↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第五章 それは突如、始まった
PR
51/128

Lv51 深淵

『青』のリーダー・海崎シアン。彼女のスキルこそ、彼女が学内最強チームのリーダーたる所以。

『神器』・『海神の魔槍(トリアイナ)』。


遥か昔、西洋の国に存在していた海神が持っていたとされる三叉槍。『最古の生物』の一体、破壊の巨獣・『タナト』に殺される前に、海神はその槍に己のスキルとエナジーの一部を注いだといわれる。


常人が持てば、その槍に理性を破壊され廃人と化すが、この娘は…


「ほらほらお二人さん、ボーとしてると殺しちゃうよ?」


「調子に乗るなよ! 『即成長(アーリーグロース)!!』


その『神器』を我が物顔で振り回す。ツリーが、投げた種たちを一瞬で強化ワイヤーのような硬度の蔦にし、捕縛しようとするも、あっさりと『神器』で切り落とされる。蜘蛛の巣を手で掻き分ける幼児のような気軽さで、ツリーの全力を軽んじる。


多少、抑揚がハイになっているだけで、それ以外は何の影響もない。


スキルか。


この槍を手元に顕現し、使いこなすためだけのスキル。


妖刀や宝剣、『陽光宿し』などの『神器』は、特定の『スキル』がなければ使いこなせない。


なんという不運。


『太陽』の再会に転じ、このような災厄を呼び寄せることになるとは…。


ワタクシのような半端な『章魚(タコ)化』とは違う。


この娘は、まるで『妖狐』の生き写しが『妖狐』の炎を操るかの如く、自由にその三叉槍を振るい…。


「…ああ、血が、血がぁぁぁぁ!!!」


貫かれたツリーの肩。


「お前! こんなことをして樹の檻の人質がどうなっても…うぁぁぁぁぁ!!」


「脅すなら、きちんと脅しなさい。ちびっこ」


肩を貫いた槍を上下左右にねじり、悲痛の叫び声を楽しむサディスト。


「助けて、タコ!! 助けてよ!!! …お母さん…」


敵前で涙を流し助けを乞う愚か者をよそに、本当の地獄はこれからであることを悟る。


伝承が誠ならば…。


「『八足超再生(はっそくちょうさせい)』!!!」


だからこそ、先手を打つ!


激痛をこらえ、切断された足を超速で生やす。


息を吸う。


「『八道・深淵染め《オクトパス・トゥアビス》』!」


体内の墨。常人相手ならば目くらましで吐き出すそれを、タコ足のエナジーに還元し、基礎の身体能力を一時的に底上げする。


それだけではない。


深海のように黒く染まる足は、少しでも触れれば墨を付着し、相手のエナジー出力を乱す。


凡人だったワタクシが生きるための奥義。


ワタクシの死に場所は、深淵(ここ)ではない。


もっと浅く。


太陽の光が届く、浅き水面下。


水を掻け。


上に。


『おい、タコ』

『泳げよ、タコだろ?』

『気持ち悪い』


上に。


『粉まみれだ、えい、タコ焼き!』

『ちょっと八谷(はちや)くん。粘液着いたんだけど』

『うわ、きっしょ』


上に。


『クズが! お前のおかげでうちの家は…!』

『あんたなんて産まなきゃよかった…!』

『おいあんた! あいつ溺れてたのになんで助けてくれなかったんだよ!』


上に。


こんな暗澹たる深淵を抱えたまま死するなど、許されんのだ!!!


「『八道・太陽求愛《オクトパス・トゥヘリオ》!」


さらに、黒く染まった足に粘液を混ぜ、虹色に変色させる。触れた瞬間に、エナジーを蝕み、やがて皮膚を溶かす。『太陽』の光のごとく、敵の身を消し去る奥義。


女の方へと伸ばす。一滴だけでいい。あの悪魔のような女へと触手を伸ばし、粘液を付着させれば勝機はある。


伸ばした触手。


「紙一重…だったな」


邪悪と形容するにふさわしい笑み。


『タナト教団』に入り、文字通り血反吐を吐き続けた毎日を送った地獄を、その横なぎがあっさりと否定した。弾いた粘液の飛沫は、三叉槍が持つ強力な『水のエレメント』で防がれる。放った奥義は、一矢も報えぬ結果と化した。


「このまま勝ってしまうのは悪いから、説明してあげよう」


慈悲ではない。ワタクシを簡単に絶命の深淵に落とさない。この恐怖をさらに具体化するための説明。無慈悲。


「お察しの通り、私のスキルは『武器適正・海神の魔槍(トリアイナ)』。その名の通り、海神様の『神器』を使えるようにするためのスキル。天の神様には感謝したいが、最初から自由に振るえたわけではない。それ相応のエナジーと生命力を要求される。レベリング式典の日から半年ほどは、顕現して握っただけで、糞尿を垂らして気絶していたよ」


高揚のままに長々と口を動かす悪魔。


「その羞恥と屈辱を乗り越え、3年生となった私はこれをものにした。青薔薇(ブルーローズ)の存在ような奇跡をものにし、青き規律(ブルーローズ)のリーダーとなったわけだよ」


「華々しい…とでも称賛すれば見逃していただけますかな…」


息の浅くなったツリー同様、次第にワタクシも呼吸が困難になる。


「殺しはしないさ。おデブなお仲間さんのように拘束するだけだ。ただ、殺してしまっていたかもな。この槍のスキルで…ふふ、物知りのあなたには説明は要らなかったかな」


『海神の魔槍(トリアイナ)』に宿された海神のスキルは3つ。


そのうちの1つ、『深海夢想(ナイトメア)』。刃先に触れたものに、まるで海中に閉じ込められたような、激しい幻覚を与える。半身がタコでなければ、今頃、ワタクシの肺は勝手に地上で活動を止めていた。


「水と相性のいいあなたたちでなければ、死んでいただろうな」


それを笑いながら語る少女。


「もしもし、ユミコ」


そして、端末を開き、仲間に連絡する。


「タナト教団の二人、捕まえたよ。私単体でやれたってことは、多分、下(・)位(・)の人たちかな?」


このサディスト。


下位の部分を強調し、女子中学生ながらその端麗な美顔を悪魔のようにゆがめ、3つの内のスキルの1つを使い、ワタクシたちを拘束した。


「樹の檻の解き方も尋問しなければだし、やりがいしかないな。…ふん、ユミコには言われたくないな。お前も大概、人の心なんかないくせに」


晴天の下の悪魔。


上に傾きかけた日常は、再び深淵に引き戻される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。