Lv49 ランチタイム
「あらあら、お空も大変ね」
とんでもない雷の音響が鳴り響いて数分後の上空。
20体以上の怪鳥、どれも『Lv35』以上の表記を確認。
考えたわね、敵さんたち。
この時期の『銃撃隊』の主力たちは『抗魔大祭』前のため、E地区とその隣のD地区やF地区間に警護を強化させ、どうしてもA地区は手薄になってしまう。『剣士団』や『騎士隊』の多くは残っているけど、空の敵に対しては無力なスキルを持つ兵士も多いため、怪鳥の大群でも来ようものなら、容易に今のこの様相になる。
オボロたちのもとへとすぐに向かいたかったけど、完全武装に時間が掛かってしまって、無理そうね。
「かわいい弟たち」
「「「へい! 姉貴!!」」」
愛おしい三つ子を見やる。長男の一重郎、次男の二重郎、三男の三重郎の顔に曇りなし。臆する玉無しはいないようね。
「楽しい楽しい怪鳥狩りにしましょう。砲撃用意!」
「「「へい、姉貴!!!」」」
三重郎のスキル『エナジー供給』でチャージした車輪付き固定砲台。対大型生物および大型兵器ランチャー・『愛砲』。別名・龍砲。
その名の通り、口を開いた龍の頭から、高密度のエナジーを射出する。この国の軍玉で私の実母から貸与を許された超兵器。母から弟たちへの信頼の証。
その『愛砲』のエナジー弾に二重郎のスキル『速度上昇(無生物)』を付与。
銃創内のエナジー弾を破裂させ、銃口に沿って圧縮したエナジーを射出する、単発式のレーザー砲。
一重郎のスキル『エナジー拡散』で、すべての敵を鶏肉にする範囲攻撃を実現する。
「さて、算段通りに行くかしら」
ミスは許されない。
だからこそ、ぞくぞくする。
太腿の内側からすり抜ける風。首筋に走る緊張感。
ああ、なんて、
「闘争心…」
身体の中、いや、心の中で渦巻く、渦のような没頭。
あらゆるすべてを手放しているかのようで、あらゆるすべてを握っているようなこの土台のような浮遊。
あの性悪な蛇ちゃんを撃った時と同じ。狙撃手の、外せない重圧。
最後に私のスキル『弾道強化』を付与する。自分の、投擲や射撃と認識した行為を強化する。シンプルながらに、練磨すれば石ころで人の頭蓋骨くらいなら砕ける、神様から授かった小さな能力。
「砲撃の時間よ」
弟たちを下がらせる…前に、彼らは下がっていた。さすがは私の愛する弟たち。
スコープを覗くと、お空を自由に泳ぐ鳥さんたち。
「ごめんなさいね…処刑」
思ってもない言葉を口ずさみ、引いた引き金。
音を奪い取るほどの威力で照射された放射状のレーザーが、悪魔のように飛び回っていた怪鳥たちを全て消し去った。
「姉貴! やっぱ最高だぜ!」
「よっ、世界一!」
「ささ、姉貴、こちらへ…」
三兄弟たちが立てたベンチに座り込む。
「小休憩ね」
意識が逝っちゃいそう♡
エナジーの欠乏、なんてナンセンスな真実は言いたくないわ。
ごめんね、仲間たち。
ちょっとだけ、お昼寝させてね。
「ここにヨウコがいたなら、あのかわいいお耳を、舌で転がしながら《《はみはみ》》したかったのに。なあ、三重郎?」
「姉貴、ゆっくり休んでくだせえ」
△△△
「なんだよ今日は、花火大会か何か?」
「エナジーによる砲撃、ですか」
せわしなく鳴り響く大規模。それを笑う少年・ツリーと、事実だけを分析して納得するオクトの旦那。
勘弁してくれよ。
12時。
もうお昼時だってのに、飯も食えねえ。ああどっかに、文化祭として機能している、空気の読めない露店はないもんかね。
俺はただ、そう思うばかりだった。
早く帰りてえ。
俺の用事は済んだはずなのに、パニッシュのガキが暴れたせいでしっかり者のチェーンの旦那が帰還、それに伴って…
「オーファン、分かっていますね?」
「はいはい、わかってますよ旦那」
ああ、クソ。
やればいいんだろ…。
「さぼんなよ、おっさん」
ツリーのやつが余計な釘を刺す。当てずっぽうで放たれたそれに、図星を差される。
「ちゃんとやるっての」
頭を掻く。
どうすっかね。
つーかどうして俺が、
「藤井カナトの治療と拉致ねぇ」
その藤井カナトとやらは『月』と仲良しだって聞いた。『月』がいるなら俺なんかの弱い治癒なんて必要ないだろうに。
「頼みましたよ、光使い。さて、ツリー。私たちは新たな来客を迎えるとしましょうか。見るからに相性は…ぐふふ」
こいつらも、今からこいつらの相手をするだろう中坊も、どうしてそんなに楽しそうな顔ができるかね。
俺にはわからん。
普通に考えて、こりゃイカれた世の中だろ。
△△△
12時。
「どうだ劣等種よ!! 貴様らが我らに勝つことなど、笑止!!! 人間の時代など、終わってしまえ!!!」
廊下の、咆哮に揺れる窓の外から、惨劇が見える。
これが、俺の望んでいた景色…なのか。
『こちら『マグネ』。目的の教室へと向かっている。余談だが、あんたらの『序列・弐』が俺の…』
『ぐふふ、きっと殺しはしませんよ。彼とて、獣ではあるが愚かではない。歯向かえばボスが動く。彼は殺せずとも、彼の隠れた『同胞たち』はどうなるか分かりませんからね。ぐふふ…』
タコ男の言う通り、勝者の獣は、地面に伸された彼らを素通りした。
「拙者らは、単に殺しが好きではない。分かっていただけましたか? 新『序列・拾弐』」
隣を歩く『ウェイト』と名乗る男。若草色の髪をした男が口をはさむ。
「ケッ、分かったよ…」
「ずいぶんと重く心配してらしたので、軽々と寝返るかと思いましたよ」
「心配なんか…してねえ」
そうだ。飽田も、轟ヒビキも、水無月オボロも…結局あいつらだって子供。中坊だけの狭い空間を牛耳っただけで最強を気取っていた凡人どもなんだ。
偽物どもだ。
「おや、招かれざるお客のお出まし、といったところでしょうか? 拙者らに御用かな?」
顎に手を置き、余裕めいて笑うその先。
「…っ!」
なんで。
どうして俺の前に立ちはだかりやがる。
「トミヒコ」
岩城ゴウシ。
ちいせえ頃から何度も見てきたその面。お互い、女にモテるというには無理がありすぎる地味な俺ら。
それが隣の美少年、ムカつくぐらい顔のいい後輩・上杉ユウトと一緒に立つ。
「言い訳をしろ、トミヒコ。少なくとも、俺だけは聞き分けてやる」
落ち着いてやがる口調。
だが、全身はこっちからでもよく見えるほどに、震えてやがり、大槌を持たっていない方の手の、握る拳の隙間からは、血がぽたぽたと垂れ落ちた。
「早く消えろよ、お前らなんか…」
「聞いてはいけませんよ? 引き離しなさい、マグネ」
「っせえ! 分かってんだよ!」
スキル『磁力』で巨躯に狙いを定め、突き放す。
はずだった。
「ぬん!!!」
ああそうだった。
俺はこいつと相性最悪だったんだ。
岩城ゴウシのスキル『岩纏い』。エナジーで具現化した岩を、重鎧のように纏う。イエロースパークの盾と言われてちやほやされてる。
そうだ。
凡人のはずのこいつにすら、俺は模擬戦闘で一回も勝てなかった。
こいつと闘わなくなってから、忘れてやがった。
「トミヒコ!!!!」
旧友だった男の怒号が、廊下に響き渡った。
「この身が破砕してでも、俺がお前を連れ戻す!!!」




