Lv60 若き才能たち
「へっ、やるじゃねえか、おっさん」
藤井カナト。
『Lv1』のくせに自信を纏う、癖のある茶髪の少年は、こちらの素性を知らない、率直な笑みで俺の『光』を評価した。
「スキルがすごいだけだよ。身体はヘロヘロのおっさんだ」
謙遜でも何でもない。軽い『光』を使っただけで、全身に泥のような疲労がのしかかる。
「それが羨ましいって言ってんだ。嫌味っぽい謙遜しやがってよ」
そして初対面のはずの大人を睨みつけてくる。ふてぶてしいこの態度、どこかで…
「なんで僕の方を見るんだよ?」
まつ毛の多い、中学生の女の子と言っても疑われないような顔が、10以上歳上の俺を睨んだ。
だが、そんな生意気なガキンチョたちとは別のストレスが、胸にのしかかる。
「ご協力、感謝いたします。あなたは…」
水無月オボロ。
最も恐るべき危険人物。
俺たちの求めるものが、この男の庇護下にいる、ってわけね。難易度上がってんじゃねえか。
「先月より『陽月教』に派遣された傭兵です。あなたは、知る人ぞ知る『月光』の剣士様と見た」
バレねえようにしねえとな、下手な芝居したら今ここで首を落とされかねねえ。
「ご存じいただき光栄です。若輩ながら、我が国と『月』を守らせて頂いてます」
礼儀正しいな。
それゆえに、緊張感が走る。
「無駄に知名度高くてムカつくなお前」
藤井カナトが、次は仮面の少年を睨み、そして俺に向き直る。
「おっさん、あんたも凄え力持ってんだから、もっと自信持った方がいいぜ?」
自信。
その言葉は、俺を突き刺すには十分すぎる。
「俺の夢はイージスになることだからな。あんたみたいな凄え才能押しのけて、俺が1番になってやるから、それまで生きてろよな」
やめてくれ。
『俺が、お前だったらなぁ』
病室の外。
かつて、『仲間』だった男の悲痛の声。
「いてっ! 急に叩くな!」
「藤井カナト、貴様はあまりにも不躾なものだから、共に歩く俺の品位までも下げてしまう。その躾だ」
「じゃあ共に歩いてんじゃねえ! そもそも頼んでねえし。おい、無視すんなや!」
俺たちに頭を下げて歩き始めた水無月オボロに怒声を飛ばし続ける藤井カナト。
「ふん、あいつガキだな。タナトに理性食われてんじゃないの?」
「あんまり変わんないと思うぞ?」
「なんだと!!!」
若者は元気でいいよな。
どいつもこいつも、目をキラキラさせやがる。
「言っとくけど僕の方が藤井カナトよりも、パニッシュのクソガキよりも強いんだからな!」
「文化祭以降、修行したんだよな?」
「そうだよ! み、見てたのか!?」
「お前は意志が強いから、きっと大成するよ」
「そ、そうかな…」
怒りで赤面していた顔は、次第に照れの赤に変わった。
羨ましいくらい、ガキンチョだな。
その向上心、30越えたおっさんにも分けてくれよな。
つっても、俺みたいなクズが持っていい感情じゃねえな。
自分の嫁を殺したクズが、自由に夢見ていいわけねえんだ。
△△△
「おや、誰かと思えば、日照時の祈祷を『月』に丸投げした『愚図』ではありませんか」
顔を出すんじゃなかった。
司馬明人の顔が、ゲロを嗅ぐように歪みに歪む。祈祷をすっぽかした怒りか、落胆に落胆を重ねた『太陽』への嘲りか、いずれにせよ向けられた相手を蔑ろにすることには間違いない顔の動きだった。
レッドフレームや生徒会のみんなと一緒にいれば、こいつに何を言われても平気だと思ったのに。
「アタチの後輩に、これまた随分な言葉かの。何年経ってもお変わりのない司祭玉様」
ヨウコ先輩が援護してくれるが…
「『妖狐』の分際で人間の話に割り込むでない。貴様こそ、幾年経っても人間の肉体に居座る卑しき生物の有様で、よくもこの私を愚弄できたものだな」
「お前もアタチのことを愚弄しているかの。この若作りジジイめ。『月』の娘と婚姻関係になれるのがよほど嬉しいのだな」
「黙るがいい。『最古』という一点だけで『龍』や『タナト』、『麒麟』や『神鳥』に並んだだけの弱き生物め」
「それは人の世が勝手に認定しただけかの。アタチから謳ってるわけじゃないかの」
火に油を注ぐみたいに、司馬の目つきに殺意が混ざる。ヨウコ先輩も同様、司馬の言葉がお気に召さなかったようで、こいつに対抗するように目を細める。
「まあよい」
話題を切り替えたのは司馬の方からだった。
「A地区の生徒様方に護衛いただけることを感謝いたしましょう。なにせ世間は物騒ですから。噂の『タナト教団』も解散していないようですし」
司祭玉である自分の命もきっと狙われるだろうに、まったく緊張感のない司馬。『Lv58』の数字が自信を持たせるのだろうか。
「私とルナ様の正式な儀式と、…麗しき初夜の交わりに水を差さなければ、他はどうなっても構わない」
「職務放棄かの。ルナを手に入れれば失踪でも?」
「もちろん、公的な責務は全うしますとも。あの月光色の髪と翡翠の瞳の輝きさえ手に入れれば」
「人格はどうでもいいみたいにいうのね…」
小さくこぼした言葉を、「愚図め」と拾われる。
「あのような右も左も分からぬ、己の考えも満足に持てぬ娘を好むわけがなかろう。求めるのは、あの御姿のみ。『月』と同じ髪、同じ瞳。1000年待ち焦がれ、ようやく交われるのだから」
気味が悪い。
この顔を見て浮かんだ言葉は、ただそれだけだった。
ルナ。
本当にいいの?
政略結婚、と言えば少しは聞こえはいいけど、こんなやつと一緒になるなんて…。
バックレちゃえばいいのに。
「では、本日はよろしく頼みますよ? エリート地区の若き才能たち」




