Lv50 有言実行
真っ暗闇。
うっすらと空気が通る闇の中、『日照』を調節し、周りを照らす。
照らさなければよかった。
「うぅ…テリヒメ」
見知った顔。
「大剛くん!?」
レッドフレームのメンバー。遠征隊の帰還分隊でも、私を守ってくれた仲間。その彼が、蔓のようにしなやかな木に手足を拘束され、蒼白い光を吸い取られている。
「すまんな、また俺たちはお前を守り切れなかった…」
「そんなことない…ないんだから」
大剛くん以外にもレッドフレームの人間たちが彼同様に捕らえられ、
「ああ…天王寺テリヒメか…」
学内最優秀と名高いブルーローズの人間も何人か捕らえられている。
彼ら以外にも、教師や生徒まで。
私が入れられた檻は、もっと小さいはずなのに、ここだけ空間が歪んでいるように広すぎる。ゆえに、100人は収監され、同様にエナジーを吸い上げられている。
「みんなの自由を奪ってエナジーまで…許せない!」
なぜか私だけが縛られていない。『太陽』を神格化するあのタコの指示か。
『手荒な真似をするなよ? 『太陽』』
『陽光宿し』を手に取った私の頭上。真っ暗な天井から声がした。
『ここは、僕が作り上げた『祝福の大樹』。その洞』
さっきタコ男と一緒にいた、中性的な敵の声、確か『ツリー』という呼び名。
『乱暴な真似をすれば、僕もそれ相応の報復をしなければならない。例えば…』
「ぐっ!? ああああああ!!!!」
「大剛くん!!」
彼の手足を縛る木が、みしみしと骨を軋ませる。しばらくして、それが緩んでいく。
『分かったらその危なっかしい杖を降ろすことだな』
今は、従うしかなかった。
「許さない。出たら真っ先に燃やしてあげるんだから」
『品のない『太陽』だな』
「ええ、下品でも愚図でも何でもいいわ。とにかく、あなたたちは許さないんだから」
『それを行動で示せるといいな』
信じて待つしかない。
…本当に、それでいいのだろうか。
「みんな…、ごめんなさい…」
『そうだよ。自分だけは縛られない優遇。《《特別扱い》》されながら、命を吸われ続ける凡人どもを眺めていればいいのさ』
でも、今の私には、もう…。
△△△
「ほう」
いい脅し文句ではないか。
「だからさ、お前も降伏したらいいんじゃねえかって話。仮面の会長が倒れて、『妖狐』もシャドウが拘束中。教師も同じような体たらく。つまり、もうほとんど主力のいないお前らの負けだってこと。あとは藤井カナトを差し出せって話だよ」
立派な大木の檻をこつこつと複数回叩きながら、目の前の美少年、あるいは美少女が嗜虐的な笑みを浮かべる。
「善悪の区別がついていないお子様ね」
「はあ!? お前よりは年上のお兄さんだよ、この中坊!!」
「あら、それは失礼しました。おチビなお兄さん。レベルが低いから年下かと思っちゃった。ああ、『Lv』の数値もだけど、人間性のレベルも、ね?」
「お前ムカつくな…」
「『ツリー』、スキルに集中しなさい。短絡的な私怨で作戦を崩すことは許しませんよ?」
「わーってるよ!!! タコ!!!」
下半身がタコになっている男が私よりも年上だった美少年をなだめる。
「さて、お嬢さん」
美少年とは真逆で品のある風情で呼びかけるタコの壮年。
「こちらの彼の言葉、先ほどの仲間のスピーチの通り、ワタクシたちの希望は二つ。『月』か『太陽』の内の一人。そして、藤井カナト」
ぐふふふ、と不敵に笑うタコ。
「『太陽』が手に入り、一つは叶いました。ワタクシ個人としてはもう引き上げて、『太陽』に焦がされる準備をしたいものですが」
うねうねと動くタコ足に付着した、粘液のような液体が陽光に照らされて光る。
「脱線すんなよ、タコ。…つまり、分かるだろ中坊? あとは藤井カナトを差し出せば手荒な真似はしないって話。これで互いの平和が樹立されるって話だよ」
平和、ね。
手元に渦を発現させた。
「お前、バカじゃねえの?」
「ふん。おバカはあなたたちの方では?」
エナジーを収束する。『アレ』を出すために。
「ぐふふふ、どちらが愚かか、論ずる前にもう明白なのでは?」
「このタコの言う通りだっての、中坊。お前、『水のエレメント』だろ? 『Lv40』で俺たちよりも上だからって、2対1、それも水がほとんど効かない俺たちに歯向かうとでも?」
「その通りです。投降をお勧めしま…なんだと!!」
案の定、といったところか。
やはり、相手の驚く顔を見るのは楽しいものだな。
1年の時、模擬戦闘で初めて水無月オボロに尻餅を着かせた時からずっと、相手を驚愕させるのが愉快だった。
相手の目の色が、見ていた世界が変わる。相手にとって格下の私が急変したあの瞬間。ずっと私の上に君臨していた水無月オボロの、仮面の奥の焦り。
盤上をひっくり返したときの愉悦。
「ふっはははははははははははははは!!!!!!!!!」
テロリストよりも悪役みたいに笑ってしまう私は、最低な人間だろうか。もっとも、轟ヒビキや蛇塚ウロコがいる時点で、最も最低という地位にまでは堕ちないだろうが。
「あれは…あの三又槍は…!」
「物知りがいて助かるよ。説明なんて面倒だからな。さあ、ユミコみたく言うならば、タコ刺にしてあげる、ってところかな」
「おいタコ! なんだよあの圧力は! 説明し…」
踏み込み、美少年君の言葉を遮らせてもらう。
タコに近づく。上半身だけ人間なのは何とも不釣り合いだ。
有言実行の一刺し。
上半分の人体を守ったタコ足4本を、私の…私だけが所持を許された槍で引きちぎってみた。
ああ。
タコの足をした人間が無様に驚いてる。
海崎シアン。学内最強チーム・『ブルーローズ』のリーダーが、青く躍動する。




