、
「ひっ、誰だお前!? な、なんで俺が…うぁぁぁぁぁぁ!!!!」
捻じ曲げてやった。
僕は、強くなった。
僕は、強いんだ。
もう、弱いのは嫌だ。
△△△
「カナト…」
あいつの方を見やる。
森が暴れるように、大木の群れがあいつを襲う。斬撃に特化したスタイルで凌いではいるものの、ジリ貧だ。次第に負けに向かっている。
「おいおい、余所見なんて余裕じゃんかよ、噂の滝本くん!」
くの字の投擲具、金属のブーメランが死角から突然現れる。
「やるじゃねえか、ゴールデンルーキー」
剣で弾くと、そのブーメランは生き物のように持ち主の手に戻る。
「目つきは悪役みたいに鋭く冷酷だ。おまけに『Lv35』。剣術もエナジー操作も『剣士隊』レベル。これで中一って、何かの冗談だろ」
赤いバンダナをした男が、おかしなものを見るように俺を笑う。
「そういうあんたは、陽月教の人間だよな? 『Lv32』と高レベル。…どうして止めない? 抗魔、そして人類の生存。これが陽月教の理念だろ?」
遠くに見える水無月ルナが、普段とは異なる嬌声を高らかに上げて、『月』を振りかざす。さっきまで『Lv15』だった少女の頭上は、『Lv35』に変わっている。
「いいんだよ、あれで」
バンダナを触りながら、自分たちは間違っていないと確認するように笑った。
「司祭玉様が望んでいるからな。『月』との交わり。1000年の祈願が果たされたなら、あの人は仕事一筋になるだろ。そしたら俺たちの望みを叶えてくれる。例えば、俺にはイイ女とイイ物件をただでくれるってな」
男は憶測のような軽さで、この国の命運を語る。
「はは、つーか開祖して1000年経ってんだから、もう抗魔だの人類の生存だの、当初の純粋な理念なんて遵守してるやつ、あんまりいねえだろ。国を守れるの、俺ら以外にもいっぱいいるし」
けらけらと、笑う男。
握りしめた剣の柄を、そのまま握り潰してしまいそうだった。
この場一帯を、危うく凍結させてしまいそうだった。
殺意を自覚する。
許してはならない。
この軽薄な男も、司祭玉も、タナト教団も。
こいつらは、己のためだけに動いている。
人のために生きて、人のために闘った兄さんの死体を、平気な顔をして踏み歩く。
兄さんは、こんなやつらのために死んだのか。
蛇塚ウロコのように、他人の事情や都合など、平気で無視するゴミクズどものために…
それならもう、俺が。
「俺が、全部消さなきゃな」
レベルなんてものも、レベルを上げる魔物も、それを利用して他人を傷つけるゴミクズも。
「斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬りまくって」
「おいおい、なんだ? 急に狂いやがって…まあいいや、天才なりの狂気ってことね。じゃあ、そろそろ本気出すぜ!」
投擲したブーメランに付与した『炎』が、熱風を生みだす。
「ぬるい」
「はあ!? こいつ、素手で…」
「弱いんだよ、思想が。小さいんだよ、理想のスケールが」
だから、実力もこの程度なんだろ?
「お遊びは、もう終わりか?」
冷気で熱を完全に殺し、そのまま掴んだ玩具を、相手に返してやる。
「な、なめんなよ、ガキ!!」
さっきと同じ。
死角から、つまらない熱風がつまらない圧力を纏って飛んでくる。
「『断罪氷牙』」
剣に『氷』を付与し、この『く』の字のガラクタを斬り捨てた。
「なっ…て、てめえ!!」
「己の愉悦のために力を求めるから、ろくな成長をしなかった。お前が歩んできた人生は、その程度だった」
「お前に何がわかる!! …くっ、足が…」
『氷』で、手足を張り付けにする。
「甘いんだよ。隙だらけなんだよ。お前の魂も、思想も、思考も、意志も、望みも、矜持も、全部」
「く、くるな!! やめてくれ、俺はまだ、死にたく…!」
死に際までつまらない男だ。
切り落とした首すらも、生前みたいに意地汚く、俺の足元に転がり込んできた。




