Lv48 人間
体育館。
突然降り注いだ、雷が落ちたような音。
私たち、どうなるんだろう。
闘えない。
『タナト教団』となんて、真っ向から闘えない。
今だって。
「キシャシャシャシャ!! パニッシュのやつ! またイカれ始めやがったか!!」
E地区を襲ったらしい男が、汚い笑い声を館内に撒き散らすたび、胸が苦しくなる。
理由は精神的なものだけじゃない。
影に覆われた体育館は、空気が薄い。
「大丈夫だよ、箱守さん」
クラスメートの女子が手を握ってくれる。レッドフレームの代々木ヨモギ。
「大丈夫。先生がいる、生徒会だって、ヨウコ先輩も」
でも、震えが止まらない。
カケル。
いいからね。
私のことなんて気にしないで。
男の目が私の方へと向かう。
正確には、急に私の横に現れた『妖狐』へ。
気付くとみんな、その場から離れていく。私もそれに倣う。
「キシャシャ、炎を出してみろ? まずは可愛い後輩の命から削り取ってやる」
「超絶キモいやつ…かの」
どこか似合わないセリフを吐き捨てる赤のリーダー、紺野ヨウコ。彼女の全身が微かに震えている。放つ言葉も、まるで我を忘れていたかのように。
彼女すらも、手を出せないほどの危機。
『妖狐』の魂の生き写しだとしても、彼女はちゃんと人間だった。
目の前で手足を拘束されている少女。首元には大鎌の形をした黒い影。
敵に脅威として認定されたがゆえに狙われてしまった、私よりも年下の少女。
「ヨウコ先輩!」
その一年生は、自分の命が天秤に掛けられているくせに、勇敢に、彼女の名前を呼び、
「私は大丈夫ですから! 派手にやっちゃってください!」
わが身もろともと、相手を心配させないために笑った。
私なんかよりもずっと、レベルの高い女の子。ここでいうレベルというのは、人間としての器の話だ。彼女の2人の幼馴染同様、心が強い。
「できないかの…、助けたいのは、山々だけど…」
先輩もまた、レベルの高い人間としての躊躇を見せる。
カケルくん。
もう限界だよ…。
助けてよ。
△△△
ほう。
それもしのぎ切るか。
「お返しだ。『月光閃・三日月』
その名の通り、夜空に浮かぶ三日月のごとき軌道。受けた左半身が想像以上に揺れる。
『月』の血統は負傷していると聞くが、やはり情報通りの戦闘力。微弱な『月光』ながら、それを補う卓越した剣術。どこか、『奴』に似た太刀筋が、我の命を狙う。
ただ。
「うらぁ!!!!」
何の変哲もない平凡な蹴りが、腹部に命中する。
この粗野な小童は、何者だ。
『Lv45』。『月光』の小童と同じレベルだが、結局は『Lv50』の我よりも下。それも、スキル『獅子化』で人間の何倍もの身体能力を得ている。
だがその蹴りは、我のその『獅子』の肉体を貫通するように…。
「見ろオボロ! やっぱり俺の攻撃の方が喰らってんじゃねえか、このワン公!」
「貴様は蹴り飛ばしただけだろう。俺の刀は彼奴の骨を軋ませた」
しかし、なんともこの両名。
「いちいち自慢してくんなや。うっぜえ」
「貴様から言い出したのだろう。会話の流れも把握できんのか、愚物」
「てめえ、あとで覚えてろよ」
態度に反して、恐ろしく連携している。
近接戦闘のみで戦う互いは、互いの勝手をわきまえている。侮蔑と尊敬、混沌とした両者の関係。
60年前。『抗魔戦役』で戦った雷の矛と風の盾。『風神・雷神』と呼ばれた兄弟の連携を見ているようだ。
だからこそ。
「貴様らも、彼奴等のように解体して見せよう」
エナジー出力を上げる。
「きゃつらって誰だよ。知らねえやつの話すんな、鬱陶しい…って、うおっ!」
「下がれ!」
目つきの悪い小童が仲間に襟を引かれる。
気づいたか、『月』の血統よ。我ほどではないが勘が冴えている。あるいは『月光』がそれを感知させているのか。
だが、もう遅い。
まずは、この粗野な相方の首を掴み…
「『施錠』!」
「ん?」
開いた手が閉じない。放たれたスキルの方向。拳銃のように我に指を向け、エナジーの欠乏により膝をつく小童。
やるではないか。低レベルながら、スキルの効果範囲を我の手に絞り込むことで拘束したか。全身に掛けられているなら我には効かなかっただろうな。賢明。
「ヒビキさん!」
眼鏡の少年の声。ヒビキと呼ばれた粗野な小童が右腕を後ろに引き、反撃の体勢を取る。
「悠長に溜めるなど、我もなめられたもの…っ!?」
避けられない。
手だけではない。
全身が…動かない。
「ヨウジ、お前ってやつは…」
血反吐を吐くほどにスキルを使ったのは、眼鏡の小童。
「最高にムカつく後輩だぜ!!!!」
拳に纏った強化は、眼鏡の『エンハンス』だけではなかった。
「みなぎってきたぜぇぇぇぇ!!!!!!」
微かに光るのは、『月』と呼ぶには次元の低い、弱き『月光』。朧げな、紛い物の光。
「『月光閃・名月』…貴様の体質では焼け石に水だが、虚無よりは足しになるだろう。…今回は貴様にくれてやる」
「そりゃどうも!!」
来る。
「歯ぁ食いしばれよ犬っころ! そんでもって、ど派手な文化祭をありがとなぁぁぁ!!!!」
「我は…、我らは不滅…」
無防備な我の肉体に到達した。
貴様らのような劣等種に、我が…我らが負けるのか!!!
『レオ』
ああ、ナナミ。
負けるわけにはいかないのだ。
『私はずっと、あなたを…』
我は何度、お前の価値を落とせばいいのだ。
直後、その記憶すらも再生できないほどの衝撃が、脳裏の世界を焼き切った。
『魔物化系』のスキルは、けっこうアタリのスキルです。
変身中は、該当する魔物の身体機能(エラ呼吸や翼での飛行など)と、その魔物のスキルが使えます。
エナジーの消費がやや大きく燃費が悪いですが、鍵くんの『施錠』ほどではないので、使い勝手は良い方です。
身体能力も人間時の倍以上になります。
その中でも『獅子化』は、トップクラスの魔物化で、身体能力は人間時の12倍。加えて獅子型の魔物が持つ強靭な牙と、相手を怯ませるスキル『咆哮』を兼ね備えてます。
ぶっ壊れです。1対1での近接戦闘はまず負けません。




